スタートアップ企業の創業者やCEOは、誰もが一度は一筋縄ではいかない機関投資家の世界で戸惑ったことがあるはずだ。そして、機関投資家と会って、どんな質問をし、何に注意しなければならないか分からず、失敗したこともあっただろう。
そこで、アフリカ企業への投資について、その理由、どのように行われているかなど、投資家による見解を尋ねることにした。
この1年間、20人以上の投資家にインタビューを行い、投資に際して創業者や新興企業に求めるもの、学んだこと、失敗、主要なトレンド、その他関連する貴重な情報について紹介してきた。
ここでは、公開されたインタビューからいくつかの洞察を抜粋する。
Founders Factory体験型アプローチ
様々な投資家との対話の中で早い段階から学んだことが一つあるとすれば、それは「投資家は皆同じではない」ということだ。投資に対する考え方は、その人のバックグラウンドや経験によって左右されることが多い。多くの人は投資家というと「お金」を連想するが、Founders Factory Africa (FFA)は、それ以上の何か、と捉えるべきだという。
FFAの創業パートナーの一人であるSam Sturm氏との対談ではその理由が語られている。
資本だけがビジネスを支える手段ではないと私たちは考えています。資本がなければ何もできないと言うかもしれませんが、しかし、結局のところ、資本が問題を解決するわけではないのです。製品と市場の適合性、顧客獲得、顧客維持といった課題に、資本だけで簡単に答えを見つけることができるとはとても思えません。起業家に求められているのは、このような課題への取組みであり、それはチームにも求められているのです。経験豊富で優秀な人材がそれをフォローアップできれば、うまくいくはずです。
ベンチャー・ビルディング・スタジオであるFFAの投資先企業はプライベートコーチ、プロダクトマネージャー、プロダクトデザイナーなどによるサポートを受けることができる。
Microtraction斬新なアプローチ
今から5年前、裕福な親族やネットワークがなしには資金調達が難しいという事実を知ったYele Bademosi氏は、創業者がそれを簡単にできるようにすることを目指すことにした。
しかしその前に、Microtractionチームがしなければならなかったことは、現状を打破することであった。それはつまり、バッチも、プログラムも、Demo Dayもなしで、絶えず投資のために動き続けることを意味した。
Microtractionのアプローチでユニークなもう一つの点は、エンジニア創業者/共同創業者を持つスタートアップに敢えて投資していることである。それはなぜか?
「製品の最初のバージョンは、大抵の場合、失敗するものなのです。だから、私たちが出資しても、開発を外注すれば、おそらく失敗してそのお金はムダになってしまうでしょう。エンジニア創業者であればその点で心配がいりません。」 とBademosi氏は解説した。
また、共同創業者がいることも重んじます。というのも、ほとんどの場合、自分自身で会社を興すのは非常に難しいことだからです。しかし、どんなルールにも必ず例外はつきものです。
Acumen長期的な資本
Acumenの原点は、貧困層の問題解決にフォーカスし、慈善事業の最高峰を導入することだった。そこでAcumenは、スタートアップに寄付や助成金を提供するだけでなく、さらに一歩踏み込んだアプローチをしている。それは、社会的な課題に取り組むスタートアップ企業に受け取った寄付金で投資する非営利団体という方法である。Acumenの西アフリカ担当ディレクター、Meghan Curran氏はこのように説明する。
私たちのモデルでは、そもそも投資家は寄付者となるわけですから、投資家に還元自体がありません。その代わり、そのお金はAcumenに戻り、再展開と再投資を行います。既存のポートフォリオのフォローアップ投資に使うこともあれば、新たな投資をしてポートフォリオを拡大し続けるために使うこともあります。
Acumenは、寄付者にお金を還元する必要がないため、従来のベンチャーキャピタルよりも早期段階で投資することで、従来のVCより少し長く資本を保有することが出来る。
Sawari Ventures北アフリカを代表するベンチャーキャピタル(VC)
2021年は、北アフリカが注目され、盛んに資金調達が行われたエキサイティングな年だった。このブームから遡ること10年以上前に設立されたSawari Venturesは、北アフリカのスタートアップを支援してきた。Sawari Venturesの創業者たちは、MENA地域最大のアクセラレーターであるFlat6Labsも設立している。
対談の中で、Tamer Azer氏は、VCファンドとスタートアップの資金調達の違いについて説明している。
