Vietnam Investment Review

2005年に初めてベトナムで採択された電子取引法は、デジタル経済の成長と推進へ向けて改正が進められている。

今回の改正の主な目的の一つは、電子取引促進のため、健全かつ安全な規制環境の構築である。

同テーマにおける立法者としての関心は、国際的なルールや枠組みに向けられるのかもしれない。よって、ここでのレポートは、EU、英連邦、シンガポール、インドネシアなどの他の法域の電子取引に関する法律が、適用範囲、仲介者、消費者保護をどのように規定しているかについて所見を共有することを目的とする。

適用範囲

文書、認証サービスなど、 電子化された取引要件の規制に重点が置かれていることは、法域を問わず一貫して言えることである。このため多くの国では、公証を必要とする取引を電子取引法の適用範囲から除外している。

例えば英連邦、シンガポール、オマーンでは、遺言書作成、あるいはその執行、オマーンではさらに、結婚や離婚など、個人の身分法に関連する取引も除外されている。また英連邦、シンガポール、インドネシアの法律で示されているように、不動産もよくある除外項目である。

ベトナムの現行の電子取引法は国際的なルールに従っており、土地使用権、家屋所有権、不動産の証明書、相続文書、結婚証明書、離婚決定、死亡証明書などの交付を除外している。

実際、公証特有の複雑な要件への対処を要する不動産や個人の身分証明書の取引に関しては、電子取引で十分とは言い難い。

書面や公証が必要となる特定の民事、商取引、行政取引を予め電子取引の対象から外すことで、電子取引法の適用範囲を広すぎず複雑すぎないようにするとともに、適切な法規制の実施を確保し、不正行為を抑止することができる。これらの特殊な取引が除外されないと、詐欺行為を防止するための具体的な保護措置を法に盛り込む必要が生じてくる。

仲介者の権利と義務

この調査対象となった法域の大方では、仲介者を、「データメッセージの送信、受信、保存、またはそうしたデータメッセージに関連する他のサービスの提供において、他の機関、組織、または個人の代理となる機関、組織、または個人」と定義している。

しかし、電子取引法に基づく仲介者の責任については、それぞれ異なるアプローチで規制されている。具体例としては、EU、オマーン、シンガポールは、仲介者のプラットフォームで送信または保存された消費者の情報に対する責任を免除されることが明記されている。

EUでは、仲介者のデジタルサービスはデジタルサービス法(DSA)という別の法律で規制している。違法・有害な情報や活動の拡散を防ぎ、安全なオンライン環境を確保する目的で、当局から特定の命令を受けた場合には、違法コンテンツに対処し情報を提供する義務をさらに課している。

また、DSAには、消費者情報に関する責任を免除される仲介業者の種類、通報すべきコンテンツ、有害コンテンツの管理に関する仲介業者と当局の手続きなど、具体的かつ詳細な規定が盛り込まれている。

EU 以外のほとんどの調査対象国では、電子取引法に仲介サービスプロバイダのさらなる義務付けは含まれていない。

国際的なルールに則すなら、ベトナムの規制当局は、改正電子取引法に仲介業者の義務に関する規定を盛り込むべきか検討する必要があるだろう。

安全なオンライン環境確保のためにそのような規定を含めることを選択した場合、実現可能で強制力を持つよう、念入りにきめ細かく規定されることが重要であり、サービス・プロバイダと関連当局双方によるインターネット上の違法または有害コンテンツの対処方法に至っては、それは殊更である。

消費者保護

本調査の対象国の大半は、電子取引法に消費者保護に関する具体的な規定を設けていない。その代わり、電子取引における消費者保護のテーマは、一般に、消費者保護に関する別の規制か電子商取引法のいずれかでカバーされている。

韓国の電子文書並びに電子取引に関する枠組みには,電子取引の安全性の確保及び消費者の保護に関する章が含まれている。この章では,消費者保護,損失の防止,消費者救済に関する指針を策定し,施行する政府の責任に焦点を当てている。

また、本章では、電子商取引における商品とサービスの公正性を確保することにより、消費者の権利と利益を保護する関連法令、すなわち電子商取引消費者保護法(2002年)についても言及している。

カンボジアには電子取引に関する法的枠組みはないが,電子商取引法がある。それには、適切な情報要件,詐欺,悪意のあるコード,データ保護に関する項目を含むeコマースプラットフォームにおける消費者保護に関する法的規定が含まれている。

インドは、消費者保護法(2019年)が施行されており、同法の下位規則として発行された消費者保護(EC)規則(2020年)の下、デジタル市場における消費者を保護している。

国際的なルールでは、電子取引法は、電子署名、電子契約、電子文書などの電子化された要件の有効性と認証に焦点を当てるべきであるとされている。このアプローチに従えば、そうした有効性と認証に関する規定を更新した現行法の草案は、電子取引における消費者保護をある程度強化することになる。

一方で,ベトナムは消費者保護に関する法律も改正しているので,立法者は,デジタル市場及び電子商取引活動における消費者保護に関する規定をそちらの改正法に組み込むことを検討してみてはどうだろうか。あるいは、電子取引における消費者保護のための別の法令を採択することも、もうひとつの対処法と言えるだろう。*シカゴ大学ハリス公共政策大学院MPP候補者、My Vuong氏