5月初め、TechCabalは、それぞれ異なるスタートアップ企業の従業員5人に、就職先を検討する際に重視する点は何かと尋ねた。当然ながら、全員が金銭的な報酬を上位に挙げた。しかし、それをさらに上回ったのは、企業文化であった。

私もそうですが、みんなお金が好きなんです。報酬は大きなモチベーションですが、それ以外にも大事な点はあります。給料が高く、福利厚生が充実していても、問題のある企業文化をもつ会社と、給料が安くても健全な職場文化のある会社のどちらかを選ぶとしたら、私は間違いなく後者を選びます。なぜなら、プロフェッショナルとして、それが私の成長に欠かせないことだからです。

Quick LookupのフルスタックエンジニアであるIbrahim Adeniyi氏

このインタビューの対象者は少ないものの、健全な職場文化がいかに重要視されているかがよく窺え、多くの従業員の意識を反映した結果といえるだろう。LinkedInは、2022年のグローバル人材動向レポートの中で、世界中の求職者の少なくとも40%が、就職活動の際に企業文化を重要な要素とみなしていることを示している。

実際のところ、健全な職場文化は殊の外重要であり、従業員の定着率を少なくとも40%は高めることができる。定着率が過去最高に高い時ならば、それは猶更のことと言える。現在、若者の65%が1年以上同じ職場にとどまりそうもないという調査結果もある。ジョブホッピング(短期間で転職を繰り返すこと)が横行する現在、離職率を上げる要因は他にもあるが、職場の文化がまず一番に挙げられる。

スタートアップの離職率が高いことは決して不思議ではない。しかし、スタートアップともなれば、雇用と再雇用でどれだけの支出が伴うかを考えると、その成長と成功の妨げとなる懼れがある。その額は、従業員の年俸の最大20%に相当し、管理職に至ってはさらにコストが嵩む。

では、アフリカ大陸のスタートアップはどうすればこの数字を抑えることができるのだろうか?従業員の定着率とエンゲージメントを高めるために、どのようにして健全な企業文化を取り入れたらよいのだろうか?

文化がすべて

18年にわたりトップブランドの人材採用に携わってきた人事プロフェッショナルで人材アドバイザーのOlufunmilola Bucknor氏は、まずはカルチャーとは何かを理解することからだという。

Olufunmilola Bucknor氏

文化とは、どのように考え、伝え、フィードバックするか、その振る舞いそのものなのです。それには、食事の仕方さえ含まれます。企業に明確な文化が根付いていれば、その社員は社会からも一目置かれるようになるでしょう。社員自身の人となり、話し言葉から、どんな企業で働いているのかが即座に分かるものなのです。

文化とは何か、どのようなものなのかを理解すれば、健全な文化を自身の企業に根付かせる手段を講じることができます。人は目を覚ましている間に、一番長い時間を職場で過ごします。もし、彼らの能力を最大限に引き出したいのであれば、環境を整えなければなりません。つまり、カルチャーとは、本質的に従業員のためだけでなく、組織のためにもあるからです。

仕事を通じた学び

Big Cabal Media(BCM)で人材育成の責任者を務めるTemitayo Samson-Grace氏は、ミッションとビジョンを明確にすることは、健全な企業文化の構築にも役立つと考えている。

Temitayo Samson-Grace

スタートアップのビジョンやミッションが明確でないと、人は自分の都合の良いように行動し始めるものなのです。チームが生産的であるためには、全員が同じ方向に流れる必要があります。ミッションに対する理解がそれぞれ異なっていれば、皆がバラバラに異なるペースで動くことになってしまいます。

明確なミッションを持ち、折に触れては、それをチームに伝えるようにしましょう。ミッション、会社の存在理由、解決に取り組もうとしている問題を理解してもらえれば、そのミッションを支える行動の定義に役立ちます。

前出のBucknor氏はさらに一歩踏み込んで、従業員が組織の中で自分の立ち位置を理解する必要性を強調する。

自分の目標が何であるかさえ知らない従業員がいる会社があります。仕事があることはわかっていても、目標が何なのかがわからない。そうなると居場所を失い、厄介なことになってしまうのです。

スタートアップがこれを解決するためには、従業員がビジネスにおいてどのような役割を担っているかを理解できるようにすべきであると言う。また併せて、スタートアップのほとんどが間違った目標設定とフィードバックを行っていることが見受けられると明かす。

人事査定の時にだけフィードバックすればよいというわけではありません。従業員が向上するためにフィードバックはあるべきものなのです。社員が人事査定を嫌う理由のひとつは、管理職のフィードバックに時間がかかりすぎることと、その内容が建設的でないことです。

査定は懲罰的であってはならない、そして、仕事にとって最も重要なのは学習することであると指摘する。

Bucknor氏は、「70:20:10の法則」を引き合いにして、スタートアップが建設的なフィードバックの方法を学ぶ重要性を論じる。

トレーニングや講座で学べることは限られており、実務を通して学ぶことが大半です。学習の70%は仕事から、20%はチームとの交流から修得し、そしてトレーニングや講座から得られることは10%に過ぎません。ですから、もしあなたのフィードバックが建設的ではなく、人々が仕事から何も学べないようであるなら、それは長期的に見て、組織や従業員に弊害をもたらすことになります。

