2020年のパンデミックの最中、何百万もの学生がステイホームを余儀なくされたが、そのずっと前に、Nathan Nwachukuは既にリモート学習を体験済みだった。パンデミックの前年、15歳の誕生日に、彼は目に大怪我を負い、5カ月間学校を休まなければならなかった。その経験が、世界中のバーチャル教育に革命を起こすかもしれないビジネスのきっかけとなったのだ。

物理学の教授を目指していたNwachukuは、当時ポートハーコートの自宅からどこへも出かけられず退屈を持て余していた。そこで、暇つぶしと小遣い稼ぎのためにと物理のオンライン授業を試してみることにした。

録画ビデオの編集ができなかったので、ライブ授業に軸足を置いたが、そのためのプラットフォームはなかなか見つけられなかった。そして、Nwachukuは自力でプラットフォームを作らなければならないことに気づかされたのだ。それから3年後、18歳になったNwachukuはコンテンツクリエイターのためのライブクラスプラットフォームKlasの共同設立者兼CEOとなり、3月のエンジェルラウンドで13万ドルを調達するまでになっていた。今月末には公表される予定だ。

「決済、スケジューリング、コミュニティ、分析、ビデオ会議など、スケールの大きなライブラーニングを提供するために必要なすべてを提供したい。」とNwachukuはTechCabalに語った。「バーチャルイベントにおけるHopinのように、ライブラーニングに取り組んでいる。」

Klasによる破壊

2020年8月に中学を卒業する頃、彼は人生をどうしたいのか考える時間が必要と思い立ち、母親にギャップイヤー(*1)を取らせてほしいと頼みこんだ。彼の母親は化学病理学の教授という教育者という立場からして、それを説得するのは容易なことではなかった。その上Nwachukuはすでにカナダの大学でコンピュータサイエンスを学ぶための奨学金を得ていたが、最終的には認めてもらえることになった。そうとなれば、自分の進むべき道を見出すのにそれほど時間はかからなかった。

アフリカにおける人工知能(AI)の未来について、中高生に講演する16歳のNwachuku

Klasに専念するために大学進学は辞めてしまったんだ。」と、Nwachukuはその変節を語った。彼の母親は、Nwachukuのビジョンに理解を示し、陰ながら支えてくれたという。

月並みな人生で終わらせたくなかったから、大学には行かなかった。自由にクリエイティブに、生活に何かインパクトを与える仕事がしたかったから。

Nwachuku

ギャップイヤーの最初の3ヶ月は、YouTubeや開発者の友人からコードを学んで過ごした。その後、ナイジェリアの技術エコシステムに遭遇したことから、ライブ授業ソリューションというビジョンに共鳴してくれる共同設立者を探し始めた。

Lekan Adejumoと初めて出会ったのは、昨年9月にY Combinatorの共同創業者マッチング・プラットフォームにNwachukuが参加した時のことだった。彼とは10歳も年が離れているにもかかわらず、すぐに打ち解け、オンライン教育の未来を築きたいという共通のビジョンを分かち合えたとNwachukuは当時を振り返る。共同創業者になって欲しいとNwachukuから請われたLekanは、今ではKlasの最高技術責任者(CTO)も兼任している。

昨年、進捗を見せたものの、Klasには、まだ実用的なプロダクトがなかった。エンジニアはたった1人、クリエイターもいない新会社で、ウエイティングリストすらないという状況だった。

それでもNwachukuは、ビジョンを実現するために意欲的に取り組み続けた。自分のアイデアが教育に革命を起こす可能性があることを彼はよく知っていたからだ。

Klasが一般公開されれば、ユーザー登録で、決済システム、社内メッセージングプラットフォーム、メール送信ツール、データ分析用ダッシュボード、ビデオ会議機能「Klas Live」にアクセスできるようになる。無料プランもあるが、有料プランを選ぶことですべての機能を利用できる。

Klas interface

Klasに登録したコンテンツクリエイターは、プロフィールを作成し、経歴、写真、銀行口座の情報を更新することが出来る。まず最初にオンライン講座を作成し、詳細を入力後、自動的に予約ページが表示される。そこでポテンシャルな受講者と情報を共有することができる。有料講座の場合、「Klas Pay」を利用した取引のトラッキングや、開講後に講座料を請求することもできる。現在、ナイラ(ナイジェリア通貨)と米ドルで決済出来るが、近々、仮想通貨も導入する予定ということだ。

