Vietnam Investment Review

過去数十年にわたり、ロシュはベトナム保健省をはじめとした関係機関と協力して、さまざまな活動を通じて医療の向上に努めてきた。ロシュの28年間の歩みと今後のベトナム支援へ向けた計画について、ロシュ・ファーマ・ベトナム社のゼネラルディレクターLennor Carrillo氏がVietman Investment Review紙(VIR)のインタビューで語った。(聞き手:VIR紙記者 Linh Le氏)

「今後も、ヘルスケアマネジメント、薬事、そしてロジスティクスの専門知識を役立てて政府と協力できる分野を常に摸探していきます。」 ロシュ・ファーマ・ベトナム ゼネラル・ディレクター Lennor Carrillo氏

過去28年間に渡り、ベトナムにおいて、ロシュは製薬会社として従来の枠を超えた役割を担ってきました。ベトナム政府、病院、医師とパートナーシップを組み、医療エコシステム全体の改善に取り組んできたその道のりで特に印象深かった出来事と、苦労された話を聞かせてください。

ロシュ・グローバルは創立125年目を迎えましたが、これまで、私たちは‛薬と患者‘という枠を超えて、社会に対してより大きなインパクトを与えるような試みをしてきました。ベトナムでは、政府以外にもベトナム医師会、Bright Future Fund、国立がん研究所、国立血液・輸血研究所、その他の医療機関や病院と連携しています。

政府とのパートナーシップの好例として、乳がんに着目したプロジェクトがあります。2013年から毎年、ロシュは乳がん啓発キャンペーンのスポンサーを引き受け、無料で乳がん検診やベトナム全土の医療従事者(HCP)を対象とした乳がんトレーニングプログラムを提供してきました。この協力体制により、女性45,000人以上の検診、HCP 600人の研修、乳がん早期発見者の増加を実現してきました。2020年には、この取組みを次の段階に推し進めるため、ベトナム医師会と2025年まで5年間のパートナーシップを結んでいます。一連の協力を通じて、ベトナム全土の乳がん治療向上へ向けて専門的かつ包括的なプロジェクトを立ち上げられたことは誇りに思います。

また過去5年間、私たちはBright Future Fundと協力し、非小細胞肺がん患者、約1,500人を対象に、革新的な治療薬入手に伴う経済的な負担を軽減するプログラムをサポートしました。こうした動きは、単に薬の提供に留まることなく、ヘルスケアのエコシステム全体を見渡し、政府と協力して解決策を模索してきたという良い例だと思います。

ベトナムでの30年近い活動の間に、政府がヘルスケアの構築のために積み重ねてきたあらゆる努力には、非常に感銘を受けました。同国の医療制度は、10年前と比べたら全く違った様相を呈しています。

規制面では、特定の医薬品、特に革新的な医薬品への迅速な実用化を可能にする政策の枠組みがあれば、患者に最善の解決策を提供することができます。この点については政府の多大な尽力が垣間見られますし、こうした取り組みを進めようとする姿勢は感服に値します。

医療システムの持続可能性と回復力を高め、将来の危機を乗り切るために、ベトナムは次に何をすべきなのでしょうか。

政府がパンデミックをコントロールし、さまざまな変異株に対応してきたことは高く評価しています。ワクチン接種体制は極めて模範的なものでした。政府は、このプロセスのすべてのステップを確実に踏むことを真摯にとらえ、改善に向け、組織内で日々努力を重ねているのだろうと思います。

教訓という点では、規制という側面に立ち戻ることになります。パンデミックの間、政府は製品の承認について他の規制機関に大きく依存しました。EMA、FDA、あるいは他の参照システムによる承認で対応したため、結果として非常に早くワクチンを入荷できたのです。これは興味深い気づきです。今後、政府は、薬事関連業務をレファレンス・エージェンシーへこれまで以上に依託することで、医薬品実用化の円滑化において顕著な改善を図ることができると思います。

ここ数年、ベトナムのヘルスケアセクターは、サービスの質と患者の治療へのアクセス向上へ向けて、デジタルトランスフォーメーションを加速させています。世界最大のバイオテクノロジー企業であるロシュは、このプロセスをどのようにサポートできるのでしょうか。

