Vietnam Investment Review

持続可能な発展へ向けてイノベーションを追求するベトナムは、低中所得国として次なる段階へと突入した。そこで新たな成長モデル構築の鍵を握るのは、企業の労働生産性向上であるとされている。

ベトナムは近く、先端技術の開発・応用で企業を支援する計画を採択する見込みだ

2020年にサプライチェーンの混乱と失業率の上昇が表面化して以来、国際機関はベトナムにイノベーションと研究開発(R&D)への増資を促してきた。

国際通貨基金(IMF)の理事会は先日、ベトナムのマクロ経済政策に関する協議を終え、次のように結論付けた。

ベトナム経済は過去10年間で急速なペースで成長してきたものの、生産性という点では、その成長は限られた役割しか果たしてこなかった。

「生産性向上のためには、生産プロセスのデジタル化推進、人的資本や労働者スキルへの投資、企業成長に関する障壁の除去、また資源の誤配分削減など、さらなるイノベーションが必要である。」と同理事会では提言された。

一方、世界銀行によると、近年の急速かつ持続的な経済成長にも関わらず、ベトナムの全要素生産性(TFP)の立ち遅れが指摘されている。パンデミック以前、同国のGDPは毎年平均6.5%の成長を見せていた。

しかし、この成長は主に低コストで労働集約的な製造業分野によって達成されたもので、ベトナム全体の経済的成功においてTFPの成長が果たした役割は大きいとは言えない。2014年から2018年にかけての企業レベルの平均TFP成長率は2%未満であり、アジアの一部諸国で見られる水準を下回っている。

昨年9月、世界銀行はベトナムの科学技術とイノベーションに関する報告書を発表し、製造業の自動化に関してデジタルギャップが続いていると述べた。ベトナムでは、ロボットや3Dプリンターなどのインダストリー4.0(第4次産業革命)関連技術を活用している企業はごく僅かである。

「コンピュータ制御された機械を導入している企業は29%、その技術を集中的に利用している企業は8.7%に過ぎないことを考慮すると、これは懸念すべき問題だ。」と同報告書は指摘する。

この結果は、技術的なフロンティアと呼ぶには程遠く、リープフロッグ現象の可能性が低いことを意味する。ベトナム企業は、まずプロセスをデジタル化し、さらに高度なインダストリー4.0にアップグレードすることで、イノベーション能力を蓄積し続ける必要がある。それにより得られる対価は非常に大きいだろう。

さらに、デジタル利用指数は、ベトナム企業のデジタル技術インフラへの投資が低い水準にあることを示している。この指数は、コンピュータやクラウドサービスなどのデジタルインフラの利用度合いを企業の平均投資額を用いて比較し、0~100の数値で表される。指数が100の場合、完全にデジタルインフラが活用されていることを意味する。

調査によると、ベトナムのデジタル技術全体の利用指数は、平均で38程度であることが判明した。また、技術別の利用指数は、インターネットが平均で75であるのに対し、デジタルプラットフォームの活用が27でしかなく、クラウドサービスに至っては4という低水準にとどまるという。

イノベーションの推進

2016∼2020年のベトナムの労働生産性(LP)が5.79%まで上昇し、2011~2015年の4.27%を上回ったと、先日の国会(NA)でベトナム政府から報告があった。TFPは経済成長率45.42%という数字を打ち出し、当初の目標であった30~35%をはるかに超えた。

しかし、IMF理事会によれば、TFPの成長率向上のためにはさらなるイノベーションが必要であるという。研究開発費の対GDP比や一人当たりの特許出願件数は、ベトナムの発展水準とほぼ一致している。しかし、デジタル経済への中小企業の参加や、一般人のデジタルスキルの習得は、競合他諸国と比較して低いままである。

デジタルシステムの利用や維持に十分なICTスキルを有していると回答した企業は、わずか40%に過ぎない。研究開発の大半は政府機関によって実施されており、その質と関連性の低さに悩まされている。労働市場における人的資本の低さとスキルのミスマッチは、依然として懸念材料である。

