ベトナムKPMGのシニアパートナーであるNguyen Cong Ai氏は、VIRのインタビューで、ベトナムのM&Aについて前向きな評価を示した。今年は地政学的・経済的にも厳しい局面を迎えたが、それにもかかわらず、投資家に新たな門戸が開かれる可能性があるという。海外からの投資家にとってそれは殊更と言える。
ここ数年、世界的にも経済・投資活動はともに大打撃を受けました。最近のベトナムのM&A(企業の合併・買収)市場をどう評価しますか?
M&A市場の規模は、案件数、金額ともに鈍化しています。2021年に700件以上であった案件数が、2022年が10カ月経過した時点で350件程度にとどまります。また、案件の平均金額も3,100万ドルから約1,500万ドルに落ち込み、昨年は10億ドル規模の案件も数多くありましたが、今年は伸び悩み、最高額は約5億ドル止まりでした。
KPMGのデータによると、2022年これまでのところ、M&A案件の総額は57億ドル、前年比にして35.3%減となっています。クロスボーダー取引は、シンガポールが約12億ドルでトップ、次いで米国が5億7,000万ドル、韓国が3億7,000万ドルと続きます。
2021年と同様に、引き続きベトナム企業が取引額は13億ドル以上とリードしています。最も多くの投資額を集めた主な分野は、消費部門(12億ドル)、不動産部門(10億ドル近く)、工業生産部門(8億ドル)となっています。
特に、2022年はエネルギー産業の人気が最も高く、成長率は金額にして6億ドル近くに達します。これは2021年全体と比較すると、6倍増の数字となります。
投資家は、今年のM&Aレポートがあまりポジティブでないことに懸念を示しています。近い将来、市場は冬眠状態に陥ってしまうのでしょうか?
今、世界中で直面している困難な状況の中、M&Aのための資金調達は以前ほど容易ではありません。韓国や日本の投資家のコストは、為替の変動で20倍にも跳ね上がっており、これは極めて厳しい状況と言えます。
不況に突入し、米国は直近の2四半期でマイナス成長となりました。今四半期はプラスに転じましたが、まだ持続的な成長とは言えないため、次の四半期がどうなるかは予測不可能です。従ってKPMGはパートナーに対して、現時点では慎重を期して、拡大せず、資金投入を控えるようアドバイスしています。
しかし、世界的に経済が苦境に立たされてはいるものの、そのすべてが同じ状況という訳ではありません。米国と欧州は景気後退に陥りましたが、まだ明るい兆しは見えています。例えば、湾岸諸国は今、原油価格高騰により巨額な財政収入をもたらし、豊富な資金で投資意欲も旺盛です。
ベトナムでも、経済はさまざまに変動しています。法的な問題が解消されない株式市場で、投資家は資金投入を躊躇しているので、近い将来M&A市場が停滞期を迎えると予測されています。しかし、以前よりもはるかに手頃となった資産の価値を新たに見据えれば、運用可能な手持ち資金が多い投資家にとっては、格好のプロジェクトに出資するチャンスかもしれません。
銀行金利が上昇傾向にあり、国内の資金源はますます限られてくることが予想され、資金に余裕のあるバイヤーや投資家、特に海外投資家にとっては好都合と言えるでしょう。
一方、ベトナム経済は、他の国や地域と比較して、海外投資家や国際機関からポジティブな評価を受けています。今年のベトナムのGDP成長率は7.5〜8%と予測されており、2023年には6.5%になる可能性があるため、かなり見通しは明るいと言えるでしょう。よって、ベトナムのM&A市場について、依然として楽観的な見方をしているのです。
今年のM&A市場は、2020-2021年の盛り上がりに比べれば静かなものですが、これから先、市場が冬眠状態に陥るというわけではありません。積極的な動きで状況を打開し、市場に活気をもたらす企業も出てくるはずです。
KPMGのプライベートリソースでは、金融サービス分野にM&Aの予定があります。長年交渉してきた案件もあり、2023年にはクロージングを迎える予定です。来年は金融サービス産業が非常に熱気を帯びてくるでしょう。例えば、BIDVやVPBankなどの大手銀行や、Ocean BankやNam A Bankなどの中小銀行は、現在、資本動員が必要な状況にあります。
一般に、ベトナムの小売市場関連の産業は有望です。M&A市場も近いうちに盛り上がりをみせるのではないかと思います。
今後数年間、M&A市場に影響を与えるポジティブなトレンドをどのように見ていますか?
デジタルトランスフォーメーションの波は、企業だけではなく、人々の生活全体にもポジティブな影響を及ぼしています。中産階級の継続的な台頭は、消費とショッピング需要の急激な増加をもたらしました。そして、二酸化炭素排出量の削減に貢献するグリーン化という流れは、より一般化してきています。これらの分野では、小売、商業、消費財に続いて、2023年も買い手と売り手の双方に多くのチャンスがあると思われます。
不動産やエネルギーなどの分野も、ベトナム企業のバイヤーとしての参加が増えることで、再び活気を取り戻すことでしょう。