クリーンエネルギーを仮想通貨で購入するというアイデアを思いつく人はあまりいないだろう。だが、ラゴスを拠点とするOneWattSolar(以下略称OWS)はナイジェリアの人々に電気を供給するために、そのビジネスモデルを2年以上にわたり展開してきたのだ。
このクリーンエネルギー企業は、ブロックチェーントークンを利用した太陽エネルギー料決済を可能にした。また、ソーラーシステムのインフラは財政支援からの資金提供を受けているため、ユーザーが負担する必要はない。
設置後、OWSは人工知能(AI)やモノインターネット(IoT)などの技術を用いて、決済やモニタリングサービスを提供する。
どのように連携しているのだろうか?
そこでTechCabalは、同社の共同創業者兼COOのJubril Adeojo氏にインタビューを行った。
幾重にも重なる革新的なコンセプト
OWSは、一般的なソーラー企業と同様に、ナイジェリアの個人住宅や集合居住地にパネルを供給・販売している。特徴はその支払いシステムにある。
OWSのクリーンエネルギーソリューションを利用するにあたり、ユーザーがソーラーパネルシステムの設置費用を負担する必要はない。その代わり、ナイラ通貨で「グリーンコイン」と呼ばれるトークンを購入し、供給される電気料を支払う。このトークンは、ブロックチェーンのプラットフォームであるEthereum上で取引される。
このソーラーシステムには、インターネット対応のルーターが搭載されており、エネルギー消費データを自動的に収集して、ユーザーが使用した分だけ確実に支払うことができる(月毎の従量課金制)。同様に、システムに潜在的な問題がある場合には、リアルタイムでOWSにアラートが送られる。
OWSのソーラーソリューションにブロックチェーンを適用することで、関係者間全体に透明性を保ちながらコスト削減を可能にする。「このシステムでは、ユーザーが消費した電気料だけが請求されるのです。」とAdeojo氏は言った。
ナイジェリアの従来の化石燃料サービスは、使用量が1キロワットアワー(kWh)あたり70ナイラ(0.20ドル)近くに上る。しかし、ブロックチェーンシステムでは、発電機の高額なメンテナンスコストをカットできるため、ディーゼルの半額(0.10ドル)で済む。
OWSは、ブロックチェーン技術に加えて、インバーターやスマートメーターにIoTが組み込まれており、遠隔地でもシステムの自動切り替えができる。一方、同社のプラットフォームに搭載されているAIで、ユーザーが希望するアラート設定ができる。
「例えば、誰かが勝手に洗濯機を使用していたら、当社のAI搭載プラットフォームの機能がそれを感知し、その家のオーナーにアラートを送信します。これにより、ユーザーは効果的なエネルギー消費管理ができるようになるのです。また、リモート操作で電化製品のオン/オフ切り替えもできます。つまり、留守の間でも、自宅のACをオフにすることができるのです。」とAdeojo氏は続けた。
単なるソーラー企業からエネルギーサービス業界の「Uber」へ
今日あるOWSの事業形態は、昔からずっとそうであったわけではない、とAdeojo氏は述懐する。OWSは、2010年に設立された再生可能エネルギー企業、GoSolar Africaの傘下にある。
「弊社は10年以上前からこの事業に取り組んでいます。当初は、前払いが可能な家庭や企業にソーラーシステムを販売し、国際機関と提携してミニグリッドを数多く開拓してきました」。
10年の実績を積み重ねた現在、創業者は商業銀行のパイロットプロジェクトを皮切りに、オフグリッドの商業・産業用(C&I)太陽光発電事業へ乗り出した。
初の商用プロジェクトが成功したことを受けて、同社の創業者たちは、Adeojo氏がエネルギーサービスの「Uberモデル」と呼ぶその取組みをOneWattSolarと名付け、最終的に2019年1月にローンチされた。
以来、すべてが変わったのだった。
