先日、スーダンのフィンテック企業Bloomが、シードラウンドで650万ドルを調達したことが発表された。Visa主導で行われたこの資金調達ラウンドには、Y CombinatorGlobal Founders Capital(GFC)Goodwater CapitalVentureSouq、エンジェル投資家、Blaise MatuidiやKeiran Gibbsなどのプロサッカー選手も参加した。3月にウェイティングリストをアップして以来、同月末のクローズまでに多くの人々からの注目と賛同を集め、その数は10万人に及んだ。

今回の資金調達とスーダンのユーザー獲得に至った経緯について、TechCabalは同社の共同創業者兼CEOであるAhmed Ismailに話を聞く機会を得た。ロンドンのImperial Collegeで化学・原子力工学を学んだIsmailは、金融大手のGoldman SachsBarclaysで勤務した経験を持つ。金融部門を数社渡り歩いた後、2018年に起業家への道を歩むことを決意した。そして、何社か会社を立ち上げ、ある程度の成功を収めてきた。2021年5月、彼と共同創業者仲間は、スーダンと東アフリカで何かを始めようと思いついた。同年7月、Ahmed Ismail、Youcef Oudjidane、Khalid Keenan、Abdigani Diriyeの4人によってBloomは誕生した。 

創業者との出会いの経緯を聞かせてください。

Youcefは以前、Class 5というベンチャーキャピタルに勤めていました。数年前、彼はドバイで私と同じ建物に住んでいたこともあり、気心の知れた仲なのです。彼と一緒にいるときは、いつも企業やソリューションの話題でもちきりです。そんな中で、私たちは、スーダンに問題があること、その問題は東アフリカをはじめとする他の多くの市場も同様であることに気付かされたのです。

CTOのKhalidとは、Imperial Collegeで一緒にコンピュータサイエンスを学びました。またGoldman Sachsでは同僚として一緒に働いた経験もあります。当時、私は銀行の担当で、彼は技術系を扱っていたのです。これまでも暇さえあれば様々な仕事を一緒にしてきたので、彼とはいずれビジネスを興したいとかねてより思っていました。そんな折り、この会社を設立しようと決心し、金融テクノロジーのバックグラウンドを持つKhalidの存在はCTOにうってつけでした。

Abdiganiとは、共通の友人を通じて知り合いました。私たちは皆、同じ時期にロンドンに留学していたのです。その当時、ちょうど彼が修士博士課程を修了したのですが、そのことを踏まえて、共同創業者兼最高製品責任者として彼は最適な人材だと思いました。

3月のオープンからたった1カ月で、なぜこれほど多くの人をウエイティングリストに集めることができたのですか?

10万人を集めることができた理由は、いくつか考えられます。ひとつは、私たちが解決しようとしている問題の根深さに起因しているということです。実際、多くの人々が、同じ問題に直面しているのです。消費者にとって最も悩ましい問題に取組もうとしていることが大きいと思います。

2つ目は、ウェイティングリストに紹介制を取り入れたことです。ウェイティングリストに登録すると、紹介者の数に応じてリーダーボードにランキングされるのです。上位10名、次の100名、その次の1,000名と紹介者数に応じて、賞金を獲得することができます。だから、できるだけ多くの友人や家族を招待しようと、大いに盛り上がったのです。リーダーボードで上位にランクされれば、より高額賞金を獲得することができるので、ウェイティングリストが注目を浴びたのです。

また、ユーザーターゲットとしてペルソナ設定された一流大学の学生や若い社会人に直接働きかけのできる数少ないインフルエンサーを介して、ウェイティングリストを宣伝してもらいました。インフルエンサー向けのキャンペーンだけではなく、ソーシャルメディアでもターゲットを絞ったのですが、これが思いのほか効を奏したのです。私たちのブランドがまだ若く、新鮮で、魅力的であることにも助けられました。

ウェイティングリストからアクティブユーザーへ移行させるために、どのような工夫をされたのですか?

