この記事は、Backbaseのナイジェリア責任者兼西アフリカ地域マネージャーであるEmmanuel Onyeje氏がTechCabalに寄稿した内容を掲載したものである。
過去10年間で、フィンテックはナイジェリアで最も目覚ましい躍進を見せる産業と化した。何百もの企業が誕生し、近年では地元のスタートアップ企業へのファンド3分の2が流入し、2021年だけでも、この分野で取引された金額は7億ドルに及ぶ。しかし、暗号資産の暴落によるデジタル金融離れ、一連のスキャンダル、世界経済の不振、業界の過飽和状態といった昨今の事情から、ナイジェリアのフィンテックはやや陰りを見せているようだ。
とはいえ、これらは、まだ頭打ちになるにはほど遠い分野におけるある種の成長痛に過ぎないと見る向きもある。通信事業者がデジタル・ファイナンスに参入し始めたことにより、この分野での競争激化が予想される。その場合、従来の銀行業界が数十年かけて構築してきたアフリカ大陸の金融インフラの行く末が気になるところである。デジタル・ディスラプションの影響を受けて時代遅れになる危険性があるのか、それとも、デジタル化の流れに適応し、弱点を強みに変えることが果たして出来るのだろうか?
フィンテックミラクルの実現
ここ数年、ナイジェリアのフィンテック業界はかなり優遇されてきた。ナイジェリアには150から200社のフィンテック企業が進出しており、同国はアフリカのフィンテック業界をリードする存在として不動の地位を築いたように思われた。このセクターは、2020年に約4億4,000万ドル、2021年には6億ドル以上の投資金を集め、これはアフリカのテック系スタートアップが集めた資金全体の4分の1近くに相当する。ナイジェリアの場合、それはほぼ3分の2にも達する。
ナイジェリアのフィンテックの成長は、未開拓のアフリカ経済の可能性を見事に証明している。ナイジェリアでは、銀行サービスの普及率の低さ、スマートフォンの爆発的な普及をうまく利用している若年層、キャッシュレス取引の増加につながる最近の規制変更などの要因により、フィンテックのスタートアップ企業が成果を上げて成長している。
しかし、2022年は、ナイジェリアだけではなく、世界中のフィンテック・プロバイダーにさまざまな課題をもたらした年であった。新型コロナウイルス感染症の大流行がフィンテック業界に与えた影響は他のセクターと比べればダメージはそれ程大きくはなかったと言える。しかし、デジタル化の進展によってその基盤が多少強化されたとはいえ、世界的な景気後退からは逃れようもない。また、この業界は2022年の暗号資産暴落の影響を受けており、すべてのデジタル金融サービスの可能性に対して、世間は疑問を投げかけている。
だが、ナイジェリアのフィンテック・セクターにとって最も不都合な要因は、過飽和状態ということなのかもしれない。似たようなサービスを提供する200社もの企業の中から、消費者が1つを選ぶというのは、たとえ成長市場であっても現実的には難しいものがある。この分野の現在抱える課題を踏まえれば、これらの企業のうち半分でも将来を見通すのは難しいだろう。
リキャリブレーション
しかし、このような不利な状況下でも、フィンテック分野はナイジェリアだけでなく、世界中で発展し続けるだろう。利便性を飛躍的に向上させた他の多くの新たなテクノロジーと同様、この夢を叶える魔神を再び魔法のランプに戻すことは不可能に違いない。
今後数年間、ナイジェリアのフィンテックは衰退するかどうかの瀬戸際を迎えると思われる。この業界は市場の統合が進み、消費者もより高いレベルを期待することが予想される。フィンテックの投資家の中には、より大きな競合他社に自社を売却して現金化した方が、ビジネスとして望ましい成果を得られると思う人もいるかもしれない。
この嵐を乗り切るには、ナイジェリアのフィンテック分野の主要プレーヤーが団結し、分野外からの競争を食い止めるための共通の戦略を立てることも必要となってくるだろう。デジタル金融の世界では、大規模で確立されたユーザー基盤を持つ通信事業者が急速に進出しつつある。フィンテックは、ナイジェリアの1億人以上の銀行口座を持たない人々に、金融サービスの新たな扉を開いたかもしれないが、今、誰もがそのことに気づき始め、慌てて追いつこうとしている。
潮の変わり目
このような混沌とした、しかし著しく有利な状況の中で、従来の銀行は金融サービスの最前線に留まるためにより一層の努力が求められる。フィンテックと通信事業者の双方がユーザー獲得に本格的に乗り出す中、従来型の金融機関はこの機会を捉え、三つ巴の競争における主要な選択肢として位置づけられなければならない。
フィンテック業界は、従来の銀行口座を持つ可能性が最も低い年齢層となる若者への金融サービス提供において、目覚ましい成果を遂げている。しかし、これでは、ナイジェリア人の全世代が、銀行に対するニーズを満たす最も分かり易い、あるいは唯一の実行可能な選択肢がフィンテックなのだと捉え、従来型の銀行を面倒で時代遅れの機関として見なすことになりかねない。

銀行が21世紀を生き抜くためには、こうした新時代の顧客の期待に応え、店頭でスーツにネクタイ姿で接客することが信頼につながるという観念は捨てて、より親しみやすく身近なアプローチで対応する必要がある。金融サービスのデジタル化は永遠に続くのだ。銀行がするべきことはデジタルサービスを取り入れ、顧客のために使いやすいプラットフォームを構築することである。
銀行口座を持たない農村部や孤立した地域住民を取り込むためには、デジタル・インフラを構築する方が、物理的なインフラよりも迅速でコストもかからないことは明白である。銀行は、金融情勢が不安定な時代において、従来型の確立されたモデルを間違いのない拠り所として利用し、弱点を強みに変えることができるはずだ。
今後、フィンテックと通信事業者の競争が激化し、オンラインバンキングサービスを初めて利用する人の数がさらに拡大することが予想される。デジタル技術を持つ者と持たざる者との間の技術的な溝のどちらか一方に与するのではなく、従来の銀行業務とデジタル銀行業務の間のギャップを埋めることこそが銀行に求められている。アフリカのデジタル革命が本格化する中、従来の金融セクターが取り残されるわけにはいかないのだから。