Vietnam Investment Review

HSBCリサーチレポートによると、2022年はベトナムにとって景気回復の年となり、同国はアジアで最もパフォーマンスの高い市場のひとつとして数えられた。

2022年第3四半期のベトナムのGDPは、回復力のある外部セクターと堅調な内需のおかげで、前年同期比13.7%増(一部低ベースによる)となった。しかし、経済面での逆風の強まりを受け、成長見通しに陰りが見え始めている。

2022年の第1〜3四半期に前年同期比17%以上の伸びを示した輸出は、10月に急激な減速を示し、11月には2年ぶりに前年同期比で大幅に下回った。その主な要因は、ベトナムの総輸出額の35%を占めるエレクトロニクス製品の出荷量の伸び悩みにある。しかし、最近のデータでは、輸出の低迷は繊維・履物、木材、機械などより広範囲の製品に及んでいることが示されている。特に、ベトナムの多くの輸出品にとって最大の市場である米国の景気減速は、苦境に拍車をかけている。

ポジティブな面では、労働市場の回復が続いているおかげで、内需が一部取り戻しつつある。2022年第2四半期時点で失業率は2.3%まで低下した。観光客が戻り始めたとはいえ、ベトナムへの渡航者数は2019年の20%にも満たない水準であり、多くの雇用が観光関連に集中していることを踏まえれば、この先失業率がさらに改善する余地がある。

再開発の追い風が当分続くことから、2022年の成長率は8.1%に達する見込みだ。しかし、2023年には、その効果も薄れ、高インフレの影響が時間差で現れ始めるため、厳しい課題に直面すると思われる。そのため、成長率は5.8%と若干鈍い伸びが予想されるという。

また、ベトナムではインフレ圧力が強まり始め、最新のデータではベトナム国家銀行が定める4%という上限を超えている。コア・インフレが加速しただけでなく、国内のエネルギー不足が生じ、見出し価格が上昇したままにされているのだ。

「2022年のインフレ見通しは最近になって3.2%(前回:3.4%)と若干引き下げがあったが、2023年の見通しは4.0%(前回:3.7%)に引き上げられた。これは、SBVが引き締めサイクルを継続する可能性が高いことを意味する。」と報告書に示されている。

マレーシアやインドネシアなどとは異なり、ベトナムにはエネルギー価格高騰の影響を軽減する緊急緩和措置を導入する財政的余裕が限られている。4月以降、当局は燃料税や環境税などの各種税金の引き下げを進めている。

インフレ圧力に対処するため、財務省は各種燃料に課される環境税減税を2023年末まで延長を求めている。このことから、2023年に世界の原油価格高騰が押さえられる可能性がある一方で、当局は早ければ2024年にも環境税を復活させると考えられる。さらに、2023年には他のエネルギー価格の上昇も懸念される。Vietnam Electricity Groupは最近、エネルギー輸入コストの高騰を理由に、約4年ぶりの大規模な価格調整として2023年の値上げを申請した。

金融面では、ASEANの中央銀行として最後に動いたSBVは、ドン安と輸入物価インフレの上昇に直面し、積極的なキャッチ・アップの姿勢を見せている。9月以降、SBVは毎回100ベーシスポイントの利上げを行い、10月末には借り換え金利を6%に引き上げた。

今のところ、大胆な利上げはFRBの急速な利上げサイクルや為替のボラティリティといった外部要因に対する不安をより強く反映している。FRBが利上げを減速し、為替圧力が緩和されるなど、そうした外部要因がここ数週間でより好転していることは間違いない。しかし、コア・インフレ率の上昇は、SBVの利上げサイクルがまだ進行中であることをますます示唆するものである。

HSBCは、SBVが2023年第1四半期と第2四半期にそれぞれ50ベーシスポイント、2023年半ばには7%と借り換え金利を引き上げると予想している。ベトナムの成長に対する最大の下振れリスクは、経済に逆風が強まることである。ベトナムは世界経済の失速とは決して無縁ではない。言い換えれば、つけが回ってきたということだ。米中貿易摩擦が始まって以来、ベトナムは貿易とFDI転換の両面において最も利益がもたされる国のひとつとなり、とりわけ米国市場での輸出シェアを拡大させてきた。その結果、同国は米国の景気減速の影響を受けやすくなってしまったという。

もうひとつ考えられるリスクとしては、エネルギー価格の上昇圧力が挙げられる。石油製品価格は6月のピークを下回ったものの、依然として高水準で推移している。陸上燃料の在庫が不安定になる懼れがあるため、政府は国内の製油所やエネルギー国営企業に、少なくとも2023年前半はエネルギー輸入を増やす計画を立てるよう指示している。そのため、輸入代金の増加により、ベトナムの経常収支は圧迫される可能性が高い。

全体として、ベトナムは依然として再開の恩恵を受けており、11月の小売売上高は前年同月比17%増となった。連続的な成長に先細りの兆しが見られるものの、回復の余地はまだ残っている。

外国人観光客数は、2022年11月時点で前年同月の16%にとどまった。中国本土からの観光客が激減する中、インドなどの新市場への進出は一定の下支えとなることが期待される。

しかしながら、外的な逆風が現地の労働市場に重くのしかかる可能性は否定しきれない。多くの労働者が労働時間短縮を余儀なくされ、ベトナム労働総連合は、製造業雇用の圧迫は2023年半ばまで続くと予想している。

製品輸出需要の低迷により、ベトナムの輸出量はすでに著しく減少しており、11月には2年ぶりに前年同月比で大幅なマイナスを記録している。

11月の製造業PMIも2022年以来初めて縮小領域に入った。新規受注、販売価格、雇用のいずれも減少し、後ろ向きな側面を浮き彫りにした。

新型コロナウイルス感染症のパンデミック時に強い需要の恩恵を受けた商品、エレクトロニクスや繊維・履物などの需要がサービス業へと移行したことで、世界的な成長の鈍化も相俟って揺り戻しを迎えている。

輸出全体の40%以上を米国とEUが占める中、ベトナムの機械類輸出の約半分が米国に送られるなど、同国が独占する主要輸出品目もある。

米国の需要に大きく左右される主要輸出品目としては、木製品(約60%)があげられる。そのため、欧米の不動産市場の低迷は、ベトナムの同製品輸出にさらなる下振れリスクをもたらしている。しかし、暗い話ばかりではない。逆風の繰り返しにもかかわらず、企業によるベトナムへの投資は引きも切らない。先ごろ発表された電機メーカー大手のSamsungとLGの更なる投資は、ベトナムが長期的に魅力的な投資先であることの表れと言えるだろう。