ケニアには、毎週のように買い物に行けない不便な場所で暮らし、そのコストもかけられない人たちがいる。そのような人々に向けてdukasやWhatsAppはデジタルコマースを配信し、その普及が進んでいる。

Jumiaに代表されるAmazon型eコマースが発展する中、アフリカの起業家たちは、食料品や小型家庭用品を扱う街角の小売店の気軽さとショッピングモールの便利さを組み合わせたオンラインショッピングを模索している。東アフリカおよび他のいずれの地域のeコマースも、ダークストア(1)モデルに酷似した形態に変化しつつある。その大きな特徴は、フルフィルメントセンターとしてのハブ&スポークシステム(2)のような倉庫の再利用ではないという点である。ケニアではdukasと呼ばれる小売店自体が倉庫の役割を果たす。ケニアのナイロビやナクル、ウガンダのカンパラ、タンザニアのダルエスサラームの近隣地域では、デジタル技術を駆使した消費者の集約と集荷を行うこの独自のシステムが普及している。この変化の担い手となっているのは、実はほんの一握りの企業でしかない。

毎週の食料品の買い物は、ナイロビ市内のNaivasやQuickmartなどのスーパーマーケット、市内に点在するショッピングモールで済ませることができる。しかし、大多数のケニア人は、食料品や生活必需品を購入する余裕がないのだ。店舗数が少なすぎる上に、商品が高価すぎて賄えない。例えば、Naivasはケニア最大のスーパーマーケットチェーンだが、展開する店舗数は全国でわずか84店に過ぎない。その隙間を埋める役割が小売商店にある。特に、都市周辺部や地方では、高級スーパーマーケットが少ないため、小売商店が重要な役割を担っている。週に1、2度、ケニア人は、新鮮で安い食材が手に入るワクリマやムツルワの市場へ足を運ぶのだ。

携帯電話やインターネットの利用者が増えるにつれ、正規の金融サービスを受けられようになったにもかかわらず、Amazonに代表されるような初期のオンラインショッピングベンチャー企業の成長は横ばいとなっている。Amazonのビジネスモデルをアフリカで再現しようと、Jumiaがアフリカのオンライン小売市場としての地位を確立するために苦戦し続けている事実は、何よりも、投資家や起業家にとって、コストのかかる事業であることを明確に示している。(Amazon自体衰退してきているが)そしてこの3年間、アフリカのeコマース企業(および投資家)は、小売商店に販売する中間業者と競争する方向に決定的に舵を切ったのだ。

ナイジェリアの TradeDepot、Sabi、Omnibiz、東アフリカの Wasoko(旧 Sokowatch)、Twiga、Shop Topup、南部アフリカの Jabu などに代表されるこの B2B eコマースモデルは、アフリカ eコマースに投資するベンチャーキャピタルにとって憧れの存在となっている。2021年、B2B eコマース企業は2億5,600万ドル以上の資金を公開調達した。昨年はB2B eコマースにもかなりな金額が投資された。

B2Bのeコマース企業は、小売店で購入される商品の大半を取扱う、動きの速い消費財ビジネスの流通層をデジタル化しようとしている。また、パートナーとなる小売業者の在庫を豊富に維持できるよう信用供与も行っている。「小売業者がより多くの商品を、より良い価格で提供できるようになったときこそが、成功と言えます。」と、Wasokoの最高技術責任者であるTridiv Vasavada氏は見解を示す。

また、他の起業家たちは、デジタルショッピングに別の形で取り組んでいる。ラストワンマイルのeコマースをあきらめるのではなく、その消費者に商品を届けるために、小売商店を注文兼配送拠点として利用している。Copia Global、ソーシャル・バイイングとリテール・アグリゲーションを融合させたTushop、そして最近ではKapuなどが、このようなオンラインでの商品購入スタイルをリードしているスタートアップ企業の一例として挙げられる。

19世紀末のアメリカの地方では、中間業者、特に高額の請求をする店主に対して不満が高まるようになっていた。1872年、そんな折り、ある巡回セールスマンが、アメリカの田舎町の買い物客相手に商品カタログを郵送する会社をいち早く設立したのだ。Aaron Ward’s company、Montgomery Ward & Companyに続き、Sears、Roebuck & Companyも大都市以外の主要な小売チャネルから、通販カタログへと移行させた。通販カタログは、アメリカの急成長都市の商業地区にある百貨店の商品を提供することで、地方と都市を結びつけ、現代のeコマースの先駆けとなったのである。通販会社では、毎週売上を集計して、それに応じた出荷計画を立てることができる。鉄道改革により地方への戸別配送が可能になる前までは、地元の商店や郵便局で配達物を受け取っていた。

