Lin Dejean Yun氏は、26歳の時に最初のビジネスを立ち上げ、その後撤退した。彼女は、Fintech企業向けのデジタルIDセキュリティを提供する会社を、フランスの多国籍通信企業Orangeに売却したのだ。
そして、2008年からは週末の余暇活動として、スタートアップ企業への投資を始め、投資銀行家となった。
私たちは十分な貢献をしているとは思えませんでした。そこでPatrick Linden氏と出会い、実行力と意欲のあるアイデアや起業家に投資するようになったのです。」と、Dejean氏は語る。「創業者を少しでも助けたいという熱意から、自分たちの経験や企業での実務から方法論を一部取り入れました。
2019年にセネガルのダカールに移住したDejean氏とLinden氏は、翌年、連続起業家でサイバーセキュリティの専門家であるNathalie De Gaulle氏やOlivier Bariety氏といった新しいパートナーを得てTranscendance Venture Capitalを設立した。
De Gaulle氏は、Societe Generale Corporate and Investment Banking (SGCIB)とEngieで勤務した後、ビジネスインテリジェンス、サイバーコミュニケーション、バイオテクノロジーに着目した独自の企業を立ち上げた。De Gaulle氏はその後、それらのうち何社か売却し、エンジェル投資家となった。
現在、Transcendance VCは、アジア、ヨーロッパ、中東、アフリカで事業を展開し、2つの異なるサブファンドを運用する。主に食料安全保障、エネルギー安全保障、持続可能性に焦点を当てるDejean氏は、Climate fundを管理する。De GaulleとBarietyの両氏は、中東・中央ヨーロッパにおけるセキュリティとサイバーセキュリティのプロジェクトに注力しており、アフリカも視野にいれている。Linden氏は、スタートアップ企業の規模を拡大し、上場させることに主眼を置く。
Transcendance VCは、現在アフリカのスタートアップ企業に最大で50万ドルを投資している。De Gaulle氏とDejean氏は、スタートアップ企業への投資に対する彼らのユニークなアプローチについて、さらに詳しい洞察をTechCabalに語ってくれた。
Daniel Adeyemi:Transcendance VCはどのようにして生まれたのですか?
Lin Dejean:私たちが起業した当時、シンガポールはVCからそれなりの注目を集めているというわけではありませんでした。しかし、2013年に最初の会社であるIBuyとFood Pandaをイグジットするや、VCの目が向けられるようになったのです。それ以来、アメリカのVCはシンガポールに流れ込み、同国政府の優遇政策もあって、東南アジア最大のVCセンターとなったのです。
私たちは、何か世の中に役立つことをしたいからここにいるのです。社名の「transcendance」は文字通り「超越」を意味しますが、それが象徴するところは、まず自分自身の殻を超えて、できる限りのことをしてみようとすることです。そして、周りの人たちや投資先の企業を巻き込み、その先で直面するどんな天井をも打ち破っていこうということなのです。
資本主義が現代にもたらした、女性にとってのガラスの天井、社会的差違・階級などを超越して何かに取り組みたいのです。
他のベンチャーキャピタルと異なる点は、ファンドの運用期間の短さにあります。通常の運用期間は12年なので、大抵10~12年かけてもなかなかイグジットができないのに対し、私たちは、3年から5年というタイムラインでイグジットを行う意向です。過去、自身の会社も同様でした。
設立前からすでにイグジット契約が成立している会社を構想することもあります。
並外れて優れたチームと、しっかりとした構造で成り立つ会社と一緒に仕事をすれば、それは可能です。なぜなら、イグジットできるまでに時間がかからないからです。これが私たちのビジネスの進め方です。VCの場合、リミテッド・パートナー(LP)はイグジットするまで報酬を得ることはありません。私たちは、皆が納得のいくイグジットと配当を創り出したいと考えています。
2016年には、英国で最も優れたVCファンドのひとつ、Passion Capitalの投資家となり、一種のダブルヘッジとして活用しています。というのも、南アジアで仕事をする場合、世界的に見て際立ってクリエイティブな市場というわけではないので、英国など他の市場のアイデアがそのまま転用される傾向があるからです。Passion Capitallに投資することで、先進国で起きていることを実際に見て、アフリカのような地域でも同じようにできるとわかり刺激になりました。また、Passion Capitalの最大のLP、Ellen Burbidge氏のような他のLPからも学ぶことはたくさんあります。
DA:最初のファンド以来、どのような投資経験をしてきたのですか?