3月にウェイティングリストを公開したのですが、約10万人が集まりました。また、提携銀行の顧客にもサービスを提供し、さらに16万人増える予定です。ウェイティングリストを含めると、アドレス可能なユーザー総数は約26万人となります。3月末にウェイティングリストを締め切り、4月のうちに稼働を開始したのです。

当社にとってウェイティングリストにいる人々は、主にアドレス可能なセグメントに属します。彼らのアプリへの関心は高く、移行も簡単にできます。電子メールアドレスと携帯電話番号、そしてフルネームを登録してもらうだけですから。本人確認では、メールやWhatsAppメッセージ、SMSを送り、アプリが利用できることを通知します。ほんの僅かな本人確認プロセスさえ完了すれば、ユーザーとして登録されます。

ウェイティングリストからユーザーへのコンバージョン率はかなり高く、6月末現在、20,000〜25,000人がユーザー登録しています。その人数は日々増えつつあります。

今回のシードラウンドでは、他国へ進出するための資金を調達されましたね。どの国から始めるのか、またなぜその国なのかお聞かせください。

スーダンの消費者が海外にいる家族からの送金を瞬時に、しかも低コストで受け取れるようにすることが一番の課題です。銀行や従来の送金業者とは異なり、ドル建で送金を受け取り、預金することを可能にします。アプリで現地通貨購入から、現地通貨の利用、友人への送金、請求書の支払いまでできるのです。スーダンの本格的なデジタルバンクといったところでしょうか。

スーダンでは、バンキングシステムで送金する際の問題はかなり常態化していますが、私たちはどこよりも早く、より安全で確実な方法でこの問題を解決しています。スーダンは巨大な経済規模を持つ国ですが、ベンチャーキャピタルの観点から見ると、アフリカの主要経済国の中で最も投資額が少ない国なのです。こうした理由から、スーダンはフィンテック立ち上げに最適な市場であり、既存の問題の多くが従来の銀行でしか対処されていないという実態を察知しました。ご存知のように、フィンテックは銀行よりも消費者の求めに幅広く、迅速かつ効率的に応じることが可能なのです。

今回調達した資金は、スーダンでの事業拡大に充てられる予定ですが、同様の課題を抱えるアクセス可能な他の市場も視野に入れています。その筆頭はエチオピアで、年内には参入する意向です。来年早々には、さらに1~2市場への拡大を予定しています。

ような基準で投資家を選んだのでしょうか?

投資家を選ぶにあたっては、かなり具体的な理由がありました。GFCGoodwater CapitalVentureSouqは、フィンテックやコンシューマーテックの経験が深く、単なる資本の提供にとどまらない付加価値をもたらしてくれることから、この3社を選びました。Visaを選んだのは、Visaカードと消費者・加盟店向け商品の普及を迅速に進めるには、当社と利害が一致する強力な戦略的パートナーの存在が不可欠だからです。エンジェル投資家やフィンテック投資家については、業界特有の課題やハードル克服への支援という点を念頭において選びました。プロサッカー選手には、今後のキャンペーンでブランドアンバサダーとして、マーケティング活動での協力を期待しています。

スーダン・ポンドは、歴史的に見ても安定しているとは言えません。この切り下げに伴い、ユーザーの役に立てるような新機能を追加することは可能でしょうか?

スーダン中央銀行がスーダン・ポンドのフロート化を決めてから、ポンドは比較的安定し、銀行システムに外貨が流れ込むようになりましたが、長いこと不安定な状況であったことは事実です。スーダン・ポンドは信用されておらず、銀行に預金する人は誰もいなかったのです。私たちのアプリは、送金を米ドルで受け取り、使いたいときにスーダン・ポンドを購入することができます。預金は米ドルで、支払い時に現地通貨を使えるということを可能にするのです。