小売業の集約化も、同じような働きをする。簡単に説明すると、改良型C2M(Consumer-to-Manufacturer)モデルは、従来の流通経路の大部分をカットした需要を生み出し、消費者に低価格で直接販売することができるのだ。単独購入ではなく、共同購入に対して販売するため、1拠点あたりの注文密度が高くなり、物流オペレーションをより適切に管理することができる。

アフリカのeコマースでは、このようなデジタルを介した販売モデルの導入が進んでおり、Copiaはその一例である。

Jumiaがオンラインショッピングの利便性を求める中産階級という薄い層に的を絞ったのに対し、Jumiaと同じ年に設立されたCopiaは、収入は少ないが、手頃な価格の商品や日用品を求めるケニア人をターゲットにしている。特に大型ショッピングモールや小売店で気軽に買い物が出来ない地方の消費者という、極めて大きな市場に焦点を当てることを選択したのだ。

代理店ネットワーク Costco

Copiaは、ベンダーからの値下げ分を顧客に還元しているという。アメリカの小売大手Costcoが安価なホットドッグやロティサリーチキン、カークランドシグネチャーなどの商品を製造販売するのと同じように、オンライン小売会社は自社ブランド商品のラインを作り上げているのである。「私たちはCostcoのビジネスモデルを非常に高く評価しています。それは、Costcoが規模と品質のメリットを消費者に還元しているからです。私たちは、このモデルを今後も継続していくつもりです。」と、CopiaのCEOであるTim Steel氏はTechCabalに語っている。

同社は現在、Copiaブランドの砂糖と米を販売しており、2022年8月には、Copiaは2つめのパッケージ施設を開設して生産性を2倍に上げ、同社が言う需要の高まりに対応している。しかし、Costcoとは異なり、Copiaは大規模な倉庫型店舗を建設せず、その代わりにCopiaの約4万人の代理店ネットワークを構成する優良なdukaオーナーに支えられている。

2022年初頭、Jumiaのケニア担当だったSam Chappatte氏が設立したKapuは、同じ路線にひねりを加えたモデルを選択した。このサービスでは、グループで食料品を大量に注文することができる。そして、その費用は購入者間で折半することになる。このモデルは、Copia(およびエジプトのBrimore)のB2Cエージェントモデルと、ナイジェリアのPricepallyが採用しているソーシャルまとめ買いモデルを組み合わせたケースである。

Kapuは、主にケニアの一般家庭で消費される食料品や生活必需品を取り扱っている。「私たちのモデルで心がけているのは、消費者のオフラインにおける購買パターンをできるだけ真似ることです。」とChappatte氏は明かす。Kapuの代理店は、他の企業と同様に消費者の注文をサポートすることで手数料を受け取る小売業者となる。しかし、同社が目指すのは、Alibabaが手掛ける新たな小売コンセプトà la Hema Freshのビジネスモデルである。従来のショッピングとデジタル体験を組み合わせ、手頃な価格の生鮮食料品店チェーンの構築を視野に入れている。Hema Freshは、ゲティアのダークストアとほぼ同じように運営されているが、顧客が直接注文した商品を受取りに行くため、ラストマイルの配送コストが削減されるという違いがある。

「いずれ在庫を保有し、代理店がコンビニエンスストアになり、オンラインとオフラインが融合したモデルになっていくと思います。」とChappatte氏は言う。「全体として、我々と(Kapuの)代理店には、運転資金を固定することなく、より幅広い製品にアクセスできる機会があるのです。」

2021年にCathy Chepkemboi氏によって設立されたTushopは、Kapuの最もダイレクトな競合相手である。3社とも、代理店(通常、信頼できる街の小売業者)が注文を物理的に受け取り、対応する。

Tushopは、WhatsApp(Kapuはこの機能を展開する予定)とモバイルアプリで注文を受け付けている。一方Copiaは、顧客がオンラインで注文し、モバイルアプリとUSSDショートコードで注文に対応することができる。2022年12月、Kapuは800万ドルのシード投資を発表した。Tushopは300万ドルのプレシード資金を公開し、Copiaは2012年以来1億300万ドルを調達したと、ビジネス情報企業Crunchbaseのデータで伝えられている。

Kapu、Copia、Tushopといったアフリカのeコマース企業は、注文・回収代行業者となる小売商店主を通じて消費者に直接販売するビジネスモデルと言える。初期の形態の通信販売ビジネスのデジタル版レプリカと言ったところだろう。しかし、最新の共同購入/ソーシャルコマースの例は、中国のソーシャル購買アプリPinduoduoだろう。

