AIチャットボットとして始まったスタートアップが、VCの支援を受け、評価額1億5千万ドルの企業に成長するという成功物語は、そう聞ける話ではないだろう。しかし、2017年にオンライン決済ソリューションのチャットボットKudi.AIとしてスタートしたNombaは、ナイジェリアのフィンテック企業となりそれを実現したのだ。今週、NombaはプレシリーズBラウンドで3千万ドルを調達したことを公にした。
チャットボットから会社設立まで
Nombaの共同創業者兼CEOであるAdeyinka Adewale氏がAIチャットボットとしてスタートした経緯をTechCabalに明かした。「オンライン決済のためのアプリをダウンロードして使いこなせるほど技術に精通した人は業界内でもそういなかったのです。」そこで同氏は、共同創業者のPelumi Aboluwarin氏と組み、デジタル決済という領域へナビゲートするシンプルなシステムを展開した。
私たちは2017年の第1週にサービスを開始しましたが、当時は多くの大手テック企業が自然言語処理エンジンに乗り出していたので、一般消費者をオンライン決済に導くインターフェースを構築するには良いタイミングだったのです。
Adewale氏によると、2017年7月までに、同社は人工知能ではなく、加盟店が人との対話で取引を処理できるプラットフォームを構築することに決めていたという。3月にY-Combinator Winter 2017 batchを卒業した後、次の課題は規模と立ちはだかる2つの大きな壁の打開策であったと同氏は述懐する。
「最初の課題は、何か問題が発生したときに備えて、ユーザーが人の手を借りて取引できる仕組みが必要だということでした。また、当時抱えていたもう一つの課題は、オンライン取引で、カード決済が最も安価な方法とはならないことでした。」と打ち明けた。これらの課題を解決するにあたり、Nombaは2018年にエージェンシーバンキングソリューションの提供を開始した。
キャッシュフローはビジネスの生命線
Nombaは現在、中小企業向け、中堅企業向け、大企業向けといった3種類のソリューションを提供している。Adewale氏は、Nombaがキャッシュフローを基準にアカウントをセグメント化することにした理由を次のように語っている。
その分野ごとに求める製品が違うので、セグメント化しないと、あるアカウントにとっては有効でないものを提供しかねないことになるからです。
また、Nombaはアカウントデータを活用して、企業の成長を支援するテーラーメイドのソリューションも構築しているという。
企業が決済からの売上を得られるようにする段階で、よりビジネスがうまくいくソリューションを構築するために、アカウントデータを活用したサポートができるのです。
今回の資金調達により、Nombaはさまざまなビジネス向けのカスタムソリューションを構築することになるという。
レストランは、メニューへのアクセス、在庫管理、支払いの受領、その他ビジネス機能のすべてを同じハードウェアから行うことができるようになります。
OrdaやVendeaseといった同業他社とNombaはどのように差別化を図っているのかという質問に対して、Adewale氏は「パートナーシップに尽きます。」とTechCabalに答えている。
全ての製品を手がけることはできないので、提携できる製品タイプがポイントになります。すでにパートナーシップを進めているところもあります。
世界的な不況下での調達活動
現在、世界のハイテク産業は、世界的な金利の上昇に伴い、資金繰りが悪化している。アフリカのスタートアップも資金調達が厳しくなり、2023年第1四半期に同地域での資金調達額は57%減少した。Adewale氏は、この状況を認めながらも、Nombaは投資家との関係を維持することで、現在の低迷を乗り切ることができたと明かした。
自分たちが何を製品化しているのかを伝え、常に確認し合うというやり方で投資家と関係を築きました。今回の資金調達に限らず、ラウンドに参加した投資家とは、資金が必要ないときでも、対話を繰り返して、ビジネスの現状をキャッチアップしてきたのです。
Adewale氏によると、こうした関係維持により、資金調達のプロセス完了までの時間が6カ月弱に短縮されたという。
リード投資家を探し当てた直後は、既存の投資家がそれに続くことが予測できたので、迅速に手続きを進めることができました。
また、Nombaが新たに投資家を募った理由を、彼らの経験に基づいたものと明かした。
Base10は、ブラジルのNubankのようないくつかのプラットフォームに投資しています。彼らはビジネスバンキング製品を持っているので、それを非常に高く評価しています。また、Shopifyは、基本的にビジネスのライフサイクルに合わせたマーチャントソリューションを構築している企業なので、我々にとって多くのノウハウや学びがあります。Heliosはナイジェリアの通信事業や銀行業に投資しており、この分野をよく理解しているベテランです。
Nombaにとって、ビジネスバンキングとはどのようなものなのか?
「バニラ製品のようなビジネスバンキングというものは存在しません。」とAdewale氏はいう。(バニラ製品とは、ある製品の最も基本的でシンプルなバージョンのことを指す)。また、Nombaのビジネスバンキングとは、企業の需要に応じたソリューションを創造することだと解説した。
私たちが着目するセグメントを選び、そのビジネスにおける決済やバンキングの中核となる機能を確認し構築しているのです。どのアカウントにも一律同じ製品を提供するのではなく、特定の分野に特化した製品を考案しているということです。
Adewale氏によると、Nombaのビジネスモデルは、取引ごとに課金される手数料がベースになっているという。
私たちの収益モデルは、取引に伴う手数料に拠るものです。金融機関ではないので、プラットフォーム上での取引処理に基づいて売上が発生します。
評価額1億5千万ドル
YCombinatorのデータによると、Nombaの現在の評価額は1億5千万ドルである。YCombinatorはこの数値の根拠を明らかにしていないが、この評価額によりNombaはナイジェリアで最も価値のある技術系スタートアップの1つと見られている。「この数字は公開されているものではなく、Nombaにとって大した意味はありません。」と、Adewale氏は意に介さない。
一方で、Nombaの評価は、資本効率に起因するものであると同氏は捉えている。
資金を集めれば集めるほど成功するというわけではないと思っています。いかに必要最小限の資金で最大の成果を上げるかを常に念頭においているのです。
Base10のパートナーであるLuci Fonseca氏は、こうAdewale氏の考えを代弁している。
Nombaのイノベーションと資本効率の実績を見れば、アフリカで最も注目を集めるスタートアップの1つであることは明白でしょう。
うなぎ上りの評価、YCからの注目度、ベンチャー不況下での大増資など、今、Nombaに向けられるエコシステムへの称賛は、すべて納得のいくものである。しかし、スタートアップの創業者たちにとっての主軸は飽くまでアカウントにある。決済や代理店銀行業務から在庫管理や照合サービスまで、一貫したソフトウェア・ソリューションによって、アフリカの企業が一歩ずつ前進することをいかに後押しできるかが問われることになるのだ。