福利厚生も文化のひとつ

適切な福利厚生を提供することで、スタートアップが企業文化を向上させることもできる。

従業員のニーズは、それぞれのスタートアップごと、時にはチームごとに異なります。

子どものニーズがそれぞれ異なるのと同じことです。そのニーズにどう対応するかで、子供との関係も自ずと変わってくるのです。

Samson-Grace氏

同氏によると、適切なインセンティブは、スタートアップ文化を高めることができるという。

経済状況を考慮し、従業員が家庭や職場で何に困っているかをヒアリングする必要があります。そうした負担を減らすことができれば、従業員が仕事に集中できる時間が増えるのです。

ナイジェリアの暗号資産スタートアップの1つであるHelicarrier社は、毎日のランチ提供と、ドルペッグステーブルコイン(*1)による給与払いでこれを実現している。「ナイジェリア在住のスタッフにとって、これはインフレ率上昇の影響から、水際で守られることを意味します。また、当社のビジョンや価値観を理解してもらうことにもつながります。当社は暗号資産の会社なので、暗号資産で給与を払っているのです。」とHelicarrierの最高業務責任者であるIre Aderinokun氏は、TechCabalのライブセッションで語っている。

女性従業員のひとりが生理用品パッケージの写真をソーシャルメディアで共有して最近話題となったスタートアップ、GetEquityはもう一つの例である。

うちの職場は思いやりがあって、毎月女性全員に生理用品を配布してくれる。最高に気が利いている❤️

twitterアカウントの社員のつぶやき

GetEquityのこの試みは、企業における福利厚生のコストや有用性について議論を巻き起こしたが、社員や人事チームの当事者にとっては効果を奏していると受け止められている。同社の運営責任者であるTomisin Akingboye氏はこう述べる。

福利厚生は、スタートアップに合うようにニーズを精査されるべきです。コストにあまり余裕がない企業もあれば、出費を惜しまない企業もあります。当社の場合、生理用品パッケージが喜ばれ、それにより従業員の士気が上がるのです。産休や育休、病欠と何ら変わりもなく、同じように重要なことと捉えています。

福利厚生について複数の従業員にインタビューした結果、この結論に至った、とプロダクトマネージャーであるUchenna Angel Kalu-Uduma氏は経緯を語る。

このチームには、素晴らしい文化の模範となるような例が多々あります。介護保険だけでなく、持病のある従業員のために特別な医療プランも用意されています。これらすべてが、社員として大事にされているという気持ちにさせてくれるのです。

正しい理解

スタートアップの中には、有害で問題のある文化の種がすでに根付いているところもある。たとえば、Bento Africa は、創業者による言葉の暴力という誤った企業文化が長いこと蔓延ってきたことを、過去に働いたスタッフも含めた従業員により最近明らかにされた。同じような例としてはFlutterwaveがある。このスタートアップも虐待やハラスメントという文化を、最近になって従業員に暴露された。

しかしこのようなスタートアップにも、常に変革のチャンスはある。

「そして、すべてはトップダウンで始まるのです。」とBucknor氏は言う。スタートアップ企業で繰り返し見られるのは、創業者やラインマネジャーのほとんどが「場当たり的な人事」を行うことだと、同氏は説き明かす。自身の仕事をうまくやれても、その人が他の人をうまく手助けできるとは限らないという。

創業者や管理職の多くは、ビジネスセンスはあっても、人材マネジメントのスキルに欠けています。よくある間違いは、正式な人材管理トレーニングも受けさせないまま、高い業績を上げている人を管理職に登用することです。ですから、変革を望むのであれば、トップダウンで行うべきです。

すべては創業者がスタートアップにおける人事の役割を軽視していることに起因すると、Akingboyeは見ている。

スタートアップを作るとき、創業者は往々にして、まずは従業員の採用からとりかかり、人事部門を後回しにしがちです。そして、最後になってようやく人事の専門家をチームに迎えるのですが、その時点で彼らがそれまでの足どりをたどることを創業者から期待されても、到底無理な話です。それではうまくいきません。

この問題を食い止めるために、成長やコンプライアンス同様に、創業者は人事を優先すべきだと指摘する。

優れた人事チームは、目標達成に貢献する優秀な人材を採用する手助けをしてくれます。ですから、健全なスタートアップを作りたいのであれば、人事体制を整えてください。そうすれば、望みを達成できるようになるのです。

*免責事項:Temitayo Samson-Grace氏は、TechCabalの親会社であるBig Cabal Media(BCM)の人材担当責任者である。

(*1) ステーブルコイン:米ドルや金などの「安定(ステーブルな)」準備資産にペッグしている暗号資産。ビットコインなどのペッグしていない暗号資産に比べてボラティリティを減らすよう設計されている。