2013年、アフリカ最大のモバイルマネー・プラットフォームであるM-Pesaは、大きな問題に直面した。それは、ユーザーが保険料の払込みや銀行決済をリアルタイムで行えないことであった。ケニア電力への支払いが同社のシステムに反映されるまでに48時間要したり、国家医療保険基金への支払いなどは、確認がとれるまで3日もかかることもあった。

このように決済や送金に時間がかかる原因は、M-Pesaのモバイルマネー・プラットフォームが毎秒200〜300件の取引しかできないことにあった。よりシームレスな取引を実現するためには、少なくともその10倍以上の処理能力が必要であったにもかかわらずである。

VodacomSafaricomが所有するM-Pesaは、中国の大手ハイテク企業であるHuaweiのソリューションを利用して、18ヶ月の間にM-Pesaの1,280万人のアクティブユーザーを、よりパフォーマンスの高いモバイルマネー・プラットフォームに移行させた。

8年後、M-Pesaは、ケニア、タンザニア、レソト、コンゴ民主共和国、ガーナ、モザンビーク、エジプトのアフリカ7カ国で展開する5,000万人のアクティブユーザーに対応するまで事業を拡大するに至った。現在では、毎月10億件以上の取引が行われている。

主にバックエンドを担う中国の金融ソフトウェア企業、Beijing Murong Technologyも、長年にわたってHuaweiと協力して、M-Pesaにソリューションの提案をした。

成功が成功を生む

M-Pesaの成功により、エチオピアの国営通信会社Ethio telecomが国内初のモバイルマネー・プラットフォーム、TeleBirrの開発を決定した際に、Huaweiに目をつけた。

2021年5月にスタートしたTeleBirrは、アフリカで3番目に人口の多い国の1億1500万人に対応している。TeleBirrは、何のトラブルもなく、サービス開始からわずか2カ月で、600万人のユーザーがモバイル決済システムに登録した。

Huaweiは、これまで通信インフラのみを扱ってきたが、現在ではアフリカの19カ国でモバイル決済アプリケーションを実行するための技術を、ネットワーク顧客に提供するまでに成長した。こうした実績に後押しされ、Huaweiは先日、北アフリカ地域の本社があるチュニジアにイノベーション・研究センターを建設する意向を発表した。

M-PesaTeleBirrの成功により、Huaweiは中国の進取の気性に富んだ技術部門の申し子としての評判を高めた。一方、HuaweiBeijing Murong Technologyとのコラボレーションは、より大きなトレンドを浮き彫りにしている。アフリカ大陸に橋や鉄道、空港、道路を建設するだけでなく、中国企業がアフリカでデジタルインフラを構築するケースが増えているのだ。

なぜアフリカなのか?中国の企業や投資家にとって、2030年に若者の人口増加で17億人に達すると予想されるアフリカ市場を軽んじることはできない。現在、この若年層人口の約50%が金融システムから除外されており、インターネットへのアクセスにいたっては40%未満に過ぎない。これは、金融インクルージョンとコネクティビティを促進する大きなチャンスなのだ。

なくてはならないプレーヤー

HuaweiZTEなどのハイテク企業がアフリカに進出したのは、1990年代に遡る。彼らがアフリカに進出した背景には、欧米諸国や企業がアフリカへの投資に消極的になったところ、その空白を埋めたいという思惑があった。中国のハイテク企業は、政治的にも経済的にも不安定であったにもかかわらず、アフリカでより存在感を高めることを決意した。長い目で見れば、この動きは功を奏し、その結果は明白である。

中国とアフリカの関わりをあらゆる角度から調査しているメディア組織、Chinese Africa Projectのマネージング・エディター、Eric Orlander氏は、「中国なしには、今日のアフリカのハイテク・エコロジーシステムの繁栄はあり得なかった筈です。」と述べている。

中国人がいなかったら、アフリカは少なくとも15年遅れていたでしょう。考えてもみてください。アフリカの携帯電話の約50%は、Transsionというたった1つの会社によって支配されているのですよ。

Orlander氏は、70億ドルの評価額で上場したアフリカの大手携帯電話メーカーのTranssionや、最近では500万人以上のユーザーを抱えるフィンテック・プラットフォームのOpayが、ソフトバンクなどの投資家から20億ドルの評価額で4億ドルを調達した成功例を挙げている。

アフリカはお金にならない、アフリカのテクノロジー・エコシステム市場はそれほど大きくない、という仮説にこれらの中国企業は、異議を唱えているのです。

ここに挙げた中国企業は、単に金儲けが目的ではなく、ひとたび資金を手にすると、他の有望な中国のスタートアップへの投資に踏み切る。2018年、Transsionは、中国のNetEaseと台湾のチップデザイナーMediaTekの参加を得て、デジタル決済サービスを提供するPalmPayに4,000万ドルのシード投資を行った。PalmPayは、ナイジェリアとガーナでピア・ツー・ピア(P2P)の送金、エアタイムの購入、請求書の支払サービスを提供しており、他のアフリカ諸国にも拡大する予定である。