グローバル・バリューチェーンとの統合が進んでいるにもかかわらず、理事会はベトナム企業の企業レベル技術導入調査のデータを引用し、ほとんどの企業が技術フロンティアからかけ離れていることを示し、技術普及の弱さを反映しているとしている。プロセス・イノベーションの程度は、大企業や中堅企業、国内企業に比べて、小企業では著しく弱い。

国連開発計画(UNDP)は、ベトナムはインダストリー4.0が成長と雇用創出に与える影響に備え、適応していかなければならないことを示唆した。

「インダストリー4.0の加速は、ベトナムの新たな成長を後押しする要因になる一方で、将来の雇用創出に影響を与えるという観点から、チャンスとリスクの双方をもたらすことを意味する。これまでベトナムの成長を牽引してきた分野において、労働者は、自動化とAIにより雇用を奪われてしまうことが予想される。」と、UNDPはベトナムに関して報告書で述べている。

国際労働機関(ILO)は以前、ベトナムの仕事の70%が自動化のリスクにさらされていることを指摘した。農林水産業(83.3%のリスク)、製造業(74.4%)、食品・飲料(68%)、衣料(85%)、電子機器(75%)、自動車の卸・小売・修理(84.1%)、サービス部門(約32%)、小売(70%)などが、自動化リスクの高い業界として挙げられている。

一方、現在ベトナムでは、年間約160万人が新たにローカルの労働市場に参入している。この労働者流入による雇用負担は、ロボットやハイテクが、多くの労働者に取って代わるとされるインダストリー4.0が台頭してきたときに、さらに増大すると予想される。とりわけマニュアル作業が伴う分野では、それは顕著になるだろう。ベトナムでは、LPを増やすことがますます喫緊の課題となってきている。

2022年上半期、ベトナムでは約8万3,600社の企業が市場から撤退した。統計総局によると、各企業の雇用者数を約20人とすると、失業者総数は167万人以上に上ると試算している。

新成長モデル構築のための推進力

ベトナムの2021-2025年経済構造改革プランでは、より高い経済成長と生産性に基づいた新たな成長モデル構築のための解決策として、LPの増加が第一に挙げられている。「2016-2019年のLP5%から、2021-2025年には年6.5%以上まで上昇させ、そのうち産業成長の80%を生み出す製造・加工部門のLPは毎年6-7%に達することが課題となる。」と同プランには記されている。「GDPにおけるTFP比率は45%でなければならず、ASEAN4カ国(インドネシア、マレーシア、タイ、フィリピン)との国家競争力の差は、特に制度、インフラ、人的資源の面で埋められなければならない。」とも指摘されている。

Naもまた、LPの年平均上昇率を2016〜2020年期の5%から、2021〜2025年期に6〜7%とする目標を掲げている。そのために、デジタル時代に適した形で雇用法を改正し、2021年に56%だった非正規雇用率を2025年までに50%以下にする計画だ。

この10年間でインダストリー4.0技術を適用する工業企業へ向けた支援スキームを、ベトナム政府は近く採択する見込みである。スマート生産発展のためのDXを推進するこの計画案では、ベトナム企業の約36%が2025年にDXを効果的に実施し、その割合は2030年までに85%に増加するとしている。

この計画案を策定した産業貿易省科学技術局の上級専門家、キウ・グエン・ベト・ハー氏はVIR(Vietnam Investment Review紙)に対し、DXによってベトナム企業はさらにグローバルなサプライチェーンに加わり、海外のパートナーと協力し、競争力強化につなげることができるだろうと語っている。「企業は新たなビジネスモデル、製品、サービスの開発においてこれまでとは異なる価値を創造するとともに、顧客満足度を高める能力とコーポレートガバナンスを向上させることができる。」と同氏は期待を覗かせた。