MFS Africa社設立から13年を経て、3億2千万台のモバイルウォレットネットワークを構築してきた創設者のDare Okoudjou氏。

勢いに乗るモバイル決済フィンテックMFS Africaによる米国Global Technology Partnersの買収公表からわずか1週間、同社がシリーズCで増資1億ドルを調達したことが明かされた。これで、シリーズC初回の調達額1億ドルから2倍の増額を達成したことになる。

株式、債券の発行によるこの投資ラウンドは、未公開株式会社Admaius Capital Partnersが主導し、Vitruvian PartnersAXA Investment Managersのオルタナティブ投資部門(AXA IM Alts)が延長ラウンドで投資機関として新たに加わった。既存のAfricInvest FIVECommerzVenturesも追加出資し、Stanbic IBTC Bank NigeriaとSymbioticが債権資金を提供した。

中堅市場に特化したヨーロッパのプライベート・エクイティ企業Vitruvian Partnersにとって、今回がアフリカへの初の投資となる。MFS Africaへこれまで投資した機関にはLUN Partners GroupGoodwell InvestmentsAllan Gray VenturesEndeavor Catalyst and Endeavor HarvestEquator Capital Partners, Ulme B.V., Vlemeij B.V. 等が名を連ねる。

冬場への備え

2021年11月にシリーズC資金調達以降、MFS AfricaはナイジェリアでBAXIを買収し、ナイジェリア中央銀行からPSSP(Payment Service Solution Provider)とPTSP(Payment Terminal Service Provider)のライセンスを取得した。PSSPライセンスは、ナイジェリアにおいてデジタル決済の基盤となるインフラを構築する企業に対して発行される。一方、PTSPライセンスは、銀行代理店(エージェンシーバンキング)で利用されるPOS端末を展開するために必要となる。

報道発表の中でMFS Africaは、この増資の効果がもたらす点を次の通り示している。

  • アフリカ全域における拡大計画の加速
  • グローバルなデジタル決済エコシステムへの統合
  • アフリカと中国間のクロスボーダーデジタル決済を実現、また、それに伴うLUNパートナーとの共同事業によるアジア進出
  • ナイジェリアを超えて展開する加盟店、代理店のBAXIネットワーク急拡張計画 

MFS Africaは今回の資金調達により、同社にとっては最も新たな市場となるナイジェリアでの事業拡大も進める予定である。「今回の資金調達の一部は、ナイジェリアでの事業展開とBAXIを通じた市場シェアの獲得に充てられるのです。」と同社の創設者兼CEO、Dare Okoudjou氏はTechCabalとの電話インタビューに答えた。またBAXIとGTPの買収についてはこうコメントしている。

わたしたちは一筋縄ではいかない2つの市場で2つの大がかりなM&Aという、かなり異例のケースに取り組んだということになります。

MFS Africaは、ボストン・コンサルティング・グループの元パートナー、メーガン・テイラー氏をチーフ・オブ・スタッフとして採用し、3社の統合を主導している。併せてMillicom(Tigo)アフリカの元CFO、Julian Adkins氏を新CFOとして経営陣に迎えた。

前述した報道発表でOkoudjou氏は、MFS Africaの チャレンジ「journey to making borders matter less when it comes to payments(ボーダレス決済への旅)」に賛同してくれた新規・既存の投資機関に敬意を表した。そして、相互運用可能かつ持続的なデジタルインフラを構築することでアフリカ大陸間における決済簡略化を実現することこそ同社の目標であることをあらためて伝えた。

エクステンションラウンドと言ってもその形態は複雑で、場合によってはフラットラウンドの形をとっただけということもある。フラットラウンドは、企業が前回のラウンドと同じ評価額と条件で追加資金を調達する場合に行われるが、「エクステンション」とも呼ばれることもあり、企業が同じ評価額で異なる条件の全く新しいタームシートに署名する場合を指していう。傍から見ても、今回のケースがエクステンションラウンドであるのかは分かりづらく、このようにその詳細が明かされることも通常はない。しかし、Okoudjou氏はTechCabalのインタビューに対し、MFS Africaがラウンド延長に踏み切った理由をこう語った。

シリーズCラウンドへの参加に興味を示した投資機関は他にもある程度いました。ラウンドクローズの時点で、彼らはまだ投資に打って出ることができなかっただけです。いずれにせよ将来的にまた資本が必要になることはわかっていたので、そのためにも彼らとの対話は続けてきたのです。

ハイテク株が高値圏にあり、資本が自由にベンチャー企業へ流れるというこれまでにはない市場環境にあった11月、このラウンドはクローズを迎え、公表に至った。しかしマクロ経済の見通しに変化が生じ、特にMFS Africaのような成長段階の企業は多額の資金を必要とするので、追加資金の獲得に乗り出すことになった。「資金調達市場が変化していることを踏まえ、手の内のストックすべてを把握した上で、これから訪れる冬に備え、資金を調達する良いタイミングだと判断したのです。」と同氏は付け加えた。

そして、それは理にかなっている。と言うのも、この1ヵ月余り、民間市場の投資家やアナリストの間では、「今のうちにできるだけ資金調達せよ」という新たな合言葉が飛び交っているのだ。

大きな違いを生む基礎の積み重ね

成長段階の企業への資金提供を巡る喧々囂々で、実戦を交えた経験のあるアフリカ企業という価値のサインがかき消されてしまうことを、Okoudjou氏は危惧する。

成熟したエコシステムでの起業家の使命は、数ある利便性オプションの中で隙間を見出だしてイノベーションを起こすことにある。一方で、アフリカにおいてそれは、人々を経済圏に引き込むために必要となる基本的デジタルインフラの構築にある、と解き明かす。

また同氏は、資金調達の減速が取り沙汰されることで、創業者が自分たちのストーリーを伝えにくくなることを懸念する。それでも、短期的にはアフリカならではのストーリー性とその可能性、そして起業家の気概が最後には勝るのだと確信しているという。

中央アフリカ共和国の人と世界をつなぐアクセスの提供、YouTubeの収益化、ダカールの人々へ自作のドレスを販売する等のビジネスなら、それはやはりなくてはならないことでしょう。厳しい時代にはそれはなおさら言えることです。

氏の言うことはもっともであり、今回の1億ドルの増資はそれを裏付ける。MFS Africaは、アフリカの35カ国で4億台以上のモバイルウォレットをつなぎ、エージェントバンキング事業を構築し、アフリカの中小企業にとって重要な貿易相手となる中国との間でクロスボーダー決済を可能にする計画に取り組んでいる。ベンチャー企業の資金繰りが悪化したとしても、同社が解決に挑む課題や、その過程で獲得する様々な価値が失われることはないだろう。実際、マクロ金融環境の変化にもかかわらず、最初のクローズから6カ月後に延長ラウンドで資金調達するということは、MFS Africaの投資家が、良い条件下にあった時と本質的に同じ価値の獲得に賭けていることになる。これは、同社およびアフリカのフィンテック市場機会全体への顕著な支持傾向を示すものと言える。最後にOkoudjou氏は、アフリカベンチャー企業の同志へ向けた言葉で電話インタビューを締めくくった。

ここはチャンピオンが生まれる場所。ミッションに集中すれば、自ずと突破する力が養われるものなのです。そして、いかなる状況下でもそのミッションへのたゆまぬ努力が武器になることを示す先駆けでありたい、と私たちは望みます。