どのタイプの保険プランであれ、保険に加入しているナイジェリアの成人労働者は、わずか1%に過ぎない。自動車保険はナイジェリア国内の車の所有者が対象であるため、保険のセールス自体が大変難しい。持ち家がない限り、火災保険をかけようとは胸をよぎることすらないのと同じ論理だ。
最も魅力的な医療生命保険パッケージは、「起こって欲しくないけど、もし起きた場合」が保証されたようで納得がいかず、それにもましてちらほらと垣間見られる「どうせ自分にお金が戻ってくるわけじゃない」という反発に直面している。
保険は、予期せぬ出来事に対する将来の備えである。毎月、一定額の保険料を払い込むことで、万一何か起きた時、ゼロからではなく、その時点から補てんを受けられるという経済的な解決策を買うことなのだ。往々にして非常時は何かと不自由さが伴い、その状況下で一からやり直しすることへの不安を、値打ちが変わらない保険が解消してくれる。
では、なぜ保険プランがナイジェリア人の興味を惹かないのか?これは複雑な問題ではないと、Adia Sowho氏は見ている。
Etisalat Nigeria在職中、彼女は保険会社と提携して通信会社の顧客に保険提供を試みた。その話はさまざまな理由で立ち消えたが、その経験がこの市場の難しさにおける現在の見解に役立った。
VerifyMe Nigeriaが主催するアイデンティティテクノロジーと保険の接点についての最近のライブディスカッションDigital Identity Mattersにおいて「保険とは、かなり洗練された商品です」と、Sowho氏はコメントした。
ここで言う洗練さは、自身の所有物に見出す価値に現れる。理想的な保険の加入者とは、そのような所有物に将来何か損失が生じるかもしれないという不安に駆られ、その影響を最小限に留めるためには何かしらできる限りのことをするというタイプである。
しかし、ナイジェリア人の大半は「まだ私たちの思うところの洗練というレベルまでには達してはいない」とSowho氏と続ける。
ナイジェリアの保険会社AXA Mansardの最高デジタル責任者であるBayo Adesanya氏は、Sowho氏がこの問題の枠組みに取り組むことに賛同している。利便性と親しみやすさに大きな期待を持つ新興タイプの消費者へ向けた小売りがビジネスの原動力となり、それが保険業界の成長につながると確信している。
「今日提供されている保険商品は、そのようなセグメント向けに設計されていないので、ほとんど見向きもされません」と、Adesanya氏は言う。
この現状を改善するには、すでに慣れ親しんだ保険窓口担当者をもつ潜在的な顧客の需要に応えるよう、保険商品をカスタマイズする必要があると考えている。
その意味するところは、紙ベースの登録やアクセスシステムの代わりに、フィーチャーフォンを利用する人々のためのUSSD機能を統合することである。また、アジョシステム(*1)のような伝統的な回転型貯蓄信用講(ROSCA)から学ぶ余地もある。
これは、VerifyMeの共同創業者兼CEOであるEsigie Aguele氏へアピールする思考パターンである。現在の保険を巡る習慣を変えることは、文化へも影響を与える動きであり、すでに様々な保険に加入している人々に、「プレミアム」のような保険用語に慣れるよう適応させなければ、効果的に成し得ない。
しかし、Aguele氏は、VerifyMeが提供するデジタルアイデンティティーテクノロジーの活用を加速させる絶好の機会であると見ている。
2013年に設立され、2017年に顧客確認(Know Your Customer、KYC)テクノロジー企業に進化したVerifyMeは、Central Bank of Nigeriaのマネーロンダリング防止トラッキングという要件を満たし、tier-3基準に準拠したデジタル検証サービスを提供している。
現在、VerifyMeはナイジェリアの約16の銀行を含め、1ヶ月間に数万件の住所検証を行っている。この「検証エンジン」は、ナイジェリアのすべての地方自治体で保険顧客の資産検証に最適な処理能力を示している、とAguele氏は述べている。
「テクノロジーがある、今日APIもある。しかし、現状の市場を成長させるためには多くの規制や執行を要します。また、その一方で文化的な認識に変化をもたらすであろう経済的な問題にも取り組んでいます。」
ナイジェリアの保険事情に対するAguele氏の楽観主義には、17% のGDP貢献と500億ドルの価値を持つ南アフリカのマーケット情勢が背景にある。南アフリカの3倍の人口を有するナイジェリアのGDP貢献が、わずか1%に満たないわけはないというのがAguele氏の見解である。
Sowho氏は規制に頼ることでナイジェリアの保険業界が成長するという見方には懐疑的である。また、既存の規制を回避したイノベーションの試みも不可能であろう。
しかし、小規模から始めて、徐々にユーザーケースをスケールアップするというそのアイデアこそが、新たに捉え直したアプローチにより顕著な変化をもたらすものとSowho氏は確信している。当然のことながら、重要な保険コンポーネントとなるアドレス検証のように、デジタルアイデンティティシステムがそれを可能にすることだろう。
(*1) アジョシステムAjo system
ナイジェリアの伝統的な相互扶助の仕組み