LD:2015年に最初のファンドで3,000万ドルを調達し、フード、配送、Eコマース、リクルートなど、生活のさまざまな側面をデジタル化する企業にフォーカスし、後半にはインフルエンサーマーケティングを加えてスタートアップを盛り上げました。
その過程では、成功ばかりでなく、失敗もありました。近頃は、その失敗を糧に、アーリーステージのスタートアップ企業におけるマネジメントの重要性を意識しています。現時点で、スタートアップのチームメンバーとの相性を評価するための方法論を作り上げました。例えば、起業家に「チーム全員のマイヤーズ・ブリッグスのプロフィールを教えて下さい。」と依頼するようになりました。
このプロフィールにより、2人の社員がうまくいっているか、その人達のことを知らなくても、察知することができます。そう言うと、たいていの場合、起業家の方は驚くのですが、それを踏まえて、会社のフェーズに合わせてチームを再編成する経営戦略が立てられます。
また、異なる性格の人たちが一緒に働けるようにペットプロジェクトを追加したり、時には丸一日会社に泊まり込んでチームビルディングを行い、彼らが抱えているであろう、核心的な問題を実際に解決するゲームや方法を考案したりもします。外向型、観察型、思考型、判断型(ESTJ)だけのチームと組んだ例で言えば、ESTJの評価は、非常にダイナミックで、働き者のチームであると同時に、著しく攻撃的になることもある、ということになります。
そこで、地政学的な戦略ゲームをやってみました。ランダムにチームを混ぜて、いろいろな地域に分散させただけですが、その結果、皆、お互いを必要としていることを理解したのです。また、ゲームを通して他のメンバーがどう見えたかということも語らせました。
ゲーム終了後、チームメンバーはゲーム中の行動について非常に驚いていました。チーム再編の必要性をメンバーが納得したのは、それからのことです。
また、起業家の個人的な高い目標についても取り組む点が多くあります。ヒトラーのように極端なことを言う人に出会うことはまずないでしょうが、一概に高い目標を掲げる人はかなりポジティブなものです。そして、それついてもよく働きかける必要性があるのです。私たちはしばしば、起業家に、彼らの起業が個人の高い目標とどう合致しているかを尋ねます。そうすることで、エネルギーを回復させ、よりレジリエンスの高い起業家へと成長させることができるのです。
Nathalie De Gaulle: 私たちは、人を雇い、チームを育て、そして自分たちなりの失敗も経験してきました。会社を設立し、人材を育成し、最後に会社を売るために何が必要なのか、本当によく理解しているのです。
情熱的で献身的な起業家に会うと、同じようであった昔の自分を思い出し、彼らがやりたいことがよくわかるのです。というのも、VCにいる人たちは大抵、極めて良い教育を受け、金融畑を歩いてきた人たちばかりで、自身で会社を興したり経営したりしたことがないのです。ここに違いが出てくるのだと思います。それ自体は必ずしも悪いことではありませんが、スタートアップ企業の経営で培った経験はアドバンテージになりえるのです。
DA: 投資する際に、事前に、創業者やスタートアップ企業のどんなところに注目しますか?
NDG:非常に情熱的で、優れた製品とチームを持つ起業家を探しています。大事な要素となる、製品、チーム、タイミング、この3つが揃わなければなりません。
中でも、製品はキーとなります。超一流のチームがいても、製品が悪ければうまくいかないからです。そして、マーケットとタイミングを合わせることが肝心です。なぜなら、企業への投資タイミングが早すぎても、遅すぎてもいけません。ましてや、遅すぎた場合には、早い者勝ちで終始してしまいます。Linが言ったように、人を育てるということは、心理学者のようになって、その人がリーダーとして適性があるのか、それともシャイでコーチングが必要なのかを見極める必要があるのです。
LD: Natalieの話に付け加えると、プロダクト・マーケット・フィットという点では、シンガポールのようにVC市場のプロダクトが成熟していると言われる市場でさえも、マネジメントが問題になっていることに驚かされますね。ここでは、良いプロダクト・マネージャーを確保することができないのです。私たちは、コロナ禍にとても時間を持て余していたので、プロダクトマネジメントの方法論を練り上げました。より多くの問題を見つけて、進化する製品を作るのです。これを「マーケット・ディスカバリー」と呼んでいます。私たちが指導し、投資するすべてのスタートアップ企業には、恒久的な市場を見出すメカニズムが組み込まれているのです。
DA: Transcendance VCは他と何が違うのですか?