OWSは現在、ソーラー企業と提携して、個人や法人の顧客にオンデマンドのEaaS(Energy-as-a-Service)ソリューションを提供している。
OWSがソーラーパネルやインバーターなどのハードウェアを提供し、契約提携企業が設置やメンテナンスを行う。後者は、設置されたハードウェアが使用されている限り、プロジェクトから収益を得ることができるのだ。
潜在顧客は、ブロックチェーンを利用した決済システムとウォレットを内蔵したOWSのプラットフォーム上でサインアップして、予約することができる。
Adeojo氏はこれを「Uberモデル」と呼ぶが、同社は顧客と設置者を正確にマッチングするというわけではない。その代わり、テクノロジーを駆使したプラットフォーム上で、消費者向けの請負業者(ハードウェアのサプライヤー)のような働きをする。
「競合他社と競う一つのソーラー企業という事業形態ではなく、新たな何かを始めるということを肝に銘じました。そして、Uberモデルを採用し、Amazonのブックストアのように他のプレーヤーのために市場を開拓する、テクノロジー企業として登場することに踏み切ったのです。」とAdeojo氏は語る。
ハードウェアを設置するソーラー企業に加えて、商用クライアントを調達する「パワーブローカー」も存在する。
このした多面的なビジネスモデルでは、若いエンジニアの雇用が生じ、それにより彼らも設置やメンテナンスで収入を得ることができる、とAdeojo氏は強調する。
「学生及び、既に学校を卒業した若者1,000人以上がソーラー企業で働いており、その10%が女性です。」
壮大なビジョン
OWSは設立以来、50メガワットのシステムを設置し、フル稼働している。
同社の2030年のビジョンは、ナイジェリアを皮切りに、サハラ以南のアフリカ全域で14,000メガワットのオフグリッド再生可能エネルギーを展開することであり、多くのソーラー企業や設置業者と提携している。
OWSは最近、ナイジェリアで第一回目のグリーンボンド国債を100億ナイラ(2,433万ドル)発行した。これは、20億ナイラ(490万ドル)の7年物グリーンボンド国債と10億ナイラ(240万ドル)の7年物グリーンスクーク(イスラム債)で構成されている。
「この発行により、当社の2つの主力製品であるCHI OMA(IoT対応デジタル資産・ハードウェア技術)とAMINA(高度な人工知能ソフトウェア技術)の商業展開へ乗り出すことができました。」とAdeojo氏は語る。
今回の債券発行は、初の試みとなるカテゴリーがある。オフグリッドの再生可能エネルギープロジェクトを対象とした、企業向けのグリーンボンド、グリーンスクーク、グリーンボンドとグリーンスクークの共同発行は、アフリカにおいて前例を見ない。また、イスラム金融で用いられるシャリア準拠の金融商品であるグリーン・スクークは、世界中でちょうど13回目の発行となる。
新興企業にとって社債の発行は一般的ではないが、OWSプロジェクトのように長期的な資金を必要とする場合、「理に適った動き」だとAdeojo氏は言い添える。「この発行は、グリーン経済への投資に関心のある機関投資家をも惹きつけることになるでしょう。」
新興企業であるにもかかわらず、OWSが社債発行の資格を得られた理由は、Adeojo氏が次に挙げる通りである。「銀行取引が可能な」ビジネスモデル、ナイジェリアの再生可能エネルギー分野での実績、健全なコーポレートガバナンス、強力で経験豊富なチーム、技術支援を提供する複数の国際アドバイザーなどである。
今回の新たな資本注入が、アフリカ大陸100万世帯へ電気をつなげるという野望実現へ向けて後押しすることになる。「グリーンボンドやスクークの発行を基に、これからユーザー本位の新製品を開発、展開していくことが楽しみでなりません。これを機に、ハイテク企業として、100万マイルの旅の第一歩を踏み出すことになったのですから。」とAdeojo氏はインタビューを締めくくった。