昨年、東南アジアの資本市場全体では新規株式公開(IPO)の勢いは鈍化したものの、ベトナムでは8件のIPOを成功させ、7,100万ドルを調達した。
Deloitteのデータによると、東南アジアの企業が昨年行ったIPOは163件で、資金調達額は76億ドルにとどまった。2021年と比較すると件数は152件から微増したものの、金額ベースでは133億ドルから43%減少し、小規模なIPOが多かったことを示唆している。
これは、先行き不透明な経済状況で中小企業がIPOをすすめる一方、レバレッジ効果の高い大手企業が今後の市場環境改善を視野に、新規株式公開を先延ばししているためと考えられる。
新型コロナウイルス感染拡大後、IPO市場に注目した個人投資家が殺到。その結果2021年には世界的に市場が活況を呈し、米国と英国では記録的な資金調達額を達成した。同年、東南アジアの資本市場も盛り上がりを見せたものの、2022年には資金調達額は前年比43%減と勢いが鈍化。米国と英国では前年比がそれぞれ95パーセント、89パーセントと大幅に下落している。Deloitte Southeast Asia and Singaporeのディスラプティブ・イベンツ・アドバイザリー・リーダーであるTay Hwee Ling氏は、次の通り解説する。
世界がパンデミックとの戦いに勝利しているのと同様に、世界経済と国境をまたぐ取引が再燃したことで、世界のインフレ率は8.8%と前年の4.7%から上昇。それに伴い、連邦金利が年間を通じて約4%上がりました。
こうしたマクロ経済的要因に直面しながらも、東南アジアのIPO市場はよく持ちこたえています。我々は引き続き、経済の成長可能性を感じています。
2022年、ベトナムでは8件のIPOが成功し、調達資金は7,100万ドルに達した。8件のうち、6件のIPOが同年前半に完了。国内外の資本市場が先行き不透明であることから、下半期は企業や投資家が慎重さを見せたかたちだ。
「IPOの焦点は、不動産業界から工業製品や消費者ビジネスに移っています。今後も消費者ビジネスは重要な役割を果たすと思われ、この分野での上場が大いに期待されています。」と語るのはDeloitte Vietnamでディスラプティブ・イベンツ・アドバイザリー・リーダーを務めるBui Van Trinh氏。
現況の不透明感から、企業だけでなく投資家も慎重な姿勢を崩さない。ベトナムの規制当局は、透明性が高く効率的な上場プロセスを後押しする規制を敷き、国際財務報告基準の導入を促進するなど、財務情報の透明性を高めるための取り組みに着手している。
「このことが国内外の投資家の信頼を高めると同時に、ベトナム資本市場の魅力と活気を高めると期待しています。」とTrinh氏は続けた。
東南アジアで最もIPO資金調達額が多かったタイでは、2022年に42件のIPOを行い、調達額は総額36億ドルにのぼった。調達資金の約90%が、新型コロナウイルスの制限措置が緩和された下半期に得たものだ。調達額は2017年から2019年まで(毎年約30億ドル)とほぼ変わらず、パンデミック前の水準に戻っていることがわかる。コロナ禍の2020年および2021年は例外的に、調達額が年40億ドルを超えた。
インドネシアは2021年、59件のIPOで24億ドルの資金調達に成功し、東南アジアのIPO市場トップ2の地位を堅持した。そのうち11億ドルをPT GoTo Gojek Tokopedia Tbk(GoTo)が単独で占め、2022年における同地域のランキングでトップとなった。次いでPT Global Digital Niaga Tbk(BliBli)が5億800万ドルを調達して2位につけている。これでGoToとBliBliの両社は、近年上場を果たしたインドネシアのハイテク企業群と肩を並べたことになる。
フィリピンでは昨年8社が上場を果たし、合計3億5,200万ドルの資金を調達している。中でも同国初のエネルギー分野不動産投資ファンド(REIT)となるCiticore Energy REIT CorpによるIPOは規模が大きく、1億2,400万ドルの資金調達に成功している。
マレーシアのIPO市場では2022年、8億100万米ドルの資金を調達し前年比138%増となった。急増の要因として、ファンダメンタルズが良好な企業への需要の高まりが考えられる。とりわけACEの上場件数は2021年の11件から2022年は26件と2倍以上に増加し、経済情勢を踏まえれば意義深いことだといえる。
シンガポールでは、2022年に11件のIPOで4億2,800万ドルを調達しており、その内訳は、特別目的買収会社(SPAC)の上場が3件で3億8,900万ドル、新興企業向け市場のCatalist(カタリスト)でのIPOが8件で3,900万ドルとされており、2年前に導入されたSPACが前向きなスタートを切ったかたちだ。SPACは上場時点では事業実態のない箱のようなもので、24カ月以内に企業買収を完了しなければならない(12カ月の延長を求めることも可能)。De-SPACが成功すれば、より多くのSPAC上場の促進が期待される。2023年の東南アジア市場全体の見通しについて、Ling氏はこう太鼓判を押す。
東南アジアはコロナ禍のマインドセットから再び浮上しており、まだまだ成長の余地があります。今のところ、ハイテク企業の評価額は全般的に低めかもしれないが、ビジネスのファンダメンタルズをしっかり持つ企業は依然として最適な市場評価を獲得し、資本市場から利益を得ることができるでしょう。