ハイブリッド “chama “コマース

Pinduoduoは、Copiaと同様、都市部の低所得層や地方の消費者をターゲットにしている。Copiaとは異なり、TushopやKapuのように、Pinduoduoのマーケットプレイスアプリでは、購入者がWeChatなどの第三者のソーシャルネットワーク上で商品を共有し、友人、家族、隣人などが購入グループを作り、共同購入することができる。単独購入もできるが、大量購入のショッピング「チーム」に比べて価格は高く、注文から発送まで2日を要する。

Pinduoduoがアフリカの共同購入小売プレーヤーと異なる点は、販売業者と購入者のグループをマッチングさせるM2C(manufacturer-to-consumer)モデルを促進するマーケットプレイスであるという点だ。Copia、Kapu、Tushopとは異なり、Pinduoduoアプリ、WeChat、その他サードパーティーのSNSでシェアして共同購入を促すシステムなので、資本金はごくわずかなものである。そのため、受注・出荷拠点として小売代理店網を整備しており、加盟店が販売する在庫の物流・倉庫管理は行っていない。また、別の生鮮食品プラットフォームDuo Duo Groceryと取引する中国企業は、中国、オーストラリア、ドイツの農家と消費者を直接結びつけて、商品販売や広告販売で売上を得ている。

TushopやKapuのようなソーシャル・コマース・アプリは、早くから有望視されている。しかし、倉庫や流通のコストがネックとなり、一定の地域で十分な普及率(消費者のリピート注文や代理店)に達しないと、その地域に進出できないのだ。両社は現在、ナイロビで覇権を争っている。

その上、彼らのビジネスモデルは全く新しいというわけではない。ケニアでは、卸売業者から商品を大量に共同購入することは、すでに日常化している。品物が届く日に、共同購入したグループで集まってchamasと呼ばれるホームパーティーを開き、楽しみながら品物を分け合う。このコンセプトはありふれているが、毎日買い物するというスタイルとは異なる。しかし、TushopとKapuは、周知された既存の文化を利用して、社交の輪をさらに広げることができる。

ナイジェリアの定額制サービスBumpaは、InstagramやFacebookで販売展開する小規模起業家向けにウェブサイトやビジネス管理ツールを提供する。資本力に優れたコマース支援アプリだが、運用上の負担が少ない代わりにリアルなマーケットプレイスとしては機能していない。

一方、集約型小売は、地方や都市周辺のアフリカ人にデジタル・コマースを提供する手段として有望である。しかし、インターネット利用の増加や地方のインフラ整備により、代理店ネットワーク離れという懸念がある。「スマートフォン利用の増加は、アフリカの8,500億ドルのインフォーマル小売スペースにおいて、新たなレベルの利便性と効率性を先導するという大きな役割を果たすことになるでしょう。」と、先ごろWasokoのVasavada氏は述べ、これがWasokoのインフォーマルB2Bビジネスにとって追い風になると期待を寄せている。

しかし、これは両刃の剣である。スマートフォンの利用者が増えれば、その結果、消費もオンラインに移行し、店頭ではなくオンラインショップで直接購入する人が増えるかもしれない。インフラが整備され、データ通信料が安くなり、オンラインショッピングの習慣を身につけられるほど裕福なアフリカ人が増えれば、当然そうなるだろう。

DFS Labの共同設立者兼マネージング・パートナーのStephen Deng氏は、アフリカの消費者行動はまだデジタルに決定的にシフトしていないと指摘するが、アフリカのデジタル化は予測不能という状況である。この分野のすべてのプレーヤーは、代理店による転売や直受注のリスク、より有利な取引やキャンペーンを見つけて競合プラットフォーム間を立ち回るなど、競争の激化による影響に対処しなければならない。独占契約はその対策となるが、複数の代理店が有利な地域の支配権を争う際に必ず発生する価格競争に対しての効果は見込めそうもない。

(*1) ダークストア
ダークストアとは、ネット販売された商品の配送拠点としての機能を持つ店舗のことである。店舗内は、実際のスーパーマーケットと同じように商品の陳列がされているが、消費者が実際にそこへ足を運ぶことはないことから「ダークストア」と呼ばれている。

(*2) ハブ&スポークシステム
「ハブ」と呼ばれる拠点に一旦全ての荷物を集約し、拠点別に振り分けてから各拠点に向けて配送する仕組み。「ハブ」はプロペラの中心、「スポーク」は車輪の中心を接続する棒という意味を表す。