Vietnam Investment Review

クラウドコンピューティングはベトナムでのビジネスのあり方を変え、今後の成長に欠かせない存在となった。今回、VIRのビック・トゥイ記者がAmazonのワーナー・ヴォゲルスCTOを招いてインタビューを実施。テクノロジーのトレンドがベトナムのデジタル変革に及ぼす影響について語ってもらった。

2023年は5つの“テックトレンド”が来る」と予測されていましたが、それはベトナムにも言えることでしょうか? 

米国のサプライチェーンは、ベトナムのそれとはやはり違いがあります。アメリカでは今、自動運転トラックに注目が寄せられています。それは、途方もない距離を走る国内輸送にかかる負担を格段に軽くする手段となるからです。一方で、ベトナムで着目されるのはエンドユーザーまでを見据えた「ラストワンマイル」なのです。ですから、eコマース企業とユーザーを結ぶAhamoveなどの国内オンデマンドサービス企業のほうが重要視されることになります。

もうひとつのトレンド予測としては、シミュレーションやクラウドテクノロジーなど、国に依存しないパターンですね。たとえば、シリコンはスマートエネルギーやサステナビリティと相性がいい。AWSでは「2025年までにカーボンニュートラル(脱炭素)を実現」という目標を掲げていますが、順調にすすんでいます。AWSは再生可能エネルギーを最も多く購入している企業であり、それを広く提供するための自社プロジェクトもすでに400件ほど進行中です。

重要なのは再生可能エネルギーによる発電だけでなく、その貯蔵方法なのだと思います。たとえば太陽エネルギーに依存するなら、夜に備えて日中に蓄電しておかなければなりません。

実現可能と思われる興味深いコンセプトもいくつかあります。たとえば大きな鉱山で圧縮空気を使ってエネルギーを貯蔵したり、山上に揚水した水を落下させて生じる位置エネルギーを利用したり等。ここベトナムではコミュニティがエネルギーの地産地消を目指しているでしょうから、そうしたアイデアはとても重要になってくると思います。

以前は、屋根の上にソーラーパネルがあれば、余ったエネルギーを電力会社に送電することができました。しかし、これを地元で貯蔵できるテクノロジーが必要となる。これからは地域密着型のエネルギー貯蔵ソリューションの登場が期待されています。

こうしたテックトレンドは、今後、デジタルトランスフォーメーションやビジネス展開にどのような影響を与えるのでしょうか?

今や多くの従来型企業がデジタルトランスフォーメーションに踏み切ろうとしています。ベトナムや周辺の東南アジア諸国ではスタートアップが盛んですね。中小企業はどこもおしなべて、持続可能なビジネスを構築するためのアイデアを持つことになる、という文化的基盤があるからでしょう。どんなスタートアップもユニコーンになることを望む欧米との違いはその点だと思います。

たとえば、長期的に持続可能なビジネスを構築したい、というスタートアップが多いですね。今やベトナムにもユニコーンに近い企業がいくつもあります。ベトナム拠点の音楽ゲーム開発会社Amanotesもダウンロード数が9,000万を超えていますから。しかし、やはり彼らが自社インフラだけでこうした業績を実現できたかというと、それはむずかしいわけです。

若い企業、特にスタートアップの台頭は、まさにクラウドコンピューティングによってもたらされたものです。AWSではコンセプトを示し、投資家に対してそれがいかに有効なビジネスかアピールすることができます。クラウドがなければ顧客獲得すらできない、という企業も少なくないでしょう。資金調達ルートが比較的少ないベトナムでは、極めて重要なポイントです。そのために鍵となるのは謙虚さ、そして最小限の初期投資で可能か、ということになります。

AWSではハノイとバンコクでのローカルゾーン開設を発表し、アジアパシフィック(バンコク)リージョンの開設計画も公表されましたが、AIと機械学習の今後、そしてベトナムに関わる一連の発表についても見通しをお聞かせください。

クラウドコンピューティングをユーザーの身近な場所に持ち込むことができれば、それは大きな推進力につながります。「低遅延」頼みのウェブアプリケーションなら、その重要性はますます高まっていくでしょう。

そのためには、カスタマイズも非常に重要な要素になります。たとえば機械学習についていうと、もともとデータセットのトレーニングに使用されていたGPUは電力消費が激しく、持続可能性に欠けるものでした。そこで、当社ではコスト削減とエネルギー節約の両方を叶えるべく、独自のチップ開発に着手したのです。

