Vietnam Investment Review

世界的に半導体不足が続いているが、ベトナムにとっては好機かもしれない。RMIT大学の学術専門家グループによると、今ベトナムには最先端のテクノロジーや半導体の開発、買収、投資のチャンスが訪れているという。

RMIT大学に在籍するMajo George氏、Nguyen Manh Hung氏、Nguyen Le Huy氏の専門家3名が、「半導体生産国」としてのベトナムの将来について議論を交わした。

パンデミック以後、世界的に深刻な半導体不足が続いている。新型コロナウイルスの感染拡大で、半導体生産国の「ビッグ4」と呼ばれる台湾・中国・日本・韓国は大きな打撃を受けた。さらに、在宅勤務がトレンドになったことからノートパソコンや家庭向けエンタテインメント機器、ゲーム機器の需要が急増。半導体へのニーズが高まり、需給バランスが崩れた。

世界的な半導体不足、さらに各国がデジタルガバナンス、デジタル経済、デジタル社会への移行を主とする「デジタル変革」をすすめる今、半導体生産へと向かうベトナムの動きはタイムリーだと言える。

ベトナムでの半導体生産がすすめば、地元企業は半導体を現地調達できるようになる。また、生産拠点が増えることで世界やアジアでの半導体不足は緩和に向かうだろう。

RMIT講師のNguyen Manh Hung氏は、ベトナムでの半導体製造は「メイド・イン・ベトナム」の政策にも合致していると話す。

半導体は現代社会のありとあらゆる場面で必要とされています。ベトナムが半導体産業で成功すれば、通信機器やコンピュータ、医療機器や軍事機器といったハイテク製品のサプライチェーンに参入することができます。

しかし、競争力のある半導体産業を構築するためには、単なる設備投資だけでは不十分です。最適な技術にアクセスし、安定した供給と消費を確保できるサプライチェーンを築くことが課題です。

RMIT講師のNguyen Manh Hung氏

同氏によると、半導体の製造工程は主に「設計、製造、組立・テスト・パッケージ」の3ステージに分けられるという。最初の2ステージは膨大な研究および開発、専門的なソフトウェア、チップ製造用の生産設備など、費用面でも技術面でも非常に高度なプロセスになる。一方、最終の第3ステージは労働集約型であり、障壁は最も低いといえる。

「現時点で、ベトナムにとって最もハードルが低いのが、第3ステージでしょう。しかし、競争力の高いこの市場に参入する一番の目的は、半導体設計能力を強化し、ハイエンドの半導体部品の生産に移行することです」とHung氏は語る。

同じくRMITで講師を務めるMajo George氏は「半導体生産事業に参入することは、ベトナムが最先端の技術力を自前で開発・獲得するチャンスでもあります。壁は高いかもしれませんが、将来ベトナムが東南アジア有数の製造拠点になるための後押しになるでしょう」と語っている。

中・長期的な戦略の立案

2022年、半導体産業は全世界で飛躍を続けている。前年比の成長率は10%と推定され、市場規模は史上初の6,000億ドルを超えると見られる。さらに2030年には1兆ドル規模の産業になる見込みだ。

ベトナムがグローバルな半導体の研究開発、設計、生産、流通事業に参入すれば、経済的なメリットは計り知れない。同国の位置づけや資質を考慮すると、現地の半導体産業を発展させるためには中長期的な戦略が不可欠となる。

同じくRMIT講師のNguyen Le Huy氏は、中期的な戦略では、研究開発ステージへの参画が必要だと指摘する。その成功のカギを握るのは、人材だ。

サムスンやIntel、Synopsys、Cadenceといった大企業の半導体研究開発拠点を誘致したり、規模を拡大してもらうためには、政府による投資や好条件の政策を継続しなければなりません。同時に、半導体の分野で質の高い学生を育成・輩出するための支援も必要です。

長期的には、米国や日本、韓国などの半導体先進国と協力協定を結び、技術移転をすすめる必要があります。それができてはじめて、半導体生産に必要なすべてのステージにおいて、自立に向けた一歩を踏みだすことができるのです。

RMIT講師のNguyen Le Huy氏

George氏は、定期的な研究や製品改良だけでなく、ベトナム製半導体の品質保証も同様に優先すべきだと話す。そのためには、高度な技術と経験を持つ研究者や専門家が必要となり、今後の課題となっている。

我が国は現地の技術者育成に力を入れる必要があります。そのためには名門の大学や研究機関と連携することが有効です。

実のところ、RMIT大学ではすでに工学系の学生向けに、半導体ベースの設計やアプリ開発のコースを展開している。学生らはMentor GraphicsやSynopsysといった大手企業の半導体チップ設計ソフトウェアを活用して学習や実習を重ねることができる。また、IntelやFaraday、ルネサスなど半導体業界有数のパートナー企業とのキャップストーンプロジェクト(卒業制作)やインターンシップを経験することもできる。