ZoomGoogle Meetのような多目的機能を持つビデオ会議プラットフォームとは異なり、「Klas Life」はライブ講座やバーチャル授業に特化して設計されている。HDビデオや音声、画面共有、録画オプションなどの標準機能に加え、Klasは生徒のID確認や出席状況確認、ライブ学習に最適化された独自のインターフェイスを提供する。また、Klasのコンテンツクリエイターは、録画した授業を自動的にYouTubeにアップロードするようプログラムすることが可能だ。更にコミュニティツールである「Klas Rooms」は、生徒との交流やディスカッションに利用されることになっている。

「オンライン教育の技術的なことはすべてソフトウェアに任せて、コンテンツの制作者はコンテンツの教育に専念すればいいというインフラを構築している。」とNwachukuは言う。

また彼は、Klasがコンテンツクリエイターに許可するのはライブ講座のみで、移り変わりの速いこの時代においてそれがより時宜に適った効果的な方法であると確信している。異なる地域からの受講生を対象にした、好きなタイミングで進められるオンラインコース(Massive Open Online Courses)ではなく、ライブグループ講座に特に重点を置いていることを付け加えることも忘れなかった。というのも、オンラインコースの修了率が3~6%という極端な低さだからだ。一方、リアルタイムで学生が参加するコホート制のコースでは、修了率が85%にも跳ね上る。

夢を売るということ

昨年11月にNwachukuがエンジニアを雇い始めた頃、まだ利益をあげられなかったKlasは給料の支払いすら出来ないという状態だった。昨年12月、親しいエンジェル投資家から5,000ドルを出資してもらって漸く給料の支払いも出来るようになった。

Klasが先月調達したエンジェルラウンドの13万ドルは、ナイジェリアのテック・エコシステムのベテランたちによるものだ。その顔ぶれはSpleetのTola Adesanm氏、Eden LifeのNadayar Enegesi氏、PiggyvestのOdun Eweniyi氏、そしてJumiaのLeonard Stiegeler氏が並ぶ。Klasは、3週間で全てのラウンドを終了した。

資金調達のために、Nwachukuは覚悟を決め、LinkedInで投資家をフォローし始めた。すると、フォロー相手が他の投資家を紹介してくれ、そこから人脈がどんどん広がっていった。「最初にSpleetのTola(Adesanmi)氏に連絡を取ったところ、彼は即座にKlasに魅了されたんだ。」と彼は続けた。「その後、彼はNadayar氏など他にも何人か紹介してくれた。Klasの話を聞いた誰もが興味をもってくれたので、断られたのは1度きりだった。」

Klasは今年後半にプレシードラウンドを調達する予定だが、今回のエンジェルラウンドは、プラットフォームのイノベーションを倍増させ、最終的にナイジェリアやアフリカ以外のクリエイターにも門戸を開くことに役立つだろうとNwachuku氏は予想する。彼は、Klasの競合他社の多くは、すでにクリエイターとの強固なグローバルネットワークを持っているため、これをチャレンジと捉えている。そして、Klasが提供する講座コースの作成におけるシームレスな体験が、他社に差をつけることになると期待している。

現在、Klasには2,500人以上のクリエイターが登録しており、デザイン、コーディング、ビジネス、語学など、さまざまな分野の講座を開講している。

またNwachukuは、英国のEdtechスタートアップ企業であるarticklや、パキスタンのOmdena、トーゴのTDev、ナイジェリアのNo Code Academyなど、世界中のオンラインスクールとのパートナーシップも獲得した。

10代でビジネスを展開する

Nwachukuは、CEOになるのは大変なことだと言う。常に勉強をしなければならないからだ。

しかし、ビジネスや金融、人脈づくりなど、多くのことを学ぶことができ、とても刺激的な毎日だという。

これまで培った知識に縛られず、クリエイティブなソリューションを提供するという点では、Nwachukuの経験の浅さが、却って効を奏しているということだ。「金融の分野では業界のスタンダードに従うけど、技術やデザインの面では、自由な発想でよりクリエイティブに取り組むことができて、それが会社の発展に役立ったのだと思う。」と彼は分析する。

チームメンバーは、各地域でリモートワークをしているが、Nwachukuはそんな彼らをマネジメントすることに生産性を見出すことができて楽しんでいるそうだ。

Nwachukuは、大学で正規の教育を受けていないことを意に介していない。それよりも今は、Klasの本格的なオンライン大学で学ぶことに期待を膨らませている。

(*1)ギャップイヤー大学の入学前、在学中、卒業してから就職するまでの間などを利用して、ボランティア活動やインターンシップなどの社会活動体験、海外留学などをするための猶予期間。日本ではギャップタームgap termともよばれていたが、国際的に通用することからギャップイヤーの呼称が使われるようになった。

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