もう一つの特徴は、現地の決済ネットワークに完全に統合されていることです。ATM、POS、ローカルカード、銀行を接続する、現地の決済システムとの相互運用性です。つまり、ニューヨークやロンドン、ドバイにいる家族が、息子や娘へ送金することができるのです。そして、即座に送金を受け取ることができ、ドル建てで預金もでき、好きなときに現地通貨を使うことができるのです。

その他には、Bloomで貯蓄ができるようにすることも想定しています。その結果、より多くの預金がバンキングシステムに引き寄せられることになります。究極の目的は、スーダン国内および国外への資本フローをデジタル化し、バンキングシステムに資本を呼び込むことなのです。

これまでスーダンのフィンテックには、外資があまり参入していませんでした。Bloomというアイデアは、どのような経緯で生まれたのでしょうか?

スーダンとエジプトの違い、あるいはナイジェリアと南アフリカの違いで例えると、2010年代の前半に、ナイジェリア移民コミュニティから多くの人がナイジェリア本国に戻ってきて、ビジネスを立ち上げたという点があります。ナイジェリアの起業ブームは、移民コミュニティ出身者がナイジェリアに戻り、多くの素晴らしい仕事をしたことが引き金になりました。スーダンは、同じようなダイナミズムに欠けています。ビジネスを構築するために戻ってきた人は、それほど多くいません。移民コミュニティ出身者だけでなく、スーダンに住む人々も一緒になって、地元のスタートアップエコシステムを発展させることが重要であると考えています。スタートアップ企業では、人材育成、人材教育、採用、優秀な人材の適材適所配置など、多くの優れた仕組みが必要です。このような仕組みはスーダンには存在しないので、私たちはその構築に取り組んでいます。

スーダンでインフレから身を守るために苦労した友人や家族など、多くの個人的な経験に基づいてこのアイデアは生まれました。インフレに苦しむ友人や家族をこれ以上増やしたくないというのが、他の何ものにも勝る動機なのです。一方、私の祖父は初代の中央銀行総裁であり、アビジャンでアフリカ開発銀行を立ち上げた人物でもあります。私は彼の元で育ち、とてもかわいがられました。私がスーダンを支援し、スーダンの人々のためにビジネスを成功させたいという情熱は、祖父との関係に由来して受け継がれた信念でもあります。

発売後、インパクトの大きさをどのように数値化していますか?

まだ、運用に関する情報を開示するには時期尚早ですが、いずれはすることになるでしょう。当面はウェイティングリストからできるだけ多くのユーザーを獲得すること、そしてより重要なのは、ユーザーがアプリでどのような体験を望むかを理解し、そのために最適化することに注力していきます。指標について公に議論するにはまだ早すぎます。

当面の計画をお聞かせください。

もちろん、主軸は起業にあります。また、スーダンのエコシステムが何を必要としているのかも焦点を当てたいと考えています。伝えるべき一番大事なことは、私たちは起業のお手伝いをするためにここにいるということです。これまで製品づくりに多くの経験を積んできました。資金調達、契約交渉、企業・銀行双方との提携など、様々な課題に取り組んできました。スーダンで事業を望む、賢明で、意欲的な人がいるなら、私たちのドアはいつでも開いていることを伝えたいのです。

ビジネス構築のための具体的なガイダンスが必要な場合は、オフィスに立ち寄って話しを聞かせてください。もちろん、資金調達のお手伝いもしますし、直面する技術的な問題にも対応します。スーダンとこの地域に緊密なネットワークを持つ私たちなら、ビジネス構築に役立つ人を紹介することができるでしょう。エコシステムには多くの草の根レベルの作業とビルディングブロックが必要だと考えています。スーダンのエコシステム支援に取組む先駆者として、ビルディングブロックの作業であれば、喜んでお手伝いします。まだ何も言える段階ではありませんが、近いうちに発表できることになるでしょう。

ここで挙げたことは、私たちなら努力や時間をさほど要せずに可能にすることができ、そして何よりもそれはエコシステムにとっても有益なことでもあるのです。