Vietnam Investment Review

日本のM&Aマーケットにとって、ベトナムのヘルスケアや医薬品業界は依然として魅力的な分野である。Vietnam Investment ReviewのThanh Van氏は、株式会社レコフのマネージング・ディレクター兼RECOF Vietnam Co, Ltd.のCEO、吉田正高氏に日本企業のベトナム市場進出についてインタビューを行った。

株式会社レコフマネージング・ディレクター兼RECOF Vietnam Co, Ltd. CEO吉田 正高氏

最近の日本企業によるベトナムの医療・製薬関連のM&Aについてお聞かせください。

ここ何年か、ベトナムにおける日本企業のM&Aの件数は年間2~30件で推移しており、そのうち医療・製薬関連のシェアは10%、年2~3件程度にとどまっています。顕著な例では、2019年の大正製薬によるベトナム最大の上場製薬会社Hau Giang Pharmaceutical社の買収があります。出資比率を徐々に増やすことで2億ドル以上を投資し、最終的に買収に至ったというケースです。他は、約1,000万ドル以下の小規模投資がほとんどで、一部取引額を開示していない投資もみられます。

過去10年間に日本・ベトナム間で行われた医療・医薬品分野のM&Aは14件、そのうち大規模な取引は5件のみで、残りは小規模なケースばかりです。

医薬品を始めとした製造業が7件、ヘルステック関連が5件、それ以外は医薬品流通・医療サービス事業でした。

住友商事は、ベトナムの大手ヘルスケア仲介業、Insmartに出資を予定していますが、このようなM&Aがベトナムで増加すると思いますか?

今回のM&Aは、日本企業の投資先が製造業からサービス業へシフトしていることを象徴していると思います。ベトナムが、低価格なOEM(*1)ブランドの製造業から、Insmartが提供するようなサービスを必要とする先進的な社会へと変化・成長していることが日本企業に評価されたのでしょう。そうした日本企業とのパートナーシップを望むベトナム企業が存在する限り、M&Aの数は増え続ける筈です。

日本の企業や投資家がベトナム企業のM&Aを行う際に直面する法律の壁はありますか。

海外の投資企業による戦略的パートナーシップ成立のためには、株式の過半数を取得することが必要となります。しかしながら、国営企業を含むベトナムの製薬会社は株主が数多く存在するため、それが難しいというケースがよく見られるのです。大正製薬の他にも、あすか製薬ゼリア新薬なども、少額の出資からスタートし、数年かけて漸く過半数の株式を取得することに成功したのです。こうした企業は、誰も気づくことのなかったベトナム市場でのチャンスを見出すことができましたが、日本の製薬業界において、非常にまれな成功例だと思います。

なぜ稀な例かと言いますと、海外の投資企業はベトナムに対して生産コストの安さを重視する傾向があるので、おそらく先進技術をベトナムに完全移転するための予算をかける準備がそこまでできている投資企業は多くはなかったからでしょう。

多くの困難や障壁があるにもかかわらず、なぜ大正製薬あすか製薬などの日本企業はベトナム企業への出資比率を高め続けているのでしょうか。

ベトナムの著しい経済成長と若者人口は、医薬品市場の拡大を狙う日本の製薬会社にとって魅力的です。

しかし、継続的に海外からの投資を呼び込むには、社会や経済動向を注視し、保険を始めとした社会保障制度を充実させなければいけません。

とはいえ、私は、法律が最大のハードルではないと見ています。海外の製薬会社は、ベトナム進出に最適なタイミングを見極めています。ベトナム企業側も海外企業との提携を受け入れる態勢と準備を進めていくことが重要です。

急速な経済成長を見せるベトナム、その一方で糖尿病、心臓病などの生活習慣病の増加という別の問題を抱えています。国全体の平均年齢が31歳というベトナムが「若い国」であることに変わりはありませんが、今後は、社会の高齢化にも目を向けることが求められることになるでしょう。

(*1)OEM=自社で製造した製品を、自社ブランドではなく、他社のブランドで販売する製造業者のこと