東南アジアにこうしたAWSインフラストラクチャ・リージョンを導入することで、ユーザーは素早くテクノロジーにアクセスすることができ、またユーザーと身近な場所で機械学習アルゴリズムやモデルを実行することができるようになります。このカスタムシリコンチップはサステナビリティへ近づく大きな一歩となり、省エネに不可欠な要素であるため、大きな推進力となるでしょう。

ベトナムでは、今年中に5Gを商用化する予定です。AWSでは5Gに対応し、より手厚くユーザーをサポートするような新しい技術や新製品を用意されているのでしょうか。

当社ではAWS Wavelengthという製品を扱っています。こちらはAWS Computeとストレージサービスを5Gネットワーク内に組み込み、できるだけユーザーの身近なところで超低遅延アプリケーションの開発・展開・スケーリングを行うためのモバイルエッジコンピューティングインフラを提供するものです。これによって5Gのアクセスポイントとインターネットに別々に接続するのではなく、5G内で一括して実行できるようになりました。当社では通信事業各社と緊密に連携をとりながら、こうしたサービスを提供しています。

世界のどこの国でもそうですが、我々はユーザーの声をしっかり聴き、そのニーズに迅速に対応できるように心がけています。たとえば、ベトナムでのビジネスは中国やインド、南米、西ヨーロッパ、米国とは違う点があるでしょう。それを理解しているからこそ、当社では常に現地にチームを配置してスタッフを教育し、世界中のユーザーのニーズに応えられるサービスを構築しています。

例えば、日本とブラジルでは違うかたちのサービスを構築しています。ユーザーがほんとうに必要としている内容を届けられるよう、その声に耳を傾け続けているのです。ベトナム向けには、まずハノイにAWSローカルゾーンを設置します。これは、ユーザーに低遅延でデータをローカル保存できる場を提供するという最初のステップとなります。その後、一歩ずつ先へ進めていく予定です。

世界的にデジタルトランスフォーメーションが加速する中、CTOの役割はこれまで以上に重要視されています。今最も大きな課題は何だと思われますか?また、成功の秘訣を教えてください。

私はAWSに18年以上在籍しており、今やAWSだけでなくAmazon全体のCTOという立場でもあります。Amazon入社当時を振り返ると、当初は社内の大規模技術プロジェクトに注力しており、必ずしも社外の方との対話に力を入れていたわけではありませんでした。しかし、我々はテクノロジーを提供する企業となり、CTOの役割は社外の人たちの方を向き、技術者としてユーザーの声に耳を傾け、その問題を理解すること、というように変化しました。

Amazonは常に「世界で最高のユーザーファースト企業になる」という目標を掲げており、それがどのように実践されているかはよくおわかりになると思います。一方でAWSは開設当初、どうすれば地球上で最もユーザー中心のITプロバイダーになれるだろうかと考えていました。

そのためには、根本的に変えなければならないことがいくつかありました。AWSで開発したテクノロジーはどれも私の誇りですが、中でも経済モデルを変革できたことは大きいですね。それまではAmazonのCTOとして、データベースのライセンスを購入するために多額の小切手を切っていたものです。長期契約割引のためには、5年でいくらになるかというように算段する必要がありました。

当時主導権を握っていたのは売り手側で、買い手の立場になるという考えはありませんでした。AWS設立当初、こうしたルールを変え、ユーザー主導になるようにしようと、決めたのです。利用した分だけ後から支払う、そちらの方が理に適ってますよね。こうした経済モデルの変化が、クラウドコンピューティングを現在のように成長させる原動力となったのです。

個人的には、好奇心と学ぶことへの情熱を持ち続けることが成功の鍵だと考えています。Amazonには、会社を牽引するリーダーシップの原則、というものがあります。たとえば“Dive Deep(物事を深堀する)”。経営者として“Dive Deep”するためには、自分自身が学び続けることが重要です。ふんぞり返ってそこにいるだけではいけない。週に一度は午後いっぱい電話やメールから離れ、半日かけて学術論文を読んだり、最新のAWSのサービスを試したりして、勉強の時間に充てています。テクノロジーの世界は流れが速く、あっという間に時代遅れになり忘れられてしまいますから、自分自身の成長のために学び続ける時間の確保は欠かせません。