2021年7月に、ティーエスアイのグループ会社であるJAVIS Ventures及びヒューマンライフ・マネジメント(HLM)は、介護サービスを提供しているWecare247というベトナムのスタートアップに投資を実行しました。ベトナムでの介護市場を初め、病院の現状についてWecare247のCEOである Nguyen Tam氏に話を聞きました。

Wecare247を設立したきっかけは?

私の家族は50年前から医療業界に携わっており、私の父は医師でもあります。ある日、友人と話している時に、ベトナムの公立病院の課題に気付きました。ベトナムの医師は質の高い教育を受けており、非常に優れた技術を持っています。ベトナムに欠けているのは、施設やサービスの質、つまり患者のための特別なサービスや一般的なヘルスケアサービスです。

私たちは2017年にWecare247を設立しましたが、その2~3年前に市場調査を行い、アメリカのビジネスモデルをベトナムに持ち込むことにしました。しかし、当時のベトナム市場にとっては、私たちが提供していたサービスは高価で先進的すぎました。価格を下げて提供するしかなく、利益は全くありませんでした。その後、ある出来事がWecare247を大きく変えました。2018年、私の母が病気になって手術をしなければならなくなりました。母が入院した後、ある女性が私たちに「介護者が必要ではないか」と尋ねてきました。

彼女に費用を尋ねると、Wecare247で行っていたサービスよりもずっと安いことがわかったのです。研修を受けたのかと尋ねると、「実務経験が豊富で慣れているので、教育を受けた人よりもはるかに良い仕事ができる」と自信を持って答えました。さらに、「もし、あなたのお客様がケア中に倒れて足を折ってしまったらどうしますか?誰が責任を取るんですか?」と尋ねました。彼女の答えは「じゃあ、私が責任をとる!」という、全く信頼できないものでした。 保証も法的拘束力もなく、何かあっても逃げられるだけなんて、あまりにもサービスの質が低すぎる、そう思いました。簡潔に言えば、介護者を取り巻く状況は混沌としていて改善が必要ですが、一方で強いニーズがあり市場拡大の可能性は確実にあります。これは社会に必要とされている市場であり、私が解決しなければならない問題でもあります。

しかし、きちんとした医学の学位を持ち、研修を受けた人たちは、このような介護の仕事をしたくないのです。つまり、ベトナムで介護サービスをしている介護者は、ほとんどがトレーニングを受けていない素人だということです。そこで私は、医療分野にネットワークがある家系に生まれたという強みを生かして、ホーチミンの全ての公立病院と深いつながりを持ち、全ての病院の院長に病院の状況を聞きに行きました。彼らは介護者の数を知りませんでしたが、彼らが口を揃えて言ったのは、病院内をうろつく介護者はすべて裏社会(マフィア)に「守られている」ということで、私が深く関わるのは危険だという忠告でした。それでも私は挑戦したい、ビジネスを続けていきたいと思っていました。

このサービスは、適切な管理がされずに自然発生し発展してきたものです。田舎の人が家族の面倒を見るために都会に出てきて、それを見た都会の人が助けを求めてきました。2、3日だけの仕事なら簡単ですが、何ヶ月もかかるとなると、きちんとお金を払わなければなりません。そうして生まれたのがベトナムで横行している「介護サービス」です。

病院がいつも混雑している理由をご存知ですか?それは、患者さんではなく、介護者が病院に滞在し、部屋や廊下を占領しているからです。この光景はとても悲しく、不快なものです。そこで私は、介護者たちのニーズを聞き、Wecare247介護者ネットワークに参加するよう説得しました。最初の介護者は1人だけだったのが、5人、10人、数百人と増え、今では数千人になっています。何事も時間がかかるものですが、私は忍耐強く取り組みました。

こんなに詳しい話をしてくれてありがとうございました。Wecare247が設立されてから4年が経過したのですね。ベトナムの状況は改善されていると思いますか?

ベトナム全体のことは言えませんが、ホーチミンの公立病院では確実に良くなっています。以前は介護者を監督する人がいませんでしたが、Wecare247では介護者にきちんと生活の場を提供しているので、床をベッドにする人が病院にあふれることはなくなりました。介護者も多くのベネフィットや適切な教育を受け、管理されています。その結果、病院側も、悪いことが起きたときに介護者が逃げてしまい、自分たちが責任を負わなければならないという心配をしなくて済むので、安心しています。

私がハノイにいた頃、小さい頃はよく病院に行く必要がありましたが、覚えているのは、あなたがおっしゃったように、病院の床に疲れ果てた貧しい人々が横たわっている姿でした。子供にとっては恐ろしい光景でした。私はその人たちを実際の患者だと思っていましたが、今は介護者だと理解しています。

その通りです。以前は、介護者というと、だらしなくて、不潔で、教育を受けていないというイメージでした。今ではユニフォームを提供し、清潔でプロフェッショナルな印象を新たに築き上げています。また、病院側にとっても、誰を探すべきかが明確になり、誰が病院に出入りしているかを管理できるようになったので、非常に有益です。

どのようなサービスを提供していますか。

患者さんの医療プロファイル(年齢、身長、体重など)やケースごとに異なりますし、ケースごとに保険にも加入しています。私たちは時間単位ではなく、フルデイ(24時間)を基準にサービスを提供しています。これは、ある介護者が緊急の問題があってお客様に対応できなくなった場合に、すぐに代わりの介護者を見つけるか、あるいはお客様に料金をお返しすることで、問題を防ぐためです。

Quality Controlはどのようにおこなっていますか。

採用プロセスは一次審査→研修→二次審査と、いくつものステップを踏みます。優秀な人材を選び、仕事を与え、能力の低い介護者よりも有利な待遇を与えることで、スキルアップをしたくなるインセンティブを提供しています。研修証明書については、現在は、ベトナム保健省が選定した公立病院で研修を受けた介護者に発行しています。しかし将来的には、私たち独自のトレーニングスクールを設立する予定です。証明書の有効期限は1年なので、介護者は全員、毎年トレーニングを受けなければなりません。外国語能力証明書と同じで、有効期間が限られているので、必要に応じて1~2年ごとに試験を受けて、自分のスキルが十分に維持されていることを証明しなければならないのです。

介護の質を向上させるための今後の計画をお聞かせください。

3つのフェーズを用意しています。第1段階は介護者を法的に正式な仕事に慣れさせるための「Recruitment and Training」、第2段階は要件と管理基準の改善、第3段階は特定の職業の追加です。現在、介護者は患者の家族に代わって基本的なケアを行うだけなので、練習と経験だけが必要で、特定のスキルは必要ありません。このマーケットはベトナムでは新しいので、すぐに他の先進国のように厳格なルールを適用することはできませんが、介護者がプロのサービス提供者としての考え方に慣れるようにしなければなりません。時間はかかりますが、きっとうまく行くと信じます。

今後、海外のプロバイダーとの提携は考えていますか。

もちろんです。Wecare247がよりプロフェッショナルで強固なシステムを構築するために、先進国から学びたいと思っています。また、JAVIS VenturesとHLMから投資を受けていますので、介護者のためのより効果的なトレーニング教材を作成するためのアドバイスをいただきたいと思っています。日本は医療に関して、最高にプロフェッショナルなサービスを提供していることを知っていますので、ぜひ見習いたいと思っています。

本日はお忙しい中、誠にありがとうございました。衝撃的なお話で、私も大変勉強になりました。今後のご発展を楽しみにしておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

ありがとうございました。