フィンテックは今や、アフリカテクノロジー業界における寵児と呼べる。今世紀に突入した頃は地味な存在であった決済というサービスが、今ではアフリカのイノベーションの中心的存在となっている。昨年、ベンチャーキャピタルからの投資のうち約62%がフィンテック企業に対して行われた。MAGNiTTによると、今年上半期で既に、ベンチャーキャピタル調達額の60%をフィンテックが占めるという。

これは、アフリカの技術力の高さを示す例であると同時に、アフリカへの投資促進にもつながる。しかし、フィンテックばかりに頑なにこだわっていると、思わぬ痛手を負うことになるかもしれない。

フィンテックが優位である理由

投資家は明らかに金融テクノロジーへの投資に夢中で、Twitterで「フィンテックがもっとあってもいいのではないか?」との議論を呼ぶこともある。従来なら、他分野の投資家を支援することに特化していた開発金融機関でさえ、フィンテックという疑似餌につられ、アフリカ最大のフィンテック企業に直接投資しているのだ。

それは何故か?投資家がフィンテックばかりに理解を示し、他分野への投資がそれによって追いやられていると苦言を呈した私のツイートに対し、Equidamのマーケティング責任者であるDan Gray氏は、次のようにツイートしている。

フィンテックは、より簡単なオンライン取引、資本へのアクセス、新たなビジネスモデルなどを可能にすることで、他のセクターのイノベーションを引き起こすことに役立つという説もあります。

しかし、投資家がフィンテックを好むのは、「他のセクターを解き放つ」以上に、ベンチャーキャピタルの仕組みに合致しているからである。ある投資家曰く、インセンティブ構造をよく見極めなければならない、ということだ。

つまり、アフリカでは、リミテッドパートナーからの資本調達を正当化するために必要となるベンチャーキャピタルシステムの発展を支えることができるのが、フィンテックということなのだ。

それに異論はないが、もう一歩踏み込んでみよう。

アフリカにおけるインフラ格差を埋めなければならない層のひとつは、テクノロジーをコード、データセンター、携帯電話へ取り込める金融分野であるため、フィンテック優位な状況となる。一方で、システム上の不具合を抱えたインフラから価値を引き出すことは、まだまだ難しいというのが実情だ。したがって、医療、農業、運輸などの分野は、ユニコーンを求める投資家からは、少なくともしばらくの間は、厳しい見方をされる状況が続くと思われる。ナイジェリアの大手フィンテック・ソフトウェア企業で、最先端のデジタル金融ソリューションを用いて持続可能な金融アクセスを推進するAdvansio Interactiveの設立から早5年が経った。続きを読む

機会費用

しかし、上記の理由がいかに説得力のあるものであったとしても、金融テクノロジーをアフリカのイノベーションの発祥とするためのコストが消えてなくなるわけではない。

まずは、セトリングだ。犯罪ではないので全く問題ないとはいえ、ウォール街で10億ドルの価値をつけて売り出す企業を求める際に外国の成長株投資家(多くの場合それにあたる)の気まぐれによってアフリカのイノベーションが優先されるという事実には、何か不愉快なものを感じる。

Sebastian Mallaby著『The Power Law: Venture Capital and the Art of Disruption』と、Tom Nicholas著『VC: An American History』(両著書を読むことをお勧めする)は、ベンチャーキャピタルがいかに革新をもたらすかを解説するだけではない。両書には、ベンチャーキャピタルの進化と過程が記されている。

これらの本を読んで印象的だったのは、ベンチャーキャピタリストと支援した企業の魅力的なストーリーよりも、そもそもベンチャーキャピタルとは、今日のシリコンバレー(SV)のプレイブックから生まれたものではないという事実だった。

初期のベンチャーキャピタルは、ユニコーン企業を追い求めていたわけではなかったようだ。10億ドル規模のポテンシャルよりも、純粋に商業的な強みでうまくいくイノベーションの基盤でもよしとしていたのだ。

1980年代のベンチャーキャピタルには、ステージのパイプラインがなく、そのため、アーリーステージの投資家は、単に次のステージの出資者に芋づる式に売り込んでいくようなものではなかった。

シリコンバレーのベンチャーキャピタルは、比較的歴史が浅く、億万長者の成功例もあるが、ことインセンティブとなると、深刻な欠陥がある。

アメリカはそれをうまく隠す傾向があるが、根本的な問題は、シリコンバレー外では抜き差しならぬ構造的な欠陥となりうる。

イノベーションに対してユニコーン企業を求めるというアプローチしかできないのであれば、当然、金融サービスのように抽象化しやすいセクターをデフォルトとすることになる。しかし、金融サービスは経済の重要な構成要素ではあるものの、そのうちのほんの一部に過ぎない。オンライン決済できるものは限られており、消費を促進するだけでは、あまり生産性に影響を与えない。ネットで簡単に購入できるから、単に購入者が若干増えるということでしかないのだ。

農業、医療・介護、インフラ、データなどのイノベーションは、短期的には魅力的ではないかもしれないが、主管となるイノベーションを構築する極めて重要な要素であり、金融市場にアピールするその基盤となるのだ。

シリコンバレーのインセンティブに左右されるイノベーションの機会費用は、ウォール街が潤うためのサイクルを永続化させ、インパクトは単なる副産物でしかなくなるという危険性がある。

失敗に終わったマリの肥沃な灌漑用地農業システムは、食糧難にあるアフリカの人々への支援として食品を生産・加工することで機会費用がもたらされるかもしれないため、中国、フランス、米国の開発業者による買い取りは続くことになるだろう。

アフリカのモバイルファーストとモバイルオンリーの機会費用は、デジタルフューチャーに見る明日の姿というインセンティブを欠くことになる。サービスの一消費者が管理する側へと一転するきっかけとなる適切なデータインフラを構築し維持する必要がないからだ。そして、崩壊した医療システムの機会費用は、期限切れに近いワクチンのために並ぶことを意味することになってしまうだろう。

さらなる戦略が求められるアフリカのイノベーション

VCが決済以外の分野にあまり投資しない理由は、そのイノベーションに強く賭けるための土台作りがまだ十分でないからであろう。しかし、この状況を変えるのであろう投資家とは、シリコンバレーのようにユニコーンを求める、変わり身の早い人たちではない。

スタートアップ法は、良識的な判断に基づいたものではあるが、アフリカの戦略的なデジタルビジョンを構築するための有効な手段とはなりえない。その大きな理由は、これまでのところ、単にシリコンバレー的な構造を取り入れ、それを模倣するように設計されているに過ぎないからである。

M-Pesaのような決済系システムやECショッピングばかりが注目を集めていますが、ここで声を大にして伝えたいのは、工業化というチャンスが置き去りにされているという実態なのです。」と南アフリカ産業開発公社で非常勤取締役を務めるNimrod Zalk氏は訴える。

つまり、アフリカのイノベーションに真剣に取り組むのなら、シリコンバレーが求める以上のことを検討し始めなければならないということなのだ。ベンチャーキャピタルはアクセラレーターとして重要な役割を担うが、何を、どのように、なぜ加速化するかを、一歩踏み込んで、よく先を見定めるべき、ということになるのだろう。