ナイジェリアにおいて過去10年間で最も重要な規制対象のひとつとなったのがオープンバンキング。それがゲームチェンジャーとなりそうだ。
銀行が所有する個人情報量は、あり得ない多さだ。新規口座を開設する場合、住所、タックス ID、公共料金の請求書、ID 番号が求められ、ひとたび、口座を開設すれば、銀行は個人の取引履歴にアクセスできる。
取引履歴には、収入額、支出履歴、オンライン請求書の支払いパターン、さらには借入習慣まで表示される。銀行はそのデータを取り出して、サードパーティから取得したデータとクロスリファレンスすることにより、さらに一歩先へと進むことができるのだ。
ナイジェリアには7,320万人以上のアクティブな銀行顧客がいることを考えれば、それは銀行がビッグデータの上に成り立っている、と同時に飛躍的な成長を遂げていることを意味する。
このデータを利用して銀行ができることは数多くある。顧客のセグメント化、パーソナライズされたローンオファー、カスタマイズされた銀行サービスの提供等が可能となるのだ。しかし、この変革を起こす絶好のチャンスを、リテールバンキングは逃し続けている。
銀行がデータを有効利用しないのはなぜなのか?
リテールバンキング業務で11年の経験を持つSamson Dauda氏は、従来の銀行の問題の1つとして、同じサービスを繰り返し提供することにのみ注力していることであると見ている。
「何十年と蓄積された財務情報、習慣、購入の選択、デスティネーション、人口統計等、フィンテックが夢にまで見る顧客データという宝の山の上に、銀行はふんぞり返っているのです。そして、従来の銀行は、因習的で組織的にしか動かない業種なのです。」と彼はTechCabalに語った。

こうした銀行は成功してはいるが、政府機関のように官僚的であることがしばしば非難の的とされていることをDauda氏は指摘する。そして、それを顕著に示す実例を挙げている。ある銀行が、ユーザーの給与前払いをプロファイルする商品を作り、そのシステムが同一の顧客口座に3回連続して給与が振り込まれたことを検出した。
その商品利用条件に適うということでサービス提供されたある顧客は、ひとたびそのシステムを利用し始めるとそれはうまく機能した。しかし、その後、その顧客が転職すると、給与に変更が生じたというナレーションがポスティングされ、システムはスタッフ名と振込月だけで、「給与」というワードを検出しなくなったのだ。そこで、再申請すると、サラリーナレーションに変更があったため、給与収入がないとみなされた、と通知を受けた。
データがすべてそろっていても、顧客が顧みられないことは日常茶飯事である。「顧客がサービスに満足しなくても、ビジネスがうまくいっていれば大した問題ではないのです。それが銀行のやり方ですから、わざわざ墓穴を掘るようなことはしません。」とDauda氏は言う。
しかし、オープンバンキングのアイデアは、世界中に広がり始め、それは、銀行が持つデータをサードパーティと共有することで可能性が広がることを示唆している。
オープンバンキングとデータの新しい活用方法
銀行が所有するデータで実に多くのことが実現する。それは、サードパーティのプロバイダに顧客取引データへのアクセスを提供し、斬新で今どきの商品を作るというオープンバンキングの大前提と一致する。
例えば、フィンテック企業が銀行からデータを取得することで、銀行取引の経費を節約したい起業家のための商品を作ることができたりする。
興味深いユースケースである一方で、ナイジェリアにおいて、オープンバンキングの最も重要な役割は、金融統合ある。現時点で、銀行が農村部に開業する気配は見られない。実際, ナイジェリアの大都市以外の地方で, 銀行支店を1、2軒以上見つけることは、至難の業である。
銀行の代わりとなるのは、PagaやOPayのようなフィンテックによってサポートされている銀行仲介ネットワークなのだ。これらのフィンテックは驚くほどの仕事をこなしているが、彼らのサービスはほぼ支払いに特化している。そして、そのサービス提供のために、信じられないほどの課題に直面もしている。
仲介サービスでフィンテックを立ち上げるには、ナイジェリアの銀行との数えきれないほどの統合を進める必要がある。このプロセスが、マーケットローンチのタイミングを遅らせてしまう。フィンテックが金融排除やサービスが行き届かないような状況に陥ることへの対策で二度と悩まないで済むようにするには、こうした統合のより簡単な方法を見出すことが必要である。
最善の方法は、フィンテック、銀行、その他のサードパーティが情報を共有するための共通基準、つまりAPIを作ることである。具体的には、オープンバンキングは、銀行やフィンテックがアクセスできるオープンAPIの共通基準を導入している。