VCファンド の寿命は10年と限られています。最初の3分の1は投資、2分の1は成長、そして最後の3分の1は投資からの撤退に費やすことになります。投資家にお金を還元することができて漸くこのビジネスが実際に成り立つのです。そしてそれには時間がかかります。
スタートアップのように、マーケットに出て資金調達をしなければならない点は同じです。スタートアップの場合、少しずつ資金を調達し、12カ月から18カ月ごとに自分たちの力を証明しなければなりません。
一方、VCは一気に資金を調達しなければならないののです。ですから、若干の実績で市場に乗り込んで、資金調達を試みるのです。100万ドルや200万ドルのラウンドで調達するのとはわけが違う。まだこのアセットクラスに馴染みのない市場や機関投資家から、5,000万ドルから1億ドルを調達するのですから。海外の投資家に働きかけて、アメリカやヨーロッパの人々からアフリカに投資してくれるように訴えるわけです。ただ小切手を切ればいいというわけではなく、まずはそのための資金を集めなければならないのです。
このような小切手を切るには、実に真剣に取り組むことになります。このお金を誰に渡すか決めることは、そう容易なことではありませんから。
Unconventional Capitalスタートアップ投資における直感と偏見の排除
Unconventional CapitalのCEOであるFranziska Reh氏との対談が始まってから最初の10分で、「型破り」という表現がなぜ彼にふさわしいのか理解できた。
大方の投資は、次のように始まる。まず投資家と意気込みのある起業家が会話を始める。経緯や背景の確認を終えたら、ビジネスプランの話へ進み、その後、投資家は出資するかどうかを決断する。直感的な判断は、それ以前の問題である。その過程で、投資家は常に「投資するべきなのか?」と自問するのだ。
Uncapは、判断をアルゴリズムに委ねることで、このアプローチを逆転させた。
Reh氏は、「Uncapでは、投資プロセスにおいて、チームの誰も投資判断を下しません。起業家のポテンシャルを重視したアルゴリズムに基づいて、選考を行っています。将来的な成功の予測因子から起業家の潜在能力を測定するモデルであり、それを標準にして投資を行います。」と説明する
このモデルにより、Uncapは何千人もの起業家に投資することが可能となる。興味深いことに、Uncapは投資先企業を一定期間かけて徐々に撤退させるという、従来にない撤退戦略をとっている。
私たちが投資している企業は、四半期収益の5%で自社株を買い戻し、その買戻し株価格分を私たちに譲渡します。これによって、最終的には、株式全体を買い戻してもらいさらに投資額が上乗せされて私たちに戻ってきます。基本的にすべて同様に、投資額に対して固定倍率となるのです。
Tomi Daviesアフリカン・エンジェル投資家の物語
Tomi Davies、通称TDとの会話は、彼がいかにしてアフリカ大陸の優秀な頭脳と提携し、アフリカにエンジェル投資界を構築できたかを説明するところから始まった。彼は、Lagos Angel NetworkとAfrican Business Angel Network(ABAN)を立ち上げたチームの一員である。
TDがアフリカン・エンジェルのコミュニティで活躍していることはよく知られているが、それ以上の存在でもある。
「私は様々な肩書を持っています。Greentechの最高投資責任者、ABANの社長、Lagos Angel Networkの共同設立者、そしてGlobal Business Angel Networkの役員です。また、World Business Angel Forumの創設メンバーでもあります。」とDavies氏は自身について述べた。
また、スタートアップに投資するための独自のフレームワークついても語ってくれた。
この10年間、提案(Proposition)、組織(Organisation)、経済性(Economics)、マイルストーン(Milestones)を基本としたPOEMモデルと呼ばれるビジョンが実現可能かどうかという視点から、アフリカ中の起業家と交流してきました。“この創業者は有能か?何が彼らを突き動かしているのか?“ということを創業者と会って確かめたいのです。
最後に、そのソリューションは革新的か?その提案は説得力があり、ユニークか?また、そのビジネスモデルは持続可能か?私が創業者に会う時は、このような点に注目して会話を進めます。
Ato Bentsi-Enchillエンジェル投資家とスタートアップ・アドバイザー
7月にガーナを訪れた際、出会った一人がAto Bentsi-Enchill氏だった。彼が文系出身からビジネスやスタートアップへの投資に転身したという事実が、目にとまったのだ。彼はどうやってスタートアップについて学んだのだろうか。