LD:私たちは、インパクトを重視し、収益性の高いビジネスモデルやスタートアップ企業を求めているのです。例えば、私たちの気候変動基金は、グリーン物流(再生可能エネルギー)と農業という2点に絞ってスタートしています。これは単純に聞こえますが、大きなメリットがあるのです。例えば、アメリカやヨーロッパでは、ある土地に農業機械やその他の装置等を導入することで、より高い収穫高を得ることができます。収穫量の少ないアフリカでは、そうすることで、いとも簡単に食糧生産量を2倍にすることができるのです。
インパクトが必ずしも慈善事業ではないことを世界に示したいのです。
DA: リスクをどうやって見極めますか?
NDG:負債が常態化して、そこから抜け出そうとしない会社は、間違いなく危険ですね。なぜなら、私たちは何をするにしても、昨日よりも良い結果を出すためにここにあるのだという信念があります。
これは、転換社債の話ではありません。ビジネスによっては、常に赤字を出し、収支を合わせる計画もないようなモデルもあります。これではLPもなかなか納得しないと思います。
ハイペースで成長しながら、収支をプラスにする計画も可能です。アジアには、毎月20~100%の成長を続け、1年半以内に収支を合わせる計画を立てている企業があります。
また、フルコミットメントしてくれる人も必要です。趣味やパートタイム感覚の起業家は論外で、100%全力で参加してもらわないと困ります。私たちがフォーカスするのは、大陸に住む、地元の創業者です。ヨーロッパやアメリカから会社を経営するために戻ってくるだけの創業者には投資する気はありません。
DA:デューデリジェンスはどのように行っているのですか?
LD: 私たちのデューデリジェンスには、各創業者の法的プロファイルをチェックするために企業構造について話を聞くという古典的な側面があります。起業家が物流会社を経営しながら、eコマースのアイデアのために投資を求めるケースもあり得ます。ビジネスの現状とあるべき姿に差があると判断した場合、広範囲に渡る分析によって、起業家にその結果を知らせ、解決するために何をすべきかを伝えます。
デューデリジェンスは、企業の準備状況にもよりますが、1ヶ月から3ヶ月の間に段階的に行われます。企業が義務を果たせば資金を提供し、起業家がいなくなれば出資を控えます。
起業家たちに、実行力が重要であること、そして、スタートアップ企業の中で実行する人にはそれ相応の報酬が与えられるべきであることを、本当に理解してもらいたいと願っています。
DA: 市場のトレンドについて考えを聞かせてください。
LD:アフリカのインパクト・プロジェクトに、より多くの民間資金が投入されるようになったのは、喜ばしいことだと思います。持続可能なインパクト・プロジェクトについて考える人が増えているのです。
一般的に、アジアでは気候変動に焦点を当てたファンドが多くなっていますが、同業者は、自分たちが世の中を変えようとしているという実感が湧かないと言います。私たちがアフリカで行っていることを伝えたら、より測定可能で直接的な関りが見えてくるでしょう。そうすれば、アフリカにもっと興味を持ってもらえると思います。アジアやヨーロッパでは、Web3(分散型の次世代インターネット)の領域に多くの資金が投入されています。NDG: 誰もがESG(環境・社会・ガバナンス)について触れますが、その中でも環境面、つまり気候に注目が集まっています。しかし、社会とガバナンスの側面も重要です。女性に特化したリーダーシッププログラムを作ることも検討中です。アフリカ、ヨーロッパ、アメリカのビジネススクールと提携し、スタートアップ企業や大企業と一緒に仕事をするというのも、いいアイデアかもしれませんね。
