2015年、アフリカのスタートアップ企業のうち、資金調達できたのはわずか55社だった。当時は、FlutterwaveWaveといった現在のユニコーン企業がまだアーリーステージにあり、アフリカのベンチャーキャピタルブームも始まっていなかった。

2020年までに、資金調達に成功したアフリカのスタートアップ企業数は、552.73%増加し、359社となった。2021年には、LoftyIncY CombinatorPartechNovatechなどの投資家から、355回の資金調達ラウンドで40億ドル以上を調達したスタートアップが現れた。投資ブームの背景には、アフリカにおけるテック分野の成長が大きく影響している。インフラ、物流、送金、エネルギーなどの分野では、新興企業の参入を待ち望む未開発の領域が多く存在する。例えば、sub-Saharan Africa(SSA)(*1)のインターネット普及率は29%であり、SSAに住む人の46.7%しか電力を利用でない状態である。

アフリカの問題を解決するためにアイデアを持ったスタートアップ企業が次々と誕生しているのは周知の事実だ。しかし残念なことに、これらのスタートアップ企業のうち、実際に成功、または、競争優位性を構築出来ている企業はごくわずかだ。2019年の世界経済フォーラム(WEF)のレポートによると、アフリカのスタートアップ企業のうち、シリーズBの資金調達に成功するのはわずか8%。アフリカ全体では、スタートアップ企業の失敗率は、ナイジェリアで61%、エチオピアで75%、ガーナで74%、セネガルで58.3%、ケニアで58.7%と幅がある。このギャップは資金調達が大きな要因であり、多くの新興企業はオペレーショナル・エクセレンス(問題解決、チームワーク、リーダーシップによって組織を継続的に改善する職場の考え方)の欠如によって資金を確保できないのだ。

TechCabalは、スタートアップ企業がオペレーショナル・エクセレンスを実現し、その過程でより多くの資金を獲得する方法をどのように検討すればよいか、Arnergyの創業者兼CEOであるFemi Adeyemo氏から話を聞いた。

Arnergyはナイジェリアの太陽エネルギー企業で、HeinekenKPMGShellCitibank54GeneArdovaDangote Groupなど多国籍の顧客にエネルギーソリューションを提供している。Building from Ground Upシーズン2の第3話では、TechCabalのシニアレポーターであるDaniel AdeyemiとFemi Adeyemo氏が、Arnergyの過去と、オペレーショナル・エクセレンスを通じて新興企業が同社の成功をどのように参考にできるかについて対談している。

模範となる行動

Adeyemo氏は、創業者がオペレーショナル・エクセレンスの文化を築き、維持するために最も重要なことは、模範を示すことだと考えている。特に起業したての頃は、無理してまで規模を拡大しないようにすることも必要だ。

Arnergyの創業当時、私はソーラーパネルを設置するエンジニアの一人でした。このままではいけないということはわかっていたのですが、それでも成長するまでの間続けていたのは、チームを率いなければならなかったからです。初期の従業員たちは、私がどのように働き、どのような点において卓越しているかを見てきたのです。

実践的な学習や指導を行うことで、チームの基礎となるメンバーが育ち、そのメンバーが同じ習慣をチームメンバーに引き継ぐことが出来るようになる。

口説き落とす

模範となってチームを導くなら、あなた自身がその製品を使って、お客様を導くように努めなければならない。「口説き落とす」のだ!Adeyemo氏によると、自宅を含む主要なオフィスや拠点には、すべてArnergyの製品を導入しているという。

私は太陽光発電の会社を経営しています。もし事務所に来たお客様が、発電機を動かしているのを見たら、あまりいい印象を持たれないでしょう。私たちは、自分たちの製品を実際に使ってみることによって、製品が信頼できるものであることを、見込み客に理解してもらう必要があるのです。

また、Adeyemo氏は、製品管理だけでなく、営業やマーケティングにも役立っていると話す。

実際に製品を使うことにより、より良い設計の方法、欠点、改善点を知ることができます。また、お客様が抱えている問題を素早く突き止めることもできるようになるのです。

KPIとOKRの区別

創業者は、KPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)とOKR(Objectives and Key Results、目標と成果指標)を区別することが重要であると指摘する。

年初に設定し、年末に測定するような、いわゆるKPIに固執していては、組織はオペレーショナル・エクセレンスを達成することができません。論理的なフィードバックと360°のレビューが必要なのです。そこで登場するのがOKRです。Objectives and Key Results(目標と成果指標)は、オペレーショナル・エクセレンスを高めるより確実な方法であり、フィードバックはOKRを継続するのに役立ちます。

KPIとは異なり、OKRは積極的な目標を示し、さらに重要なことは、その目標を達成するための測定可能なステップを明確にすることである。OKRは戦略的なフレームワークであるのに対し、KPIはフレームワークの中に存在する測定値である。 また、Adeyemo氏は、標準化の重要性と新興企業を適切に規模拡大するためにいかに重要であるか説明している。

これは、私たちがエネルギー分野のメジャープレーヤーになる過程で学んだ教訓のひとつです。2013年にArnergyがスタートした当時、投資家はエネルギー業界にあまり関心がなく、誰もがフィンテックに注目していたため、私たちは外部資金を頼らずビジネスをはじめました。標準化はその過程で私たちを助け、私たちが規模拡大するのに役立ったのです。

「完璧な製品は存在しない」

新興企業や起業家は、まずは構築し、その後繰り返すことを学ぶ必要があると、Adeyemo氏は話す。

それは、私が指摘した論理的なフィードバックにつながるのです。フィードバックがあれば、繰り返すことができます。Samsungが最初のタブレットを発売したとき、バグが多く、すぐにオーバーヒートし、完璧ではありませんでした。でも、もし発売していなかったら、Nokiaのようにはならなかったでしょう。今、Samsungはより洗練されたタブレットを持っていますが、それは彼らが繰り返し挑戦し続けたからです。

もう一つの教訓は、ターゲットとする顧客が購入できる価格で製品を提供することだ。「私たちのターゲット市場は、電気を安定して使えないナイジェリア人8000万人であると言うのは簡単なのですが、実際に私たちの製品にお金を払う意思と能力がある人がどれだけいるでしょうか?つまり、顧客の所得が届く範囲で製品を作ることができれば、規模を拡大することができるのです。」Adeyemo氏は最後に、オペレーショナル・エクセレンスはトップダウンのアプローチであることを改めて強調した。

ラインマネージャーや創業者もその対象です。創業者は、報告されたことが実行されているかどうかを確認することも必要なのです。マイクロマネジメント(過干渉マネジメント)をすべきだということではありません。リーダーは部下を信頼すべきです。でも、必要があれば、部下をチェックし、報告されたデータを検証すべきなのです。

(*1)アフリカ(アフリカ大陸に限られず島嶼を含む)のうち、サハラ砂漠より南の地域。言い換えると、アフリカのうち北アフリカ以外。ただし国際連合の定義では、北アフリカとも一部重複する。略してサブサハラ、訳してサハラ以南のアフリカともいう。