2022年に入ってから、米国、アジア、欧州のマネー市場は下落の一途をたどっている。ベンチャー企業の資金調達の鈍化、株式市場の急落で、株式公開(IPO)した企業のうわべだけの評価額は目減りした。採用を凍結するか(NetflixMetaGoogle)、人材プールの大部分を解雇するか(ShopifyCoinbaseRobinhoodMicrosoft)、完全に閉鎖する(FastHaus)か、そのいずれかの選択を企業は迫られている。

ベンチャーキャピタルは、以前のように小切手を切ることに乗り気ではなくなったが、誰が彼らを責めることができるだろうか?巨額資金を速いペースで投入するスタイルで一躍有名になった巨大企業Tiger Globalでさえ、2月には混乱をきたし始めた。そして、株式公開予定の大規模なレイトステージ企業が優先されることはもはやない、とウェビナーで投資家に伝える事態に至った。このシフトにより、アーリーステージのファンドが、アフリカに潜む莫大な投資チャンスにより多くの期待が寄せられるのでは、との見方もされている。昨年末から今年初めにかけて、Tiger Globalと、同社と緊密なパートナー関係にあるSoftbankは、アフリカで開示された最大規模のシードおよびプレシード案件のいくつかに参加し、「初期投資家のためのファンド」という新たな方向性を幾分固めつつある。しかし、皮肉なことに、大量の資金を集めると予測されたこれらのアーリーステージ企業のほとんどが、資金調達に苦戦しているのも事実だ。この週末、ナイジェリアのプレシリーズAステージ創業者は匿名でこう打ち明けてくれた。

アメリカのベンチャーキャピタルは小切手を出してくれません。ニューヨークとサンフランシスコで1ヶ月近く過ごしましたが、何も起こりませんでした。今、得られた唯一のゴーサインは、ヨーロッパのベンチャーキャピタルからだけです。

また、別の創業者はTechCabalにこう語った。

話をしたアメリカのベンチャーキャピタルのほとんどは、この不況がいつまで続くのか、様子を見ているようです。しかし、果たして企業にそんな余裕があるのでしょうか?

アフリカでは、世界の他の地域に比べてベンチャー企業の資金調達が若干増加しているとはいえ、景気後退とその多大な影響から免れることはできない。サンフランシスコに拠点を置くベンチャーキャピタル、DFS LabのパートナーであるStephen Deng氏は、かつてTechCabalのインタビューを受けて、こう述べた。

アフリカでの資金調達減速の影響が現れるまでには時間がかかるかもしれないが、最終的にはアフリカのスタートアップ企業はベンチャー資金調達の前例のない事態に適応する必要があります。

予想に反して、その影響が波及するのに時間はかからなかったようだ。例えば、アメリカの酒類スタートアップ企業であるHausは、1,000万ドルの新たな資金調達のためのタームシートに署名した後、そのリード投資家が撤退してしまったことがある。それと同様の現象が、今、一部のアフリカのスタートアップ企業にも起きていると噂されている。The Informationは、ニューヨークを拠点とするプライベートエクイティ&ベンチャーキャピタル企業であるInsight Partnersは、ナイジェリアのフィンテックDuploのシードラウンドをリードするためのタームシートに署名後撤退したことを報じている。Deng氏が述べたように、多くのアフリカの創業者やCEOは、ベンチャー資金調達のかつてない局面に適応して頭角を現すために、戦時中の実行部隊のごとく、経費削減し、逃げ道を確保するためにスタッフをレイオフしているのである。

2022年上半期に3億1,700万ドル(2021年上半期比135%増)を調達したエジプトでは、レイオフ旋風が巻き起こっている。UAEに本社を置くエジプトのライドヘイリングスタートアップ企業のSwvlが5月に従業員の32%をカットすると公表した。その後、他のベンチャー企業やエジプトのスタートアップ企業も後に続いた。2020年に4,000万ドルを調達した医療技術スタートアップ企業のVezeetaは、500人いた従業員の10%を解雇した。Wamdaによると、Careemが支援するフードテックのElmenus、2021年に3,300万ドルを調達したB2B eコマース小売プラットフォームのCapiter、最近4,400万ドルのシリーズAを調達したトラック運送スタートアップ企業のTrella、eコマースイネーブラープラットフォームの ExpandCartは、いずれもこの時期の不安定な経済に対処すべく従業員を削減しているという。

