29歳の起業家が、人々が必要としている何かを創造したい、と仮定して話をすすめることにする。

Y Combinator(以下YC)のアクセラレータプログラム初のバッチは、2005年夏、6月から8月にかけて開催された。当時、デモデーのオーディエンスはたったの15人であった。

この時、8社が合わせて16万ドルの投資を受けた。おそらく、その中で聞き覚えのある企業はRedditくらいであろう。これは遡ること、ラゴスにMPesaが登場する2年前、GSM(global system for mobile communications)ライセンスにいたっては3年前の話だから、当然のこと、アフリカの会社はその一群には存在しなかった。

話を2020年へ早送りしよう。

初期段階にあるスタートアップを後押しすることで知られるシリコンバレーに拠点を置く組織、YCが、現在、年2回のプログラムから2,412社のスタートアップに資金を提供している。40社に及ぶアフリカのスタートアップがYCへ出向き、2020年夏のバッチでは、それぞれ7%の株式に対し125,000ドルの投資を受け取っている。

Peta Salesは、YCが資金を提供した初のアフリカ発のスタートアップであると見られる。しかし、オンラインでその企業情報を検索しても、見つけることは難しいだろう。

YCが資金提供したアフリカのスタートアップのリストに、2009年冬、1月から3月のバッチに参加したことを示す「W09」タグでそれとわかるものの、同社はそのクラスのウェブサイトに載ってはいない。 そこにはAirbnbも含まれるが、彼らが2万ドルで成し遂げたことが一体何であったかここで思い出して欲しい。

Peta Salesは、YCが出資した現在アクティブでないアフリカのスタートアップ3社のうちの1つである。他の2社はPasserine Aircraft (南アフリカ)とTress (ガーナ)であるが、この2社は2017年の夏と冬のクラスからの企業である。

40分の3という確率は必然的に起こる失敗とは言えないが、アフリカの企業設立という魅力的な側面に影を落としがちなYCのバグや噂話には注意が必要である。現在活動している37のYCのアフリカスタートアップのうち、14社は2020年の2回のバッチから生まれ、すべて設立から2年に満たない。

スタートアップの発展予測は、アクセラレータプログラムやコネクションのある投資家によって判断されるわけではない。世界中のYCスタートアップの18.5%が非アクティブであり、それは5社のうち1社という割合に近い。 2017年に設立された75Mドルのリーガルテックスタートアップ、Atriumは、YCの2018年冬のバッチに参加したうちの1社であるが、3月に完全に閉鎖された。皮肉なことに、YCの現在のCEOであるMichael Seibel氏と2つのビデオストリーミングプラットフォームを成功させた共同設立者である元YCパートナーのJustin Kan氏によって設立されたスタートアップなのだ。

最も壮大なスタート

しかし、YCバッチに選ばれることは、スタートアップにとって大きな価値を引き出すきっかけとすることができる。

これは、生まれたてのベンチャー企業が世界的な注目を集めることで、高レベルの戦略的アドバイスと高い純資産による企業寿命を得られる、初期段階のレベルをはるかに超えた、壮大なスタートと言っても過言ではない。 

2019年10月時点で、少なくとも100社のYC支援企業が1億5,000万ドル以上の評価を受けている。新型コロナ(COVID-19)の影響で、これが良くも悪くもどのように変わるか確認する必要はあるものの(Atriumは間違いなくリストから外されるだろう)、そのうちの26社は10億ドルの企業である。そのラインアップにはStripe, Dropbox、Airbnbも並ぶ。 Flutterwaveは、YCのトップ101の最も価値ある企業であり、唯一のアフリカのスタートアップである。

Y Combinator がアフリカのスタートアップに望むこと

YCのプログラムは、冬と夏にそれぞれバッチがあり、それは3ヶ月のブートキャンプといった様相を呈す。

主なアクティビティは以下の 3 つがある。

1 ディナー

スタートアップと著名グローバル起業家、例えばJeff Bezos氏、とのウィークリーオフレコセッション

2 オフィスアワー

戦略と製品市場への適用化をスタートアップに導くための、YCパートナーとの定期的な会議

3 デモデー

スタートアップがYCから125Kドルの追加投資先を獲得するための3日間にわたるピッチイベント。

通常、全期間を通してサンフランシスコで過ごすことになるが、今年の冬のバッチは一部リモートで行われ、先月終了した夏のバッチは完全リモート形式となった。W21 もリモートとなる予定である。

スタートアップ発掘のY Combinator論はそのモットーにある、人々が望むものを創造すること、これに尽きる。

Seibel氏によると、そのモットーが意味するところは、様々なファクターは一顧だにせず、分野や国の多様性を重んじ、どの創設者も等しく扱われるということだ。

特許を持つことや、母校の評判のためという動機は重要視されない。注目すべきベンチャーキャピタル企業やエンジェル投資家からの紹介も必要ない。彼らはビジネスプランすら読まないのだから。

選ばれるための秘訣を控えめに言うとすれば、ソフトウェアの効力に対する十分な評価に基づいたプロジェクトを実行可能にするスタートアップチームの力量であろう。

「優れたソフトウェア開発があれば、ピボットすればアイデアを変えても実行できる」と、Seibel氏は今週、Paystack CEOのShola Akinlade氏との会話で語っている。

