Vietnam Investment Review

ベトナムの再生可能エネルギー業界におけるM&Aの見通しが今一つ明るくない。それは、FIT制度(固定価格買取制度)や汎用性の高いインフラの答えがないことが原因とみられる。

ベトナムの人口、経済、エネルギー消費量は今後も拡大する見込みであり、M&Aの可能性をベトナムに見出す外国人投資家の注目を集める産業の一つが、再生可能エネルギーとされている。

過去、外資系エネルギーグループの中には、ベトナムで当時のタリフスケジュールの恩恵を受けた例もある

しかし、ベトナムでは昨年、大型M&A案件が10件も見られたのに対し、2022年は今のところ2件にとどまっている。Vietnam International Law FirmのVaibhav Saxena氏はその状況について次の通りコメントを寄せた。

過去3~4カ月、市場が減速しています。問題は、投資リターンを試算するためのFIT制度のレートがないことで、他の市場と競い合える市場規制がまだ見えてこないのです。海外投資家の関心は、関税政策が整って初めて、大きく高まるものです。再生可能エネルギー産業の鍵を握るのは、キャッシュフロー力のある投資の多様化と資産運用において他ありません。

産業貿易省(MoIT)は、2021年11月というFiT制度適用の期限に間に合わなかったプロジェクトを救済するよう政府から命じられた。同省は、投資が無駄に終わらないようプロジェクトの問題解決へ向けて、7月末正式にオプションを申し入れた。

MoITが、プロジェクト遅延の解決策支援に乗り出すのは、今回が初めてのことではない。当初、ベトナム電力(EVN)と購入価格を交渉できるよう提案したものの、最終的な決定は下されていないままだ。

FiT制度の規定は失効しているが合法性は残るため、風力・太陽光発電産業の成長へ向けたインセンティブについて、現在の首相決定は覆されるべきと、MoITは主張する。また、為替レートの変動や期間の長さに関する規制のいくつかは、もはや意味がないとも指摘されている。

タイに拠点を置くtrio Gulf、Super Energy CorporationBanpu Companyなど様々な企業グループが、FiT制度優遇措置のおかげでM&A取引を通じてベトナムでの事業展開を活発化させてきた。 

Banpuは、M&Aや直接投資を介して、ベトナムの風力・太陽光発電所5件(合計容量218MW)に出資した。「過去2年間、ベトナムにおける再生可能エネルギーへの大幅な投資拡大には、うってつけのタイミングでした。」とBanpuのCEOであるSomruedee Chaimongkol氏は今年初めに所見を述べている。

一方、Super Energyがベトナムで展開するためにとった方法の一つがM&A取引である。同社は9つの太陽光発電プロジェクト(総設備容量約840MWp)を所有し、5つの風力発電プロジェクト(総設備容量471MWの予定)も進行中だ。Allens法律事務所のパートナー、ジャイルズ・クーパー氏は、こう述べる。

外国人投資家がM&Aに最も関心を示すのは、FiT制度インセンティブが適用された再生可能エネルギープロジェクトのうち、運営可能なものに限ります。また、期限を逃したプロジェクトへの関心も依然として残ってはいるのですが、そうしたプロジェクトの政策ルールが、未だ確定していない状況です。例えば、電力料金はいくらとなるか?投資家はどのように選ばれるのか?電力売買契約はどうなるのか?等、明確化されないままなのです。

ベトナム電力(EVN)によると、昨年は風力発電プロジェクト(総発電容量3.48MW)62件がFiT制度の優遇措置が適用対象となる11月という期限を逃し、太陽光発電プロジェクト(総発電容量452.6MW)5件も電力価格の決定待ちという状態だという。ベトナム国内の開発業者が再生可能エネルギー販売広告でネットを賑わせる一方、FiT制度適用期限に間に合わなかった未完成の風力発電プロジェクト62件のうち取引に成功した例はひとつもない。