アフリカの金融機関の融資判断は、長らく信用調査機関よる、消費者の財務履歴を拠り所としてきた。それすらない場合は、性別、雇用形態、所得水準などの社会的属性が審査対象とされてきた。

こうした従来の融資方法には少なからずデメリットがある。銀行口座もなく、非正規雇用でしかない何百万人もの人々が不利な状況に置きざりにされてしまうのだ。そのため、アフリカでも遠隔地に住む人々のクレジットへのアクセスは世界的に見て最も低い水準となっている。

この10年間で、クレジットのリスクを審査する代替手段として、人工知能や機械学習ツールに基づく新たなモデルが登場してきた。新興国における代替クレジットスコアリングのトレンドを牽引するフィンテックの1つ、Yabx。同社アフリカビジネス担当ディレクター、Eunice Gatama氏はこう指摘する。

正確な履歴なしに信用力を評価することは、アフリカの金融サービスにおいて見過ごせない問題であり、一方で社会的な人口統計データは適切な与信判断を行うにはまだ十分とは言えません。

インドのMahindra GroupComvivaが支援するこのスタートアップ企業は、クレジット情報機関や公共料金請求書などの情報源と機械学習によるモバイルマネー記録の分析を組み合わせて活用している。

このデータは、例えば、借り手の消費行動を探るために利用される。中小企業への投資や個人的に必要なお金の使途など、クレジット利用歴には載らない潜在的な借り手のリスクプロファイルを作成する。このソリューションは、信用調査機関が及ばない市場の銀行やマイクロファイナンス機関へも適用される。Gatama氏はTechCabalのインタビューで、次の通り答えている。

当社は、金融サービス事業者が、モバイル端末で簡単にローンを申し込める収益性の高い無担保ポートフォリオの構築を可能にします。収集されたデータからは様々な要素が読みとれるのです。

Yabxは、小口消費者向け融資と同様に、零細ビジネス、モバイルマネー代理店向け無担保運転資金、スマートフォン購入資金等の融資、貯蓄商品なども提供する。また、Yabxのソリューションにより、瞬時の融資判断が可能となった。

Yabxは、アフリカ、アジア、ラテンアメリカの15に上る新興市場において、1億人以上の借り手(うちアフリカ人は50%)のクレジットスコアを算出したと明確に示している。同社によると、パートナーネットワーク上でひと月に1,000億件以上のデータレコードを処理しているという。

アフリカでは、タンザニア、ウガンダ、マラウイ、ソマリア、モーリタニア、コートジボワールで、大手通信事業者、電子商取引や決済サービスのプレーヤー、銀行、その他の金融機関と提携し、複数のデジタル融資商品を展開している。同社は、独自のデジタル融資商品の開発・販売を目指す金融機関をターゲットにしたホワイトラベルサービス(*1)や、他の融資パートナーとの収益分配契約等の融資実績から収益をあげている。

モバイルマネーの普及と利用拡大を鑑みれば、現在アフリカでは、モバイルウォレットが代替クレジットスコアリングの算出ベースとしてベストであるとの見解をGatama氏は示す。GSMAは最新版の年次報告書「State of Industry」において、2021年にモバイルマネーの取引額は1兆ドルを突破し、取引総額の約70%をアフリカが占めたことを明らかにしている。

アフリカでは、従来金融サービスへのアクセスが容易ではなかったが、携帯電話の普及により、今や多くの人々が利用出来るようになった。「アフリカの半数以上の人々は依然として銀行口座を持っていませんが、携帯電話の所有率は高く、金融サービスへのアクセスにも利用しています。」と、Gatama氏は続けた。

銀行が現在取り込むことのできない大量販売市場に特化して、クレジット商品を提供する機会を生み出すのです。

現時点で、さらにアフリカ11カ国への進出が確定しており、ケニア、トーゴ、ベナン共和国、ザンビアなど、モバイルマネーが普及している市場を優先的に開拓していく予定だ。「モバイルマネーが定着している国は、容易に進出できると見ています。」とGatama氏は期待を寄せる。

これまでYabxの機械学習モデルは、貸出先の不良債権率を一桁に抑えることに成功してきたが、万全と言うにはまだ遠く、さらなる改善が必要となると先行きを見越している。

「機械学習の仕組みは、モデルの学習を重ねることで、予測能力が向上していきます。」と、Gatama氏は解説する。

時が経つにつれて、より多くの情報が得られるようになり、より強力なモデルが型作られていくのです。

モバイル端末のデジタルフットプリントを利用して、銀行口座のない20億人以上へ簡略化した金融サービスアクセスを提供するという、壮大なビジョンの実現に取り組むYabx。法規制、データプライバシー関連、集計データの信頼性など、重要な課題と同社はこの先向き合うことになるだろう。

(*1)ホワイトラベルサービス

ある企業が生産した製品やサービスを、他の企業が自社のブランドとして販売することをいう。リブランディングの手法の一つで、家電製品や食料品、日用品、ソフトウェア、システムなどで広く用いられており、通常、生産先では自社ブランドにこだわらず販路の拡大を重視したい場合に活用し、一方で販売先では、生産することなく自社ブランドを提供したい場合に活用する。

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