現在の価値にして約1,840億ドル。これは、ベトナムが気候変動対策強化とネットゼロ実現に向かう今後数十年に見込まれる、民間企業の潜在的投資機会を金額にして表したものである。
この試算額は、世界銀行グループが国別診断シリーズの第一弾として作成した「ベトナム国土開発報告書(CCDR)」の中で明らかにされ、ベトナムの経済成長と気候変動対策を両立させるための新たな道筋を示すものとなる。
ベトナムは2045年までに高所得国入りを果たし、2050年までにネットゼロを達成することを目標に掲げているが、CCDRが鋭く指摘するように、この国の経済や国民の福祉政策は、既に気候がもたらす脅威にさらされているのだ。
元来、同国の温室効果ガス(GHG)排出量は極めて少なかったが、過去20年間は世界でも並外れた速さで増加するようになってしまった。ベトナムは今や、東アジアで温室効果ガスを最も排出する経済国の一つとなった。
限定的でしかない、グローバル緩和努力という型通りのシナリオでは、およそ30年後には、ベトナムのGDPは年間最大14.5%も損なわれる懼れがある。このまま、包括的な対策を講じなければ、気候変動の影響は10年以内に100万人を極貧状態に追い込む可能性も生じてしまう。
将来へ向けた成長目標を達成し、気候変動リスクに対する脆弱性を軽減するために、開発モデルを転換し、2つの異なる道筋に着手することをCCDRは提言している。その一つはレジリエンスの構築、もう一つは脱炭素化による気候変動の緩和である。
政策と戦略をうまく組み合わせ、脱炭素化の取り組みを開発目標につなげてネットゼロを達成することで、GDP成長率低下を避けることが可能だ。総じて、この動きには高額な代償が伴うことになる。適応と緩和の道筋に着手するには、2040年までに約3,680億ドル、現在の価値にして年間GDPの6.8%に相当する投資が必要となる。このような資金需要に応えるには、政府の資金だけでは到底賄えない。したがって、巨額な民間資本を集めることが極めて重要となってくる。
ベトナムの民間企業がすでにプレッシャーにさらされていることに、CCDRは言及している。商業・産業部門における約3,000億ドル相当の事業資産は、気候関連災害の影響を受けやすいと言われる。すでに多くの企業が、気候変動による操業中断や労働生産性の低下が、収入に打撃を与えていることを報告しているのだ。
2020年の分析によると、毎年発生する気候に関連した損害は、一部の中小企業の総収入の70〜80%にも達しかねないという。この状況を打破するには、民間企業が気候変動に事業資産を適応させさせるだけで、2050年までに2,280億ドルという多額の投資が必要となる。
手始めに、国内の民間貯蓄を気候変動関連プロジェクトに振り向けることから始めてみるのが良いだろう。また、積極的な取り組みにより、年間GDP比3.4%の範囲で民間資金を集めることができるだろう。銀行によるグリーンクレジットの投入、グリーンエクイティやグリーンボンドといった市場ベースの手法の開発、リスク回避ツールの適用によって、CCDRはこれを実現できるとしている。
ベトナムでは、グリーンファイナンスはまだ黎明期だが、適切な公共政策は、規制改革や貸し手と借り手の双方に対するインセンティブを通じて、銀行がボトルネックを突破する助けとなる可能がある。
こうした背景から、政府はベトナムにおける金融セクターの気候関連リスクの見極めを検討すべきである。これは、グリーンファイナンス政策のさらなる手引きとなりうる。また、インフラへの気候関連投資については、法的な官民連携(PPP)の枠組み調整など、より的を絞った対応が鍵となるだろう。
さらに、ライフサイクル・アセット・マネジメントのアプローチは、マネジメント契約やPPPを通じて必要な資金の大部分を民間セクターから調達できるベトナムではとりわけ有効であると思われる。これは、資産管理を政府が行い、日常的な運営は民間に委ねるというシステムとなる。
中長期的には、国有企業の改革と市場開放が民間部門の経済参加を拡大させることは、気候変動に取り組むべき課題の多くを達成するために不可欠である。
民間企業にとっても、ベトナムの温室効果ガス排出源の主な領域となるエネルギー、運輸、農業、工業への取り組みに投資機会を見出せることになる。しかし、脱炭素化のためには、約813億ドルという大型ファイナンスを要し、民間部門の参加と譲許的融資を増やすための投資環境改革が必要である。また、再生可能エネルギーの急速な普及を促進することは、透明性と競争力のある調達プロセスを踏むことにつながり、民間セクターをさらに後押しすることになるのだ。
ベトナムがレジリエンスを高め、脱炭素化へ向かう道を完全に受け入れるならば、国民、環境、産業のすべてが恩恵に浴すことができる。民間の関与を高め、経済をグリーン化することは、新たな雇用の創出にもつながるのだ。そして、それはグローバル市場におけるベトナムの競争力を確保することにもつながるだろう。