パンデミックに対応するために、活動の多くはオンラインに移行されました。たとえパンデミック時であっても、継続的な医学教育は不可欠です。これは製薬企業としての矜持であるとともに、多国籍企業の重要な責任の一つであると捉えています。私たちは、ベトナムの医療関係者の誰もがデジタル活用でより多くの情報を入手できるように政府をサポートすることに尽力していきます。

もうひとつの取り組みとしては、ベトナム医師会、ベトナム社会保障省と連携した「乳がんプロジェクト」があります。このプロジェクトでは、患者登録データベースの作成を支援しています。政府にとっては意思決定のため、医師にとっては病気の理解を深めるために、このデータベースは非常に有力な情報を生み出すことになるでしょう。

それらの成果が上がっている一方で、ベトナムの医療制度はここまで感染症や非感染性疾患(NCD)の影響を大きく受けています。NCDは増加傾向にあり、毎年の全死亡者数の3分の2も占めている状況です。プライマリーケアレベルでのNCDの予防とコントロールに対するベトナムの取り組みを支援するために、ロシュ・ベトナムが今後優先すべきことは何でしょうか。

それは世界的に抱える問題だと思います。高齢化に伴い、NCDはますます蔓延しています。この分野での私たちの最大の貢献は、研究開発に多額の投資を行っていることです。革新的な製品という点において一歩抜きんでたロシュは、これに年間130億ドル以上を投じています。

乳がんは不治の病からより慢性的な疾患へと移行しています。革新的な治療薬の乳がん患者への実用化における改善という点で、ここベトナムで私たちは多くの成功を収めています。さらに、ハイリスクな女性の乳がんに対する認識と早期発見率を高めることも、このプロジェクトのもう一つの目的です。

今後も、ヘルスケアマネジメント、薬事、そしてロジスティクスの専門知識を役立てて政府と協力できる分野を常に摸探していきます。また私たちのグローバルネットワークを活用して、ベトナム政府と専門家の橋渡しを可能にします。こうしたプロジェクトは今後の優先事項の一つとなります。

ロシュのような企業が現地の医療システムの持続的発展に一層貢献できるような好条件を整えるために、ベトナム政府はどのような政策に取り組むべきでしょうか。

ロシュが初めてベトナムに進出した1994年に比べれば、今はずっと良いビジネス環境になっています。多国籍企業にとって有利というよりも、医薬品の実用化という、患者にとって有利な環境と考えた方がいいですね。患者のためになる医療ソリューションを提供できるからこそ、私たちはこの国に来たのですから。

したがって、私たちがこの国に望む条件は、医薬品実用化に直接関係する一般的な事柄です。その意味で、ベトナムで最も改善の余地が見られるのは、規制の分野だと思います。規制のプロセスがスムーズになれば、医薬品の実用化をさらに容易にさせ、よりスピーディーになるという可能性がまだ残されています。

ロシュ・ファーマ・ベトナムと保健省検診治療管理局は、2022年および2023年のベトナムにおける「肝がん管理-Live Longer」プログラムの実施に関してMoUに調印した。

プログラム項目には、ベトナム人、特にハイリスク予備群(中期)と他一般の人々(長期)に対する肝臓がんに関する意識向上、肝臓がん患者を対象とした全身治療へのアクセス強化、医療施設における肝臓がんの診断・治療の効率化などが含まれる。最終的な目標を2年以内に達成するため、このパートナーシップで、医療システムの能力向上を図っていく。スクリーニングから、診断・治療、医療トレーニング活動を支援する政策と多面的な活動の成果を評価し、運用につなげる基準の確立を目指す。ベトナムで最も多いのは、肝臓がんである。Globocan (Global Cancer Observatory)2020によると、新たに肝臓がんと診断された患者は年間26,000人以上に上り、がん患者数全体の14.5%を占める。また、肝臓がんは、がんが原因による死亡者数全体の21%を占め、その数は25,000人を超える。