おそらく、YCはフィンテックに対してある種のバイアスを持っていたと思われる。そのリストにある40のアフリカのスタートアップのうち少なくとも14社は、主要な金融コンポーネントを所有している。その40社の半分以上はナイジェリアのスタートアップなのだ。そして、グローバルYC支援のスタートアップの創業者の平均年齢は29歳で、アフリカにおいてはそれがほぼ男性というのが典型である。 しかし、どんなスタートアップの応募も思いとどまらせてはならない、とSeibel氏は言う。Akinlade氏 とのチャットでは、YCバッチでのスタートアップ評価のための準備に役立つ3つの事前質問を提案した。

創業チームは、製品を構築し、実行する技術力を持っているか?

共同創業者間の関係性は? 応募を決める以前から、数週間~数ヶ月以上お互いを知っていたか?

製品に取り組んだ期間、スタートアップは何をしたか? また、運用テストを実行前にスタートアップ設立についても言及する必要がある。Seibel氏の比喩を借りるとすれば、NBAのスーパースターになるべく膨大な契約金を積まれた背が高く才能あるバスケットボール選手でさえ、ジムでフォーメーション練習のために何時間も費やしたに違いない、となる。

とにかく応募せよ

何はともあれ、Akinlade氏のアドバイスは応募すること、これに尽きる。

2015年9月設立以前、Paystackは2008年に「Dropboxのオープンソース版」と称したスタートアップでYCに応募したが、採用されることはなかった。

Paystack の最初のアプリケーションもまた成功しなかった。それをスクリーニングしたYCパートナーは、創設者は有能だとは思ったが、十分な牽引力が見出せなかったという。

しかし、彼らは2016年冬のバッチでは3つのうち2つの「Yeses」を獲得し、3番目のアフリカのスタートアップであり、最初のアフリカのフィンテックであり、かのアクセラレータプログラムに参加する最初のナイジェリアのスタートアップ(Peta Salesを数に入れなければ)という唯一の存在となることができた。

「私たちのアクセントのせいで、メッセージが伝わり難かったかもしれない、と気になっていたが、それは問題ではなかったようだ」と、Akinlade氏は2016年1月に共同創設者でCTO Ezra Olubi氏と共にサンフランシスコに到着した当時を思い起こして述べた。

4年後、Paystackはいとも簡単に大陸で最もエキサイティングな企業の1つへと成長し、しばしば、VisaやMastercardのEzra Olubi氏の会話にポテンシャルンシャル買収の話題として登場することとなる。

2015年後半にYCに応募した時点で、Paystackの生涯収入は1,300ドルであった。それが、2020年8月だけで1億5000万ドルのビジネスを処理したのだ、とはAkinlade氏による弁である。1トランザクションあたり1%+50セントの定額率とは一体..? 

YCは、Paystackのクレジットを所有していない。それは、成功しようが失敗しようがどのポートフォリオ企業についても同様である。しかし、 3 か月のバッチ終了後もYC コミュニティへはアクセスできるのである。 バッチの卒業生であることは、文字通り、ビジネス関係やアドバイスのためのスピードダイヤルとなる世界で最もエキサイティングなスタートアップと交流できる機会を持てることを意味する。

アフリカのビッグビジョン

早い段階から7%の株式を与えることに疑問をもたないスタートアップであれば、YCでチャンスをつかむことを想定する必要はないだろう。

プレシードベンチャー企業が価値提案においてYCのスタートアップとして準備できる能力を秘めているのを見て驚かないで欲しい。Microtractionはそのほんの一例である。

ソフトウェア思考と技術的能力の実行に加えて、YCのスクリーニングツールを通過するもう一つの秘訣は、スタートアップのビジョンのスケールである。

「恐れを知らない大胆な目標を聞きたい。壮大なことを成し遂げたい人の話を聞きたい」と、Seibel氏は語っている。

初めに最低限実行できる製品はサイズが小さいこともあるが(YCにおける3ヶ月の間に変更される可能性もある)、得てして、投資家は壮大なビジョンに触発される傾向にある。

このビジョンとは、他の国や地域をターゲットにするより、まずはアフリカをカバーしようとすることが好ましい、とSeibel氏は言う。YCはアフリカのパートナーを持っていないので、アプリケーションレビューを担当するのは、シリコンバレーのアフリカのためとなる注目すべきスタートアップに回ってくることは珍しいことではないからだ。

スタートアップのYCアプリケーションは、究極を言えば、明確なコミュニケーション(「X業界を震撼させる」等の虚栄の指標のような大げさな言葉を避ける)と創設チームの信念にかかっている。

「何があってもこの会社をやっていこうとする心意気をもった創業者に資金を提供したい」と、Seibel氏は言っている。

「特別な人たちと仕事をする時、何を差し置いても、彼らの邪魔をしないことが一番である。」

応募方法

このファクトシートは、YCへの参加を勧める理由、その方法を必要な予備知識と伴にアフリカの起業家のためにまとめたものだが、3ヶ月の間に何が起こるか更に詳しく知りたければ、YCのFAQがガイダンスとしては何よりもベストであるのは言うまでもないだろう。