ブロックチェーンと非代替性トークン(NFT)で、今やより高度に進化しつつある従来型のゲーム。しかし、この技術発展には、妨げとなる多くの障壁があり、それが投資の見通しに大きく影を落としている、とASL LAWのPham Duy Khuong氏、Nguyen Thuy Chung氏、Doan Nam氏は指摘する。
ブロックチェーンゲームとは、仮想通貨の基幹技術となるブロックチェーンを利用したゲームのことである。多くの場合、この種のゲームはブロックチェーンの仕組みの応用からなり、仮想通貨または非代替性トークン(NFT)のシステムを利用することで、プレイヤー同士の売買や取引ができる。ゲームパブリッシャーは取引毎に手数料を徴収してそれを収益化する。
その好例としては「Axie Infinity」が挙げられるだろう。Axie Infinityは、通常のオンラインゲームと同様に、「ポケモン」のようなキャラクターを育てて、戦わせる対戦型ゲームである。このゲームで遊ぶためには、まずNFTキャラクターを3体作成しなければならない。そして、NFTキャラクターは、実際に現金購入する必要がある。
しかし、一度キャラクターを購入すれば、プレイヤーの所有物となり、その後はゲームで収入を得ることが出来るようになる。現在、このゲームは世界中で毎日100万人以上のプレイヤーが利用している。その時価総額は85億ドルと推定され、史上最も高価なNFTゲームと呼ばれている。
このヒットゲームの開発を機に、ベトナムでブロックチェーンゲーム市場は注目を集め人気を博しつつあり、ブロックチェーンゲームプロジェクト開発を強力に後押ししたいという多くの投資家の関心を引いている。その結果、この国で、次々とベンチャー企業が誕生することになった。
2020年版App Annieの統計によれば、ベトナムにおける6,800万人の携帯電話ユーザーのうち、ゲーム利用者のシェアが57%、平均利用時間は3.9時間とかなり高い数値を示している。同国のゲームダウンロード市場シェアは、東南アジアではインドネシア(38%)に次ぐ第2位(22%)にランキングされている。
ブロックチェーン技術の潜在的な役割を担う拠点をベトナムとした場合のメリットは、豊富な人材とその選択肢の多様さ、低コストがあげられ、財政的に負担を強いることなくブロックチェーンゲームを運営できるという点にある。さらに、ベトナムは世界で最も多くの仮想通貨が普及している国のトップ10にランクインしており、これもNFTや仮想通貨に関連したゲーム開発を促進する着目点となる。
また、ベトナム政府もブロックチェーン技術を重要視し、サポートしている。第4次産業革命への積極的な取り組みとしてリストアップされた研究・開発・応用の中でも、ブロックチェーン技術が優先度の高いデジタルテクノロジー分野の一つとされている。
ベトナム科学技術省は、2025年までの国家主要科学技術プログラムを承認する Decision No.2813/QD-BKHCN(政府決定第 2813/QD-BKHCN 号)を発行した。そこには、多岐に渡る主要技術製品が取り上げられているが、その中でもブロックチェーンはAIに次いで2番目にランクされている。これは、ベトナムのブロックチェーンゲーム市場が、近い将来大きなブームになると約束されていることを意味する。
開発への課題
ブロックチェーンゲーム産業発展によるメリットの一方で、この市場への投資を躊躇させるような障壁がベトナムには存在する。
まず人材であるが、豊富とはいえ、その大方はアプリや通常のゲーム開発などの別の専門業種から携わる人ばかりで、ブロックチェーンの専門家があまり見当たらない。これでは、辛抱強い取り組みがないままに基礎がないがしろにされ、プロジェクト開発に影響を及ぼす負の側面を生み出しかねない。結果として、投資対象としての価値を失うことになる。
次いで、ブロックチェーンゲーム産業発展のためのインフラがまだ完全に整っていないことが挙げられる。これまでテクノロジーといえば、通常のオンラインゲームやアプリ開発への応用ばかりであった。従って、長期に渡り持続可能なブロックチェーンゲームプロジェクトの実施に見合った資金を得られていないというのが実状である。
