アフリカのテックエコシステムにとって、52億ドルを調達した2021年は過去最高の年であった。(Partechのデータによる)投資追跡プラットフォームAfrica:The Big Dealは、アフリカが2022年に70億ドルの資金調達を可能にするとの予測を示している。昨年の資金調達総額の大部分をフィンテックが独占し、アフリカのスタートアップに渡った資金の63%相当、30億ドルに上ったことは驚くにあたらない。TechCabalの資金調達トラッカーのデータによると、現時点でアフリカのスタートアップ企業は21億ドルを集めており、そのうちフィンテックは6億6,000万ドルと依然としてトップを占める。
アフリカのフィンテック優勢という状況がそう簡単に収まるとは考えづらいが、多額の資金を獲得しているのはなにもフィンテックばかりではない。他にもある今後注目すべきセクターをここで紹介したい。
AI
今年に至るまで、アフリカのスタートアップ企業はAIの話題に乗ることがなかなかできなかった。世界的にAI企業が360億ドルを集めた2020年、大陸のAI企業の調達額はわずか1,163万ドルにしかすぎなかった。AI開発へのこうした遅れが、第4次産業革命にアフリカが乗り遅れてしまうのではないかとの懸念を招き、デジタル化が進む世の中にあって、アフリカ人の未来に暗雲をもたらす原因となった。しかし、あるスタートアップ企業がきっかけで、アフリカのAI産業が注目されるようになったのだ。それがInstaDeepである。
注目の企業 InstaDeep
2014年にチュニジアのタタウイーンで設立されたInstaDeepは、意思決定AI設計により、さまざまな企業や業界の生産性の向上を可能にする。米国と中国が君臨する世界のAI競争において、InstaDeepはテクノロジー進化の形成に携わる唯一のアフリカのスタートアップ企業である。
今年1月、InstaDeepが1億ドルを資金調達したことは、アフリカのAI業界において記録的快挙であった。それにより、世界のAIシーンにおけるアフリカの活躍に期待が高まっている。InstaDeepは新型コロナウイルス感染拡大の早期探知システムや鉄道の運行予測システムの構築など、大規模なプロジェクトに挑戦する準備が整いつつある。現在このプラットフォームはオンライン利用のみだが、最終的にはモバイルアプリも構築する予定であるという。
エドテック
パンデミックがもたらした教育崩壊後、世界は効率的かつ効果的な方法で学習を継続するエドテックソリューションに目を向けた。業界が資金を呼び寄せる中、世界中の多くのエドテック企業がその恩恵に与る一方で、アフリカではこのチャンスを生かすことに苦戦した。2021年、世界的にエドテックが200億ドルを調達したが、アフリカのエドテック企業の調達額は4,000万ドルに満たなかったのだ。しかし、アフリカは教育危機に見舞われており、大陸の各教育レベルに属する1億人以上の子どもたちが学校に通えないという現状がある。アフリカにはまだエドテックの資金調達ブームは起きていないが、ここには巨大な市場が残されている。大陸の教育問題解決に乗り出すために、アフリカの企業による目覚ましい取り組みが行われている。
注目企業 Ulesson と FoondaMate
Ulesson
ナイジェリアのスタートアップ企業Ulessonは、昨年、アフリカで最も多くの資金を集めたエドテックプラットフォームである。Ulessonが、2度の資金調達ラウンドで獲得した額は2,250万ドルに上る。その活動は、エドテック分野では先駆的なものであり、資金調達ラウンドを経てTencentやOwl Venturesといった世界最大のエドテック投資家をアフリカ大陸に呼び寄せたと言えるだろう。
FoondaMate
南アフリカのスタートアップ企業FoondaMateは、まるで2人の友だちがチャットで会話しているように授業を進める高校生向けWhatsAppボットを提供している。先月、FoondaMateは、その異例のソリューションを国内のより多くの高校生に広めるために200万ドルを調達した。WhatsAppはアフリカで最も人気のあるソーシャルメディアアプリで、2018年現在、1億9,200万人のユーザーが利用している。FoondaMateの主な活動拠点である南アフリカでは、95%の国民が毎月WhatsAppを利用すると回答している。FoondaMateはコロンビア、メキシコ、ブラジル、インドネシアなど30カ国以上の40万人を超える学生を支援しており、10言語以上に対応している。今後数年でユーザー数5,000万人達成を目標に掲げ、そのための事業拡大もいとわないとTechCabalに語った。
クリーンテック
電力や再生可能エネルギーにアクセスできない世界人口のうち75%がアフリカの居住者である。投資家によるクリーンエネルギーへの資金提供の増加は、アフリカがこの難問を克服することに役立てられることになるだろう。現在の勢いがこのまま続けば、クリーンテックは今年フィンテックを追い越すことになるかもしれない最も有望な産業とも言える。これまでにアフリカ大陸で最大の資金調達を手にしたのはクリーンテック企業であり、また今年に入ってからも現状資金調達額第2位がクリーンテックとなっている。
注目の企業 Sun King
太陽光発電会社Sun King,は、アフリカとアジアの消費者に向けてオフグリッド電力へのアクセスを拡大するため、シリーズDラウンドで2億6千万ドルを調達した。ケニアでは操業開始から10年でユーザー数が1,800万人に達し、ナイジェリア、ウガンダ、ザンビア、タンザニアではその3倍に増えたことが伝えられている。Sun King,は事業展開している市場で従量課金制のソリューションを拡大し、ユーザーが大型家電製品にも電力を使えるようにするために1億ドルを投入すると述べている。
アグリテック
アフリカでは過去10年間、最悪の食糧危機に直面しており、ナイジェリア、チャド、マリ、ブルキナファソ、エチオピア、ソマリア、ケニアで2,700万人が極めて深刻な飢餓状態にさらされている。このまま何も手を打たなければ3カ月以内にさらに1,100万人が飢餓状態に陥る恐れがある。食糧価格の高騰、度重なる干ばつ、大陸での紛争、ウクライナ・ロシア戦争などがこの食糧危機を更に悪化させているのだ。国民の食糧を人道的な支援努力に頼らざるを得なかったアフリカでは、食糧の自給自足の必要性がこれまで叫ばれてはきたが、ここへ来て、それがかつてない程に求められている。TechCabalの資金調達トラッカーによると、アフリカのアグリテック企業は今年に入ってから、現時点で1億1,500万ドルを調達している。
注目の企業 ThriveAgric
2017年に設立されたThriveAgricは、クラウドファンディングから受けた融資を投じて、零細農家への融資、プレミアムマーケット、データドリブンアドバイザリーへのアクセスを提供する農業テクノロジースタートアップ企業としてスタートした。その後、Y Combinatorをはじめとするその名をよく知られたアクセラレータープログラムに参加し、幸先上々となるかと思われた。が、2020年にクラウドファンディングへの返済不能に陥り、事態は悪化した。どうやら、パンデミックがビジネスモデルに影響を及ぼしたようだ。だが、困難に立ち向かうことを称えるというアフリカならではの特性を発揮して逆境を乗り越え、ザンビア、ケニア、ガーナに事業拡大するための5,640万ドルの借入を受けて見事に立ち直った。こうして、2020年に危機を脱したThriveAgricが、この先簡単に消えてゆくことはないだろうし、少なくとも戦わずして退散するということだけはないと見てよさそうだ。
