Photo: Le Toan
2021年初頭、ベトナムの食品・飲料業界におけるM&Aの状況は、市場の見通しの明るさから、投資家の後押しを受け、より活況を呈していた。
1月、日本の水産食品大手のマルハニチロは、ベトナムの食品加工会社Saigon Foodを買収したことを発表した。2003年創業のSaigon Foodは、冷凍食品やレトルト食品を「SG FOOD」ブランドとして展開し、ベトナム国内及び日本などの輸出市場向けに販売している。同社はホーチミン市に冷凍倉庫を備えた4工場を有している。
Saigon Foodは、成長著しいベトナム国内市場に着目し、ベトナムの朝食としてポピュラーなお粥や家族で楽しめる鍋セットにおいてトップブランドとしてその地位を築いており、近年ではベビーフードの販売にも着手している。同社の製品は主に、Co.op Food、Bach Hoa Xanh、Ministop、FamilyMart、Circle Kなどのチェーン展開しているスーパーマーケットやコンビニエンスストアで販売されている。
マルハニチロは、新たな水産加工拠点を確保し、加工食品の開発・製造・販売のプラットフォームを獲得するため、Saigon Foodの買収へ踏み切った。
「新型コロナウイルス感染拡大により、世界中の食品サプライチェーンが変化する中、Saigon Foodは簡便かつ安心で、保管しやすい商品の開発力と消費者市場への販売力を有す。」とマルハニチロの声明には述べられている。
4月には、ベトナムの農業・食品会社であるThe PAN Groupが430万ドルを投じて、Khang An Foods JSCの資本金(チャーターキャピタル)の所有権を28.57%に引き上げた。この取引により、Khang An Foods JSCは、2021年に農地と食品加工工場建設を視野に入れ、自己資本を約1,000万ドルから1,500万ドル以上に増やす予定である。Sao Ta Foods JSCのグループ企業であるKhang An Foods JSCは、水産物の加工・保存、食品の売買、農産物の加工、生産、輸出などを扱っている。
また、4月上旬には、水産加工会社のVinh Hoan CorporationがSa Giang Import Export Corporationの株式180万株を追加購入し、所有率が76.7%になった。Sa Giang Import Export Corporationは、カニやイカを素材にした即席麺やクラッカーの製造を手掛けている。今回の買収は、Vinh Hoan Corporationの食品・飲料(F&B)分野への進出を後押しすることになる。
ホーチミン市にある投資銀行アドバイザーBDA Partnersのマネージングディレクター、Huong Trinh氏はベトナムのM&AにとってF&B(Food & Beverage:食品・飲料)業界は、好調なマクロ経済のファンダメンタルズを背景に魅力的なセクターであり続けるだろうとVietnam Investment Review(VIR)に語った。また、新型コロナウイルス感染拡大の影響で貿易事情が悪化したこともあり、ローカルフードへの需要が高まっている。
「こうした要素は、ベトナムのF&B業界に安定した投資環境と成長の見通しをもたらしており、このセクターのM&A活動は今後も増加すると考えています。」と述べている。「中小企業にとって厳しい市場環境であるにもかかわらず、地場産業による統合の動きが活発化しています。最近の注目すべき取引としては、Masanによる3F Vietの買収、VinamilkによるGTNFoodsの買収、Blue PointによるInternational Dairy JSCの買収、Vinh Hoan CorporationによるSa Giang Import Export Corporationの買収などが挙げられます。」
実際にベトナムでは、F&Bは常にM&Aの魅力的な対象となっている。過去10年間には、Masan、KIDO Group、The PAN Groupなどの業界大手を中心に、245件、総額125億ドルの取引が記録されている。M&Aシーンは、一時的に停滞していたバイヤーに活発な動きが見られるようになってきた。
外国人投資家のM&Aによる市場参入のメリットとして、現地企業への出資や株式購入の際に、規定上、投資登録証明書の申請が不要となることがBritish Chamber of Commerce Vietnamの報告書では明らかにされている。また、既存のベトナム企業にサブライセンスが付与されているため、ライセンス取得にかかる時間を短縮できるという利点もある。
「しかし、こうした買い手企業は、自社と異なるベトナム企業の戦略、ビジョン、文化、健康・安全・環境、会計・財務報告、税金などのコンプライアンス基準といった乗り越えなければならない課題に直面することになるでしょう。」とも述べている。
ローカルの投資家にとって、M&Aは関与するステークホルダーに強みの相乗効果をもたらす強力なツールともなる。KIDO Groupのジェネラルディレクター、Tran Le Nguyen氏によると、同グループは、Tuong An Vegetable Oilや、KIDO Frozen Foods、Vocarimexなどの子会社の所有権を高めるために、積極的にM&A戦略を行ってきたという。同グループは、生産、管理、流通チャネルの経費を最適化するために企業との合併を進め、食品業界での市場シェアを拡大している。
同時に、KIDO GroupはVinamilkと手を組むことで、飲料分野へ進出し、健康飲料やお茶の製造・販売を行う合弁会社「Vibev」を設立した。競争が激化する中、両社にとって、ブランド認知度向上のためには、今回の提携は不可欠であったと言える。
BDA PartnersのTrinh氏は、パンデミックの中において、ベトナムの食品製造業が回復力を高めている要因として、食品消費の安定した国内需要と、新型コロナウイルス対策をうまく管理して生産の混乱を最小限に抑えていることが考えられるとしている。さらに、数ある自由貿易協定への参加が、ベトナムの食品企業へ利益をもたらすことにもなるだろう。
また、Trinh氏は、市場に精通しているベトナム企業が、更にM&Aに積極的になると予想している。「直面する課題があるとはいえ、クロスボーダー取引が外国人投資家にとって問題になるとは思えません。なぜなら、ミーティングソリューションやクラウド、ローカルの専門アドバイザーといったサポートを得て、M&Aをオンラインで進めるというニューノーマルに人々が慣れつつあるからです。」