最初の頃は、評価レポートを依頼されると、まずYouTubeでガイダンスを受け、そのテーマに関する本をできるだけ読み、自分のネットワークの人たちに話を聞きました。」とBentsi-Enchill氏は切り出した。「将来的にはMBAも必要でしょうが、どちらかというと自己啓発を中心に学び、それが一番効果的だと思っています。
彼は、スタートアップ・アドバイザーとして、アフリカのスタートアップ企業の資金調達を支援し、気難しい投資家にどう対処するか助言を与えている。今回は、彼が支援した事例をいくつかご紹介しよう。
例えば、投資家はしばしば新興企業に転換社債を提供します。転換社債とは、後日、返済または株式への転換が可能な融資のことです。 私は、創業者が投資を返済することを選択した場合、投資家が会社の株式をいくらか無償で発行するよう求める条件規定書を見たことがあります。かなりの高金利で付加価値もないのに、投資家はまだ株を欲しがるのでしょうか?これは果たして意味があることなのでしょうか。
Adam Molaiアフリカの実業家
ジンバブエは、技術的なエコシステムよりも、ビクトリアの滝(世界最大の滝)でよく知られているが、それを変えようとしている数少ない投資家の一人がAdam Molai氏である。
2000年、Molai氏はTRT Investmentsを通じて、他のアフリカ企業への投資を開始した。昨年は、アフリカの起業家が必要とする資本、指導、助言、ネットワークへのアクセスを提供するために、200万ドルでJua Fundを立ち上げた。
過去20年以上にわたり、彼はアフリカの新興企業に投資し、Jua Fundを通じて、ケニアのGrowAgric、マダガスカルのJirogasy、ジンバブエのBRYT、ナイジェリアのPowerStoveなどを支援してきた。
TechCabalのマネージング・エディターであるKoromone Koroye氏との対談では、スタートアップが資金調達をする際に参考にすべき事例の1つを紹介してくれた。
私がこれまでで分かったことは、資金を得るために何が必要かを、何の確信もなくただ漠然と模索しているケースがいかに多いかということです。もっと総合的に判断すべきだと思います。“資金を得るためには何をしなければならないか”とスタートアップは考えるべきであり、そうでないと、資金を得るまでに何カ月もかかってしまいかねません。必要とする資金がそこにあるのに、デューデリジェンスのプロセスをクリア出来ないため、資金調達ができないのです。
Sunu Capitalソロ・ジェネラル・パートナーを擁する汎アフリカのファンド
Benjamin Schmerler氏は、18歳で米国を離れて以来、世界中のほぼ全地域で生活し、仕事をしてきた。 自身の会社名である「SUNU Capital」は、セネガルで偶然見つけたものだという。
ある歌にsunuという言葉があり、それが「私たちの」という意味であることを知り、心に響いたのだという。「そして何よりも、みんなで力を合わせてより豊かになり、この地球をより良い場所にできると信じているからです。」と、Schmerler氏は語った。
彼が最近考えていることのひとつに、アフリカの市場をどう集約するかということがある。
国境を越えて、効率的にサービスを提供できる大きな集合的なマーケットをいかにして手に入れるか、について、実に興味があります。それができれば、これまでにない規模の利益を手にすることができるに違いありません。
起業家と話をする度に、彼らはアフリカのTAM(Total Addressable Market=獲得可能な最大市場規模)(*1)、つまりアフリカ大陸54カ国のマップでビジネス拡大の可能性を示してくれます。そこで、ガボンをどうにかできないか?カメルーンに進出するにはどうしたらいいのだろう?などと考えるわけです。大陸には未開発地域が多く、ポテンシャルは未知で高く、すべて整って活動できる4~5つの市場を、今後数年のうちに10、20、30カ国にまで拡大することになるインフラにはかなり期待しています。
Kepple Africa 新しい産業の創出
話を始めて数分後、Satoshi Shinada氏は、私にもっとアフリカの国々を訪れるべきだと念を押した。彼は18歳の時に日本を飛び出し、約2年の間にアフリカ40カ国を訪れた。
Kepple Africa Venturesにとって大きなビジョンは、アフリカで新たな産業となるビジネス・クラスターを作ることだ。
対談の中で、Shinada氏は失敗談を語ってくれた。
私は多くの失敗をしてきました。特に酷かったのは、同時に多くの問題を解決しようとするスタートアップに投資したことです。そのスタートアップは、その分野のさまざまなステークホルダーを巻き込んで、あたかもすべてきれいに解決したように見せかけていたのです。しかし実態は、顧客の最大のペインポイントを理解しておらず、マネタイズすることに苦心していました。