Transsionの後押しを受けて、2020年にPalmPayは、TecnoInfinixitelといったTranssionの携帯電話ブランドの約2,000万台にプレインストールされた。 同様に、2021年6月からは、Huawei Mobile KenyaのユーザーがM-Pesaを使ってアプリ内で買い物ができるようになった。

中国の大手ハイテク企業であるAlibaba Groupも、この活動に参加している。同社のオンライン・モバイル決済プラットフォームであるAlipayは、Vodacomと協力して、南アフリカの金融インクルージョンと経済成長を推進するために位置づけられたスーパーアプリ、VodaPayを開発した。VodaPayは2021年6月に発表され、すでに70社が登録している。

注目すべきは、シンガポールを拠点とするケニアのフィンテック・スタートアップで、アフリカ・アジア間の越境決済を強力にサポートしているWapi Payが、Huaweiのモバイルマネーサービスを利用していることだ。これは、現代のフィンテック・スタートアップも中国の技術に頼っていることの表れだ。

「中国のテクノロジーは、アフリカの基盤となっています。私はそれを、アフリカテクノロジー分野のなくてはならないプレーヤーと呼んでいます。中国という要素を取り除いてしまうと、アフリカのテクノロジーは崩壊してしまうのです。」とOrlander氏は言う。

警告と懸念、そして現実

近年のアフリカにおける中国企業の急増は、学者、政策立案者、その他のオブザーバーから多くの懐疑的な意見を集めている。特に懸念されるのは、中国企業と中国共産党との関係や、アフリカのデータがどのように利用されているかという点である。

ハバード大学の南アフリカ人研究者で、アフリカと中国の関係を専門分野にしているJili Bulelani氏は、この点を懸念している。

「多くの場合、Huaweiのような中国企業がどれだけ深く関わっているかが問題となるのです。」と、氏は言う。

光ファイバー、クラウドストレージ、モバイルマネーなどのプロジェクトを支援することも考えられます。しかし、このデータの所有者が誰なのか、そして自分自身とそのデータの保護に関する法的な問題については疑問があります。

データ利用に関するこうした問題は、市民を保護するための効果的なデータに関する法律がアフリカに存在しないという事実によって、さらに悪化している。アフリカ大陸の約50%の国には、データ保護法が制定されていない。

Orlander氏は、Huaweiの実例に関するこうした疑問への答えがどちらかと言えば不透明であることを認めている。それは同社が十分なコミュニケーションをとっていないことが一因である。そのため、彼は実際に状況確認することを声高に主張している。

ほとんどのアフリカ諸国や企業は強い交渉力がないため、ビジネスを展開するのは難しい。その観点からも、中国企業の製品の方がより安価で、アフリカ市場向けにカスタマイズされているため、より良いサービスを受けられると、氏は考えている。アメリカ政府が、ケニア対してHuaweiの5G 製品を排除するよう指示した時、Safaricomの返事は「わかった、だけどどうしたらいいのか?」であったと伝えている。「アフリカ諸国にとって、最終的な選択は、NokiaAlcatelEricssonSamsungHuaweiではないのです。大抵の場合、Huawei一択しかないのです。」

また氏は、Huaweiに対する非難は、製品やサービスの性能に関するものではないことを指摘している。それは同社が顧客のニーズを満たす高品質の製品を提供している証しだと述べている。

米国平和研究所の中国チームシニア政策アナリストであるHenry Tugendhat氏は、アフリカの人々がサイバーセキュリティについて本当に懸念しているのであれば、自身のデータや通信が誰からも狙われていると意識することから始める必要があると考えている。

「アフリカの国々が独自に機器を製造するようになるまでは、国際的な組織によるデータアクセスを許可してしまう可能性があります。」と、Henry Tugendhat氏は言う。「この状況に対処するには、アフリカ諸国がどのように法律を制定し、施行するかにかかっているのです。」

競争の余地はあるのか?

アフリカのフィンテック分野では、中国のテクノロジーが多大な貢献をしているが、まだ成長の余地がある。

GSMAのレポート2020によると、携帯電話普及率はアフリカの人口の50%以下である。これは、米国(81%)や中国(63%)のそれとは、比べものにならない。

アフリカのフィンテック分野のデジタルインフラを構築するさまざまなプレーヤーによる競争は今だに続いている。『China, Africa, and the Future of the Internet』の著者であるIginio Gagliardone氏は、今後数年間は、競争の余地があまり残されていないのではという見解を示している。

「中国は長い時間をかけてプロジェクトに取り組む傾向があります。物理インフラおよびデジタルインフラの分野で躍進する中国は、その広範性でロックイン効果が生じを、競合を抑え込むことができるでしょう。」と述べている。

「この勢いで開発を続ければ、事業の切り離しや撤退は難しくなるでしょう。先行きが少し心配になります。」とGagliardone氏は付け加えた。

この10年間で、中国はアフリカの発展の中心的役割を果たしてきた。アフリカのテクノロジー分野で中国が強い存在感を示していることは、極めて有益なことだが、その一方で独占的な支配が懸念されるのもまた事実である。TechCabalはHuaweiにコメントを求めているが、この記事を掲載する時点で回答は得られていない。