2022年、ベトナム経済は多くの成果を収めたが、不安定な世界情勢や経済の立ち遅れなど、まだ多くの障壁が残されている。国際的な要因によるところが大きい今後の成長には多くのリスクが伴うと、RSMベトナムの会長であるLe Khanh Lam氏は解説する。

2022年のベトナム経済は、個人消費の回復と輸出の堅調な伸びにより、力強い回復を見せた。多くの国際経済機関は、GDP成長率が6~7%と予想したが、実際には通年で8.02%の経済成長を達成し、これまでの見通しを上回る結果となった。平均インフレ率は前年比で3.15%上昇したものの、年率4%以下という年間目標は達成している。

企業活動が2年ぶりの回復を見せたことから輸出が増加した。2022年の輸出入総額は、前年比9.5%増の7,325億ドルと試算される。それにより、当四半期は112億ドルの貿易黒字を記録した。推定売上高が1,091億ドルの米国は、依然としてベトナム最大の輸出市場であり、輸入市場としては、中国が1,193億ドルの推定売上高で断トツの規模となる。

ポジティブな側面では、労働市場の回復が続いているおかげで、一部の内需は救われてきている。その一方で、2022年第2四半期時点の失業率は2.3%まで低下し、雇用の多くは観光関連に集中していることから、さらに悪化する可能性がある。観光客が戻り始めたとはいえ、入国者数は2019年の20%にも満たない。

不利な要因からの影響にもかかわらず、ベトナムは依然として魅力的な投資先として評価の高い経済圏とされている。2022年には107カ国と地域から投資資金を調達し、シンガポールは単独で57.8億ドル(全体の約23%)という最大の投資資金を提供した。

外資系投資では、生産・加工産業が149億6,000万ドルを占め、次いで不動産業、エネルギーの生成・供給産業と続く。

経済のパフォーマンスは、主に3つの要素に起因すると考えられる。まず、ベトナムは、ワクチン接種の成功によってパンデミックをコントロールし、経済をニューノーマルへ効率的に適応させた。第二に、政府の回復政策がフレキシブルかつ首尾よく社会経済の安定を生み出し、インフレを抑制したことだ。

そして第三に、世界各国との自由貿易協定や投資家に優しい政策を活用し、世界貿易に積極的に参加する国であると見られていることがある。

激動の1年

このように、ベトナム経済は目覚ましい発展を遂げたが、その一方で多くの問題点を抱えている。その顕著な例は、2022年に株式市場が混乱に陥ったことにある。国内株式市場のパフォーマンスを示す指標としてキーとなるVN-Indexは、外的および内的要因の両方に左右され、激動の1年となったことを示している。1月上旬にVN-Indexのピークが新記録を打ち出すなど市場は、好調なスタートを切った。

その後、ロシア・ウクライナ情勢の緊迫化、世界的なサプライチェーンの混乱、主要国のインフレ率の高騰、その他様々な悪条件により、安値を更新している。ロシア・ウクライナ紛争やインフレへの懸念から、株式投資家はリスクを避けるようになり、需要の拡大を見込んでより安全な不動産に目を向けた。

一方、下半期になると、不動産開発企業は、銀行から受けられる年間融資限度額をほぼ使い切ってしまい、夢に描いたバラ色の利益像はもろくも崩れ始めた。また、不動産市場の低迷は今後も続くと、業界専門家は予想する。

政府は、2023年の経済に関する包括的な目標を定めた。それには、マクロ経済の安定性の維持、インフレの抑制、成長促進、経済の主要なバランスの保証を引き続き優先することが含まれる。指標として主に注目されるGDPにおいては、上昇6.5%、一人当たり4,400ドルを記録した。加工・製造業はGDPの約25.5~25.8%を占め、消費者物価指数は平均4.5%の上昇を示している。

国際経済の関係者予想によると、ベトナム経済は、精力的な回復努力の結果、以前よりも良好な財政状態で2023年を迎えるという。しかし、まだリスクや課題が山積みされているため、前途多難であることは否めない。

世界経済が景気後退に陥ることが予想され、そうなれば、消費者の可処分所得が減り、需要は落ち込み、輸出市場にも影響が及ぶだろう。結果として、米国、EU、中国などの主要な輸入相手国の不況が、ベトナムの繁栄を支え、重要な原動力となる輸出の伸びを低下させる懼れがある。

経済の開放路線を進めるベトナムは、世界的なインフレ率の上昇や欧米の金融引き締め(ベトナムの輸出市場シェアの41%は、この2つの主要市場に向けられる)に直面し、価格、金利、為替レートをコントロールする必要性に迫られている。それゆえ、金融の安定を確保することが政府の最重要課題の一つとなっている。

国際的な争奪戦

当局は世界情勢の変化を常に注視し、それに応じて財政・金融政策を迅速に修正する必要がある。不利となるリスクを軽減し、特に成長とインフレの政策トレードオフを削減することを目指し、政策には正確な調整、協調、伝達が求められる。現在の状況では、金融政策は物価の安定を優先し、インフレ圧力が強まった場合にはより厳しいスタンスで取り組まなければならない。

逆風の多くは国際的な要因だが、国内リスクも存在する。特に銀行や債券市場では、不動産業界の状況が急速に変化するため、その影響を受けやすいと言える。年度後半になって、支出が予想以上に不十分であったと判断された公共投資は依然として深刻な障害となっている。汚職との闘いに進展の兆しが見えてきたが、その成果とともに、不正につながるのではという懸念が、物事を遅らせ、混乱を引き起こす原因となっている。

また、企業や投資家に対しては、リストラ、デジタルトランスフォーメーションの加速、コスト削減、開放性、透明性、専門性の強化、リスク管理の改善を実施することが提案されている。さらに、気候変動の悪影響は、農業生産性だけではなく、地域社会の健康や福祉にも徐々に重くのしかかってくるだろう。

また、内需の回復が2022年ほどの力強さを持たない可能性があることから、2023年は経済発展が鈍化し、徐々にパンデミック以前の水準に戻るのではと予測される。

日常生活や生産活動に欠かせない主要製品(特にガソリンや石油)の需給ボトルネックの解消や安定した価格設定のために、意識面でも制度面でも様々なブレークスルーを同時に起こさなければならない。とりわけ、ホリディシーズンの需要に対応するためには、それが求められる。

ベトナムは、2022年の経済的成果を誇る一方で、ビジネスと経営、マクロとミクロ、短期と長期の両面での慎重な行動を意識するべきだろう。2023年の社会経済目標を達成するためには、金融と財政の両政策を緊密に統合すべきであることは間違いない。

地方自治体に求められるのは、公共投資の支出を加速し、社債市場の健全性を高めることである。また、情報の透明性を確保することにより、リスクを軽減し、今後打ち寄せる経済の荒波にうまく対処していく必要があるだろう。