もう一つの失敗は、スタートアップと日本企業をいかに結びつけるかを気にしすぎたことです。 以前、私たちが日本に連れてきたスタートアップの中には、日本企業から注目されているものもありましたが、初期段階にあったスタートアップに投資するには時期尚早で、結果、どの企業からも投資を受けることができなかったのです。そこで、私たちが最初の投資家になることにしました。しかし、ご存知のように、投資判断が純粋に商業的な基準ではなく、昂揚感で行われてしまったことで、健全な意思決定が出来ず、ひずみが生じてしまったのです。
LoftyIncベンチャー・キャピタル投資のルールに従わない
2012年、当時30代前半だったIdris Bello氏とそのパートナーたちは、儲かる仕事を辞め、貯金を切り崩してLoftyInc Afropreneurs Fundを設立した。その後、試行錯誤を重ねながら、ある程度の成功を収めるようにまでなった。現在、LoftyIncは3つのファンドを運営し、Flutterwave、Andela、Trellaなど75以上のアフリカのスタートアップに1,200万ドル以上を投資している。
Bello氏は、自らが投資家として歩んできた道のりの全貌を公開することを信条としており、その過程で逃した取引や失敗談をいくつか紹介してくれた。
投資について、人々はあまり多くを語らない側面があります。そういえば、ファンド2号を立ち上げようとしたとき、モーリシャスが良いと言われて登記することにしたのですが、モーリシャスでは登記や書類作成が面倒で、結果的に良い判断ではありませんでした。KYC(本人確認)が必要以上に複雑で、投資側の誰かれかまわず「すべて」を知りたがり、それにかかる費用が見る間にかさんでしまったのです。今にして思えば、それは間違った判断でした。結局、損切りをして、アメリカのデラウェア州で登録することにしました。
失敗の多くは、誤った判断の結果でした。おそらく数百万ドルに上る損失を出した例もあります。2013年、後にAndelaとなるForaに2万ドルの出資をコミットしたことを覚えています。ところが、その日のうちに、別の人が別のアイデアを持ってきたのです。そこで、私はIyinに2万ドルの小切手を用意するように言いました。そして、その小切手を2枚に分けて、両方の会社に1万ドルずつ渡しました。今となっては、最初の出資を取りやめるべきじゃなかったと反省しています。
Capria venturesローカルファンドやスタートアップを支援
5年前、Jack Knellinger氏、Dave Richards氏、Will Poole氏の3人は、アフリカ、中南米、南アジアなど南半球にあるローカルファンド(VCファーム)への投資を開始する投資会社、Capria venturesを設立した。最近では、新興企業への直接投資を開始し、そうした企業が必要とする成長段階の資本を提供している。
現在、Capria venturesは約50カ国で投資活動を行い、6億5,000万ドル相当の運用資産を保有している。
Jack Knellinge氏との対談では、普段はあまり語られることのないVCの支援について聞かせてもらった。
もちろん、一番に考えるべきは資金調達であり、その成約を支援することです。ここでは、紹介からピッチ資料のレビューまで、あらゆることを行います。ファンドの位置づけや、ファンドマネージャー、ジェネラルパートナー、リミテッドパートナーの間で整合性が取れているかを確認するため、条件やリミテッドパートナーとの交渉にも目を配ります。
資金調達が終わると、すぐにポートフォリオマネジメントに移行します。会社を成長させ、規模を拡大し、制度化するために、適切なシステムとプロセスをどのように導入しているのでしょうか。ここでは、チームの育成から、投資前の適切なデューデリジェンスまで、幅広く行う必要があります。ファンドマネージャーが企業のポートフォリオを構築した後は、利益をどう手にするか考えます。どのようなタイミングで撤退するのが適切なのか。部分的な投資回収も視野に入れるのか?
複数の資金を調達するようになった場合、このような点を考慮し、会社や運用したファンドの実績を見ています。
2022年、どの機関投資家の話を聞いてみたいだろうか?
(*1)
TAM(獲得可能な最大市場規模):
TAM(タム)とは、Total Addressable MarketもしくはTotal Available Marketの略で、製品やサービスが獲得可能な最大の市場規模のこと。製品やサービスが最大どれだけの総需要を生み出せるかの年間総額のことである。その市場シェアの100%を獲得した場合の年間売上高で計算する。理論的に提供できる市場規模を推定する方法の一つ。