さらに、ベトナムにおけるブロックチェーンゲームの多くはまだ運営の透明性に欠けるというきらいがある。国内外の市場で一定の成功を収めたプロジェクトは数多くあるが、中にはロックされているはずのトークンの転売や一般的な手口による詐欺・不正行為が問題視されたりもする。そのようなケースが発生した場合、ハッキングが原因だと言い立てる創業者もいるが、これを証明するには困難を伴うことが多く、市場の信頼も評判も損ない、資産自体を失ってしまうおそれがあるのだ。
ベトナムのブロックチェーンゲームプロジェクトが、投資家の興味を惹かないもう一つの見過ごせない原因として、ブロックチェーン技術や仮想通貨に関する法的枠組みがベトナムでは設定されていないことがあげられる。NFTゲームはブロックチェーン技術を応用してトークンを使用するが、取引に現金を伴わないため、現在のベトナムの法律では非合法と見なされる危険性がある。
しかし、最もデリケートな問題は、ゲームによって取得したトークンや仮想通貨を実際に現金と交換したり引き出したりできることにある。これは従来のゲームでも、NFTゲームでも認められておらず、法律違反に問われる可能性があるのだ。他のアカウントとの取引、売買、交換、または支払い手段として使用するために、ゲームから仮想通貨を作成することも、現在の法律では認められていない。
こうした事情で、ベトナムにNFTゲーム制作のライセンス会社が存在しておらず、それ故、投資家はシンガポールや米国を主な投資先として選ぶことになってしまう。
法規制の枠組み
このほかにも、ベトナムにおける知的財産権(IP)法の施行も、ブロックチェーンゲームプロジェクトの投資家の期待には応えていないという現状がある。この国の知的財産法は包括的で、国際標準と概ね一致してはいるが、特定の知的財産問題、特にデジタル変換、AI、ブロックチェーンに関するガイドライン制定までまだ立ち遅れている状態だ。
ベトナムの行政官や裁判官は、知的財産に関する専門知識がまだ乏しく、急速に変化する法律についていけてないという実態もある。それが原因で、ゲーム企画者の権利として重要となる筈の著作権が守られず、特に未登録の知的財産権については、知的財産権侵害への対策が置き去りにされたままなのだ。
ブロックチェーンの法的仕組みが明確で、多くの投資家を集めてプロジェクトを展開できるシンガポールへ、ベトナムの創業者が会社設立のために流れて行ってしまうのも頷ける。実際、シンガポールでは、シンガポール金融管理局(MAS)が、仮想現実の管理・利用を規制する法律の施行について検討を始めている。
また、MASは、イニシャル・コイン・オファリングの仮想通貨ファンド設立に関心を持つ人々を対象に規制の枠組みを策定することも視野に入れている。さらに言えば、シンガポールは、この分野で事業を行う中小企業に特化したブロックチェーンと仮想通貨の業界団体、Association of Crypto-Currency Enterprises and Startups Singapore (ACCESS)を抱える、世界でも数少ない国の一つでもあるのだ。
ブロックチェーンとNFTゲームは投資家にとって肥沃な土地のようなもので、経済を発展させ、この分野にアクセスすることにより、ベトナムの第4次技術革命を推し進めることができる。一般的にブロックチェーン分野は極めてエキサイティングな分野とされており、中国やアメリカなどの大国とベトナムとの間にあまり大きな差はないと思われる。
だが、この潜在的な市場を開拓し、意欲的に発展させるには、政府や省庁がブロックチェーンや仮想通貨に関する法的枠組みの構築を強化し、経済資源をつなぎ、人材育成を促進することが必須となる。NFTゲームの成功例が増えれば、ベトナムは世界中の投資家からの資金調達実現のみならず、世界のブロックチェーン・コミュニティにおけるベトナム人技術者の存在感を高めることができるのだ。