ベトナムのヘルスケア業界におけるM&Aは活発化の兆しを見せている。その成長にはさらなる後押しが求められる。
8月中旬、Ha Tay Pharmaceutical Company(Hataphar) は、東京に本社を置くあすか製薬株式会社に対して、840万株の第三者割当増資を承認した。同取引は、今後数カ月以内に実行される見込みで、その総額は762万ドルに上る。
2020年、あすか製薬はHatapharの24.9%の株式を取得し、今回の買収により、持ち株比率は32.56%に達することになる。この数ヵ月の間に、他にも複数の合併・買収(M&A)案件がヘルスケア業界で相次ぐ。
8月初旬、韓国のDongwha PharmはTrung Son Pharmaの株式51%を3千万ドルで取得し、10月下旬に取引が完了することになっている。これは韓国企業が東南アジアの医薬品・美容市場への進出を狙った戦略と足並みを揃えた形となる。
1997年に設立されたTrung Son Pharmaは、ベトナム南部で140店舗以上の薬局をチェーン展開しており、昨年の売上高は約5億6,962万ドル。同社は2019年以降、平均して毎年46%のペースで業績を伸ばしている。
この7月、SGXメインボード市場に上場したヘルスケア・グループのThomson Medical Groupは、FV病院を買収する計画を公表した。同社取締役副会長のKiat Lim氏は、ベトナムを長期的なビジネス戦略のひとつとして位置づけており、設備投資だけでなく、同市場への総合的な投資を続ける意向を述べている。
「がん治療、消化器病学、循環器病学、不妊治療などの専門センターを拡充するFV病院新棟の完成には今から期待が高まります。また、こうしてFV病院への投資を継続することで、最先端の優れた医療を提供するリーダー的存在であり続けたいと願います。」と、Trun Son Pharmaの創業者であるTruong Thanh Son氏は抱負を語った。
PwCが発行する「Global M&A Trends in Health」の最新版によると、医薬品、ライフサイエンス、ヘルスケアサービス業界は、引き続き投資家の大きな関心を集めており、この傾向は2023年後半も続くと予測されるという。
「大手製薬会社は、依然としてパイプラインの溝を埋めるために中規模のバイオテクノロジー企業への投資を追求している。その一方で、ポートフォリオの見直しと同時に、引き続きノンコア資産の売却を最重要事項として捉えている。非公開投資会社は、先進的なヘルスケア企業の買収に対して、意欲的に潤沢な資金を投入する傾向にある。」と、報告書では述べられている。
業界の専門家は、この市場の魅力として、中産階級の増加、デジタル変革の加速、医療需要の高まり、高齢化、公立病院制度の課題などを挙げている。
Thu Cuc Medical & Beauty JSCのNguyen Thu Cuc取締役会長は、こう見解を示す。
民間医療発展の可能性は、ベトナムで非常に高くなっています。1億人の人口、所得と知識人の増加、高品質でサービスの行き届いた医療サービスへの需要の高まりがある以上、この傾向は必然的な流れであることに違いありません。
近年、ヘルスケア業界におけるM&Aは数多く報告されており、中には成功の兆しを見せているものもある。Stada Service Holdings B.V.は、2020年にPymepharcoを買収以来、包括的かつ持続可能な発展に向けて新たな方向性を打ち出している。PymepharcoはStada Groupの正式メンバーとして、主に医療用医薬品と機能性製品の生産・取引に携わっている。
この2 月には、Gigamed と Pymepharco-Stada との間で、新規市場開拓のアプローチとその範囲、カスタマー・バリュー(顧客価値)管理の面で大幅に拡大することで双方が合意している。現在Gigamedは、独立系薬局、薬局チェーン、その他ヘルスケアプロバイダーを含む小売市場へ向けて、物流サービスとセールスフォースプラットホームを提供している。
「Gigamedとのパートナーシップは、 Stadaが新たなチャンスをつかみ、成長を加速させ、ベトナムの小売市場で消費者ヘルスケア事業の拡大を促進させることでしょう。」とStada Groupの副会長でPymepharco-StadaのCEOであるChristos Gallis氏は期待を寄せる。
2018 年から Daewoong が戦略的株主となった Traphaco は、技術移転と国際市場へのアプローチに焦点を当てたビジネス戦略に方針を転換した。TraphacoのTran Tuc Maゼネラルディレクターは、こう解き明かす。
韓国の大株主の存在は、数多くの変革をもたらしました。とりわけ大きな変化だったのは、新薬への注力をより重視する方向へシフトするという構想・戦略でした。
専門家によれば、M&A市場は活況の兆しを見せているものの、取引を促進するためには今後数ヶ月の間にさらなる誘因が必要であり、中でもキーとなるのは法改正と市場開放であるという。
PwCの報告書によると、2023年前半に発表された大型案件は、規制当局の監視によりすでに遅れが生じており、これを受けて担当者は今後の案件に対して慎重な姿勢で臨むようになっているという。
「高金利、厳しい経済状況、買い手と売り手の価格期待値間の持続的なギャップが、一部の案件の取引成立を妨げています。こうした問題は、担当者が意思決定を行う際の重要な判断材料となります。」とLNT&PartnersのNgo Thanh Hai弁護士は指摘した。Hai 氏によると、保健省はこの業界での事業や投資家の便宜を図るため、一部の政令、通達、法律を改正しているという。
それでも、その効果が出るまでには数ヶ月から数年はかかるでしょう。さらに企業は、行政・法的な一貫性のない煩雑な手続きに懸念を抱いているのです。