新たなマーケットへ進出するため、何ヶ月もかかる骨の折れる統合プロセスが、たった数日で完了できてしまう。そこからは雪だるま式にビジネスが増大する。新しいマーケットの顧客データにアクセスすることで、フィンテックはその顧客に合わせたローンを提供することができる。
可能性は無限だが、共通のAPI標準化を取り入れることで、ビジネスの浮き沈みもすべてそれにかかってくることにはなる。
すべてのユーザーに適した API
現状、ナイジェリアの銀行との統合は厳しいプロセスとなりそうだ。
この複雑さの理由は、API の統一標準化が存在しないためである。Open Banking Nigeriaの役員、Adedeji Olowe氏のたとえはこれをうまく説明している。「何も考えずに、世界中のATMでデビットカードを使うことがよくあります。
ATMの銀行名を敢えて確認しないこともしばしばです。私たちが当たり前に思っているこの信じられない魔法は、過去に一度だけ、グローバルネットワークと銀行がクレジットカード決済のために基準を設けて適用したから可能になったのです。その標準化が、2016年に695億件に上るデビットカード取引を生み出したのです。」
こうした共通基準が確立されれば、オープンバンキングなら、銀行からのデータ取得はものの数分で達成される。
この基準を作るための第一歩は、Open Banking Nigeriaという民間イニシアチブであった。ナイジェリアのオープンバンキングAPIのための共通基準を構築し、それは意義深いことであった。CBNは現在、規制草案でさらに一歩進んでいる。
CBNの規制の枠組み
規制当局に対してアフリカで多くの不満が噴出しているが、今回、The Central Bank of Nigeria(CBN)は、オープンバンキングの規制の枠組みを作成することで、適正に対処している。この枠組みは、ナイジェリアがアフリカのオープンバンキングのパイオニアになることを意味する。
この枠組みの重要な点は、銀行と決済のエコシステム全体でデータを共有するための原則を確立することだ。
特に、データやアプリケーション・プログラミング・インターフェース (API) アクセス条件、API、データ、テクニカルデザイン、情報セキュリティ仕様の原則を規定している。
また、データ プロバイダに対して、他のサードパーティとのデータ アクセス契約とサービス レベルアグリーメントの確立が求められる。これは、たとえばネットワーク料金などのコストが発生して、それをどこが請負うのか知ることが重要となるからである。CBNは明らかにUSSD手数料をめぐる通信会社と銀行間の長引く争いの再発を見たくはない筈である。
データ料金以外にも、セキュリティはデータ共有に伴う大きな問題であり、The Central Bank of Nigeriaはデータを必要とするサードパーティのために異なるカテゴリーを設定した。
各カテゴリーのリスク判断もある。たとえば、プロファイル、分析、スコアリング取引カテゴリーはリスクが高く、ここでのデータは銀行、ライセンスを受けた決済サービスプロバイダ、その他の金融機関のみがアクセスできる。
CBNの規制草案はまた、企業が安全な環境で商品やサービスをテストできるサンドボックス(他に影響が出ないように隔離された環境)を規定する。しかし、ドラフトの最も重要な部分は、API仕様のガイドルールを提供することである。
「The Central Bank of Nigeriaは、テクニカルデザイン基準、データ規格、情報セキュリティ基準、運用ルールを利用して、共通のバンキング業界API標準化開発を規制することになる。
CBNの枠組み期間の12ヶ月以内に、共通基準は開発される予定である。銀行が持つデータにサードパーティがアクセスできる時代が、もうすぐそこまできている。
それが銀行にとって、なんの利益につながるのか疑問に思うかもしれないが、所有データを売ることで収益を増やすという見込みがある。フィンテックとの競合がイノベーションに拍車をかけ、これまでとは異なる考えを持たざるを得ないというのも事実である。
例えば、いくつかのナイジェリアの銀行は最近、フィンテックと競合するために持株会社になり体制を変更した。Guaranty Trust Bankは、FlutterwaveやPaystackと競合するためにHabariPayを立ち上げており、他の領域で商品展開する予定である。
結局のところ、不測の事態でも起こらない限り、オープンバンキングは長期にわたりナイジェリアの銀行業務にとって代わる最も重要なイノベーションの一つとなるだろう。