日頃、色の役割について語ることはあまりないが、日々の生活の中で、私たちの行動や感情にそれは深く影響を与えている。それが自然の美しさであれ、肌の色やブランドであれ、気づくと気づかざるとに関わらず、適切な色であれば、色ごとに異なる意味や心理的効果が、なんらかの形で及ぼされているのである。「正しいブランドのあり方」では、アフリカ諸国の街角のそこかしこで展開され親しまれ、傑出したブランドを取り上げる。ちょっとした斑点の色にまで議論を重ね、同一色や同じ配色パターンがかぶらないようにリストアップしたブランドカラーの実例をここに紹介する。
1. Zenith: レッド
レッドと言えば、コカ・コーラ、と誰もが思うに違いない。それは明らかな正解ではあるが、ここではまだ知られてはいないZenith Bankのレッドについてのエピソードを取り上げたい。Jim Oviaの著書『Africa Rise And Shine』によれば、1990年にZenith Bankが発足された当時、そのブランドカラーにレッドを選んだことは、ナイジェリアの銀行業界全体の常識が覆される程の衝撃が走った。著者曰く、従来の銀行のどこも金融機関のブランドカラーにレッドという色を選ぶことはかつて一度もなかったが、Zenith Bankは敢えて大胆な一手を取ることで声明にあるバンクビジネスへのアプローチを際立たせるという決断を下した。そして、それは自社に効を奏したばかりでなく、何年かのちにUBA and Sterlingや他数社の銀行がブランドカラーとして抵抗なくレッドを取り入れるようになったことへもつながった。
2. Dstv: ブルー
Dstvのブランドカラーは常にブルーであり、大陸の至るところで目にする同社のパラボラアンテナにもそれは使われている。空に水玉模様を描くように点在していたこのパラボラアンテナの光景が、ある日突然、どこもかしこも展開されるようになるとは誰も予想だにしなかった。Dstvであれ、他社であれ、それまではどのブランドのサテライトアンテナも当たり前のように白が使われ、ブルーに変える理由はどこにもないと思われた。それが今では、ここにリストアップされることに議論の余地がないほど、アフリカの人々の心の中でブルーと言えばDstvという程に親しまれ、認知度を上げたのだ。Chelsea FCグッズカラーのブルーがここで語られないことを残念に思うファンには申し訳ない限りである。
3. M-PESA: グリーン
アフリカ最大のモバイルマネープラットフォームは、その見まがいようもないグリーンで包まれたショップやキオスクを展開することで、本社のあるケニアの街角にしっかりと根を下ろすことに成功した。ガーナやエジプト等6カ国へも進出している現在、サハラ以南とその砂漠地帯にグリーンのプリントがその存在感を増している。独立型の店舗となれば、ブランドカラーのコントロールが容易いことではなく、そのため色合いに違いのある例も見られるが、言葉の代わりに色を見ればそれと分かるという目的は果たされ、絵画の持つ特性と同じ効果を見事に実現している。どのショップもまるで緑のドラム缶風呂に浸かっているような様相を呈している。一番身近なM-PESAを探すことは、実に容易いタスクの筈だ。
4. Shoprite:レッドとイエロー
アフリカでの買い物帰りのスタイルは2通りある。よく名前も知らない、いくつもあるスーパーマーケットの白か黒のポリバッグか、SHOPRITEという赤い太文字を見なくとも誰もがそれと分かる黄色のバッグをぶら下げて歩くかのどちらかだ。ショッピングバッグから、広告、店舗の看板等に至るまでSHOPRITEのブランドカラー使いは文句付けようがない好例である。
5. MTN: イエロー
わずかにブランドアイデンティティをリフレッシュし、語り草となったかぼちゃ色を少し明るいトーンに置き替えたが、「everywhere you go」(*1)でよく知られるMTNは、ブランドツールとして色をうまく利用した成功例である。黄色い建物や、黄色の無地Tシャツを見ただけで、即MTNを思い浮かべる人がかなりいるだろう。
6. Coldstone: 赤レンガ色
既にここにリストアップされたZenith Bankでも取り上げたが、レッドはブランドマーケティングで最も使われている色の1つである。Coldstoneは飽くまでレンガのような色合いの赤にこだわった。その結果編み出された赤レンガ色は、今や「リッチテイスト」ブランドの一部とまでになっている。広告から建物やカップに至るまで、ユニークなヴィジュアル要素との鮮やかな組み合わせにおいては殊の外、見事にブランドカラーを自分たちのものにしている。
7. Mobile:グリーン、レモン、ブラック
前身であるEtisalatから、アイデンティティシステムを保持してナイジェリアで通信業界に参入した9Mobile。業界の既存プレーヤーであるMTN はイエロー、Airtelはレッド、Gloはグリーン、と単原色のブランドカラーでそのシステムを維持している。Etisalatは、グリーン、レモン、ブラックの3つの原色の美しい組み合わせで、明らかに特徴的な新しいひねりをもたらしたのだ。9Mobileはこのテーマを踏襲し、ブランドカラーシステムのトップクラスの一例としてそのポジションを留めている。
もし、法廷でこれがブランドカラーの「トップ 7」であると主張するとしたら、あまりにも主観的に過ぎ、とても通用しないだろうが、他のブランディング要素がある中でも、色彩のもたらす効果を最大化し、うまく人々の心の中に入り込むという点においては、ここに挙げたブランドはトップクラスの例であることに意義はないだろう。
ここに挙げたリストのうち、明らかにランダムに選んだように思われるものもあるかもしれないが、他のブランディングコンポーネントと同様、多くのリソースと意図にコミットし、色彩の効果をよく理解した上で決められたブランドカラーを選んだ結果であり、また、そのことは、内部事情通からの情報のおかげで確証できるものである。
(*1) 「everywhere you go」2010 FIFA World CupのMTNテーマソング