中には、マスコミの注目を浴びないよう、ひっそりと解雇を行う企業もあれば、発覚してしまったケースもある。例えば、ケニアの物流スタートアップ企業Sendyは、同社を解雇された従業員によるLinkedInの投稿により事実が判明した。同社は後に、従業員の10%を手放したことをTechCabalで認めることになる。「この動きは、世界のハイテク企業に影響を及ぼす事態に対応するものなのです。」と、Sendyの共同創業者兼CEOであるMesh Alloys氏は声明を出している。 同様に、Y Combinatorが支援するエンドツーエンドのインフォーマルマーチャント流通プラットフォーム、MarketForceは、2022年2月にデット・エクイティによるシリーズAラウンドで4,000万ドルを調達したが、7月に従業員の9%を解雇している。興味深いことに同社は、Y Combinatorが翌月に世界のスタートアップエコシステム全体における資金調達市場の冷え込みを危惧したにもかかわらず、その直前の4月いっぱいまで、採用活動を続けていたことである。

フランス語圏のアフリカでは、フィンテックのユニコーン企業であるWaveが、従業員の15%を削減した。これまでの拡大計画を撤回し、2大市場であるセネガルとコートジボワールへ注力を倍増させた。

ナイジェリアでは、エンジェル投資を民主化するスタートアップ企業GetEquityがシードラウンドのクローズに苦戦している。しかし、同社は従業員解雇の代わりに、給与を30~50%カットしてコストを削減し、事業を存続させている。

「キャッシュフローの黒字化に向けて、世界のベンチャーキャピタル全体で資金調達が一時停止しているという現在の災禍を、確実に乗り切りたいのです。」と、同社の共同創業者兼CEOのJude Dike氏は、独立系技術情報誌「Notadeepdive」に語っている。 

現在、国中で360度のマーケティングキャンペーンを展開しているナイジェリアの暗号通貨企業Quidaxも、従業員の給与30%、チームリーダーの給与50%を削減していると報じられた。TechCabalの取材に応じたGetEquityQuidaxの従業員によると、失業に追い込まれるという心無い仕打ちに比べれば、むしろ賞賛に値するアプローチだという。「世界的に何が起きているのか事情は察しています。だから、雇用主が、このような対処法を選んでくれたことはむしろありがたいことです。」とQuidaxの社員は評価した。

前述したように、従業員を解雇するスタートアップ企業が話題になったが、それは大陸全体で今後数カ月間に起こると予想されることの序章に過ぎないだろう。ナイジェリアをはじめとする大陸の国々では、さらなる人員削減が迫りつつあるという噂が流れている。

容赦のない言い方をすれば、実はベンチャーキャピタルの資金調達冬の時代の到来は、シリコンバレーと同時にアフリカへも到達したのである。市場のニュアンス(比較的低めのバーンレート)、初期の好調な動き(2022年第1四半期に調達した巨額の資金)、アフリカのテックエコシステムの有望性を巡る一連の熱狂的な語り口から、アフリカは資金調達の低迷とは無縁であるかのように思われていた。だが、現実は明らかに違う。

景気後退の前に資金調達したスタートアップ企業の中には、より多くの逃げ道を見出す企業もある。一方で、現在資金調達している企業は、厳しいデューデリジェンスに直面する以外に、ほとんどの場合、ダウンラウンドを行っていると、ケニアの創業者が匿名で語ってくれた。ダウンラウンドとは、スタートアップ企業が前回のラウンドで売却した価格よりも低い価格で株式を売却することを指す。

このように不確実な状況下で、1つだけ確かなことがある。他のすべてのエコシステムと同様に、アフリカのスタートアップ企業は冬の到来を感じており、自立するための方法を迅速に見つけなければならない。一時のレイオフや減給によるコスト削減だけでは、彼らを救うことはできない。アプリのダウンロードやユーザー数といったうわべだけを飾る成長指標にこだわらず、ベンチャーキャピタルマネーマーケットが再び強気に転じるまで、実質的な収益と利益を生み出すことこそ、優先しなければならないことだろう。