先頃、南アフリカ最大のベンチャーキャピタル(VC)ファンドの一つであるNaspers Foundryが運営を停止したことが報じられた。Foundryが閉鎖する中、2022年にベンチャーキャピタルの資金が集まらないことからも明らかなように、国内のVC市場はいわゆる「荒波」にさらされている状態だ。

先日、2023年第1四半期の資金調達データが漏れ伝わってきたが、南アフリカの状況は好転しつつあるようだ。資金調達トラッカーのMagnittによると、南アフリカのスタートアップは前四半期に1億4,200万ドルを調達し、前年同期より案件数では減少を見せたものの、資金調達額は22%の増加を示した。

ヨハネスブルグに拠点を置くVC、Kalon VenturesのCEOであるClive Butkow氏によると、成長段階のスタートアップ企業に対する資金が減少することは、世界的な傾向を見れば想定内としつつも、初期段階における資金縮小となると看過できないものがあるという。

「南アフリカとアフリカ大陸の両面でシード投資に大幅な減速が生じ、これは芳しい兆候とは言えません。シードキャピタルがなければ、会社立ち上げ自体が困難になってしまいます。」とButkow氏は懸念を示す。

アフリカ大陸におけるシード投資の鈍化は、同地でも繰り返し指摘されている。アフリカ大陸のVC活動をモニターするもうひとつの資金調達トラッカー、The Big Dealによると、シード投資は昨年同時期と比較して3分の1まで減少しているという。

Naspers Foundryの運営停止について、Butkow氏は次の通り見解を示す。

好ましい事態でないことは確かだが、世界の投資環境を考えれば、決して驚くことでもありません。さらに言えば、南アフリカには他にも多くの資本調達方法がありますから。

これまでVC投資に積極的ではなかった年金基金や開発金融機関などから資金を調達している企業が南アフリカにはまだたくさんあります。このことは、VCが資産運用として優れており、株や株式といった他の資産クラスと比較しても、相応のリターンを得られることを、多くの機関が今、認識するようになったからだと思います。これは、エコシステムにとっても良い兆候と言えます。

南アフリカのVCにおける多様性

南アフリカのVCエコシステムにおける性差や 人種の多様性は、依然として厄介な問題とされている。資金調達先の大半を、白人男性によって設立されたスタートアップ企業が占めるという実態があるからだ。

ケープタウンを拠点とするアクセラレーターGrindStoneXLのプログラムディレクター、Will Green氏によると、彼らのプログラムでは性別と人種の配分が50%となるよう定められており、多様性という問題への取り組みはこうした草の根レベルから始めるべきという。

この人種と性差のバランスを保つ鍵は、草の根プログラム、ターゲット、アンバサダーシップにあると確信しています。エコシステムにポジティブな変化をもたらしている組織の例として、まずWomen in Techが挙げられます。私は、女性創業者のために世の中を変える存在でありたいとの思いから、彼らのアドバイザリーボードに参加しました。10代の娘をもつ父親として、すべての人々に平等な機会が与えられることを願います。ジェンダーエコシステムを再構築するためには、誰もが協力して取り組む必要があるのです。

多様性という問題解決へ向けた努力は見られるものの、平等という点に近づくにはまだまだしなければならい事が多くある、と見解を示すのは、Microtractionのベンチャーキャピタリスト、Octavius Phukubye氏。

「最近では、ダイバーシティを加速させるWomHubのようなエキサイティングな取り組みも始まっていますが、まだまだ長い道のりです。性差や人種の多様性にばかり目が向けられがちになってしまうという例もあります。それ自体悪いことではないのですが、他の歴史的に不利な立場にあったLGBTQI+のようなグループに至っては、VCエコシステムへの限定的でしかない関わりに対して、あまり対策が講じられていないのが現状です。」とPhukubye氏は指摘する。

エコシステムにおける多様性への取り組みを加速させるためには、単なるリップサービスではなく、敢えての戦略が重要であると同氏は見ており、次のように述べた。

私たちは、社会的地位の低いコミュニティに対して、新興ファンドマネージャー・プログラムやトレーニングなどを実施していますが、だからといって他と比較して、資本の割り当てが多いというわけではありません。そうなると、本来の目的となるはずのスタートアップ企業への資金援助という点ではあまり役立っていないことになります。

どのVCも、女性や有色人種の創業者にもっと投資すべきであることが頭の片隅にはあると思うのです。ですが、現在の数字にそれが十分に反映されているとは思えません。関わったVCのほとんどは、女性や有色人種の創業者への投資を希望しており、そうした案件がもっとあればと願っています。だからこそ、私達が足を運んでそれを支援しなければならないことを理解し、実感もしています。実際、現在の努力はそこに向けられているのです。

希望がすべて失われたわけではない

現在の南アフリカの経済情勢は望ましいとは言えず、ここ数年の業績は、大陸の同業他社と比較すると、あまり芳しいものではない。しかし同国は、アフリカのVCのエコシステムにおいて、依然として注目されている存在である。

それを踏まえれば、しっかりとしたビジネスモデルで、実際に差し迫った問題に取り組むスタートアップ企業なら、必要な資金を調達できる筈とButkow氏は読んでいる。

「現在の環境では、資本効率が重要となります。100万ドルを使って、100万ドルの新規平均収益ランレートを生み出しているのなら、それは良い利回りと言え、通常では考えられないことです。しかし、500万ドルを費やしているのに、収益が100万ドルにしかならないのであれば、その経済効果ではVCには通用しません。この時代、VCにとっては、トップラインだけでなく、ボトムラインの成長も重要な要素となるのです。」とButkow氏は語る。

Green氏は、経済的に不透明な現代において、スタートアップに特化した企業だけが成功することになるという。

「砂の数ほどのVCが有力な投資案件を探しているので、今後9~12ヶ月のうちに出てくる資本効率の良いスタートアップ企業は、提示された評価を得ることができるでしょう。」と彼は付け加えた。加えて、現在のエネルギー危機は、スタートアップ企業が急速に市場に参入する追い風になるとGreen氏は予測している。

カリフォルニアを拠点とする創業者が、現在の課題解決のためにケープタウンに移住したケースもあると聞いています。

アフリカで最も進んだ工業国として、先進的な高等教育セクター、銀行システム、起業エコシステム、そして北米、欧州、アジアからの直行便を持つ南アフリカは、このところのVC誘致状況の低迷を差し引いても、能力を過小評価しない方が賢明と言えるだろう。スタートアップ法をはじめ、エコシステムの成長を可能にするさまざまな取り組みが進められている南アフリカは、今後数年間でアフリカの技術の中心地としての地位を奪還する準備が整いつつあるようだ。