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様々な社会問題やIndustry4.0(第4次産業革命)の流れが加速する中で、技術革新や人材育成への投資が潤沢でないベトナムは、経済や企業の競争力低下といった問題に直面している。

先端技術を事業に導入したことにより、倒産危機から脱し、復活した企業もある。写真 Le Toan

ベトナムは国際機関から、イノベーションや研究開発への投資を増やすよう指摘を受けた。これはベトナムへより質の高い投資を呼び込み、国内外のバリューチェーンが強化されるきっかけになるとされている。

世界銀行は、「ベトナムの科学・技術・イノベーション」と題したレポートを発表し、製造業の自動化にデジタルギャップが存在すると述べている。ロボットや3Dプリント技術など、Industry4.0に関連する技術を採用している企業は極めて少ない現状を問題視している。

レポートによると、Industry3.0のデジタル技術と言える、コンピューターで制御された機械を使用している企業は約29%のみということだ。また、Industry3.0レベルのデジタル技術を中心に使用している企業は8.7%に過ぎず、これは企業の持続的な成長への大きなリスクと認識すべきであると述べられている。この結果は、ベトナム企業が、先進国の最先端技術へキャッチアップする力を弱めることとなるため、イノベーションを生み出す力を長期的に蓄積していく必要がある。まず、デジタル技術を利用可能とするため、プロセスの改善を行い、その後、Industry4.0の技術を適応する。これにより、企業は長期的に大きな利益を得ることができる予想している。

さらに、デジタル化指標は、依然として、ベトナム企業のデジタル技術インフラへの投資が低い水準にあることを示している。

この指数は、コンピューターやクラウドサービスなどのデジタルインフラの利用度合いを企業の平均投資額を用いて比較し、0~100の数値で表される。指数が100の場合、完全にデジタルインフラが活用されているとことを示す。

調査によると、ベトナムのデジタル化指数は平均で38程度であることが判明した。また、技術別のデジタル化指数では、インターネットが平均で75であるのに対し、デジタルプラットフォームの活用が27にとどまり、クラウドサービスは4という低水準を記録。

ハノイ国家経済大学の経済専門家であるPhan Hong Mai氏は、「イノベーションの源泉となる、製品の設計から販売までのプロセスにテコ入れをせず、古い製品の改善に力を入れるベトナム企業が多くみられます。イノベーションの重要性を認識してはいるものの、実際には、製品の品質向上に力を入れる傾向が強いのが現状です。」と述べた。また、「製品アップグレードは、ベトナム企業にとっても、もちろん重要課題ではありますが、グローバル規模での新製品の開発や、ベトナムのグローバルバリューチェーンの地位向上にはつながりません。」とコメントした。

また、科学技術省の最近の調査では、最新技術を利用し、先端技術を意識した人材育成に力を入れている企業は、ベトナムの地元企業の10%に過ぎないと報告されている。

例えば、Rang Dong Light Source and Vacuum Flask JSCは、かつては倒産の危機に瀕していた。しかし、10年の歳月をかけ、先端技術の活用と人材育成により、ベトナムのトップ500大企業の一つにまで成長し、同国の発展に大きく貢献している。

イノベーションに向けた改革

ベトナムは、過去30年間の経済発展において、先駆者的な存在だった。1988年以降、平均7%の急成長を維持し続けたことにより、一人当たり所得は約5倍増加し、わずか一世代で中所得国へ仲間入りを果たした。

貿易・投資を自由化することで、有望な投資先を探す諸外国の企業から直接投資を誘致してきた。その結果、製造業に代表される、輸出志向・労働集約的な産業のグローバルバリューチェーン(GVC)によるベトナム国内の雇用が生じた。現在、ベトナムはサムスンの携帯電話製品の40%以上を生産するなど、世界第2位のスマートフォン輸出国であり、成長戦略の成功例として名を連ねている。

この成功をもとに、ベトナムは2035年までに、韓国、シンガポール、日本など、アジアに代表される高中所得国の一つとなることを目指している。

世界銀行によると、新型コロナウイルス感染症による経済ショックは、世界的な成長と貿易の減速、Industry4.0に関連する技術の急速な変化という課題を急激に浮き彫りにした。グローバル経済と深く結びついたことにより、ベトナム経済も例外なく新型コロナによる経済ショックを受け、製造業のGVCや観光業がリスクにさらされている。

世界銀行の調査では、「Industry4.0」に関連するデジタル技術や新技術を活用することは、企業の生産性向上だけでなく、今回のコロナショックにより業績悪化した企業の回復力を高めるためにも有効な手段であると述べられている。デジタル化、自動化、高度化するAIなど、加速する技術革新により、ベトナムの製造業における低コストで労働集約型主導の輸出戦略の再構築が求められることが予想される。生産と流通のプロセスにおいて、技術革新は大きな混乱をもたらしたが、同時に、製造業の他部門にも影響を与え、製造業の発展に必要なサービスが生まれるきっかけとなるとも考えられている。

ZaloPayやMoMoのようなデジタルプラットフォームを提供するスタートアップやスーパーアプリグループの参入に見られるように、新たなビジネスモデルは、VCやプライベートエクイティの投資先として、ベトナムの魅力を高めることにつながり、ベトナムが投資先を後押しする要因になっている。新型コロナウイルスは、ビジネスの柔軟性と成長の後押しするため、テクノロジー、新しいビジネスモデル、デジタルソリューションの導入と普及を促進させる必要性を示しているという。

先日行われた第13回全国党大会では、科学技術や「Industry Revolution 4.0」が進展する中、イノベーションが新たな成長モデルの重要な原動力となることが予測されている。

今回の会議で採択された公式文書によると、ベトナムが2021年から2025年の間に年平均6.5~7%の成長率を達成するという目標が掲げられた。目標達成のためには、経済の多くの分野で先端技術を活用し、イノベーションを促進することが欠かせないと指摘された。

また、「高度な技術を持ち、環境に配慮し、高い技術レベルを持つ人材が参画する海外からの投資プロジェクトや、社会的に開発を求められている分野への投資プロジェクトを優先的に誘致していくこととする。さらに、これらのプロジェクトは、国内企業との連携や技術移転を行い、参画企業がGVCに効果的に携わり発展させることが求められる。」と述べられている。

国内の投資・ビジネス環境を改善するほか、人材の質を高めることも方針に含め、具体的には優秀な人材を集めて育成し、Industry 4.0を中心とした科学技術の革新と活用を促進する。これらはすべて、「国家の急速かつ持続可能な発展のための新たな勢いとなる」と政治報告に記載された。

立ちはだかるリスク

国連開発計画(UNDP)が発表した「ベトナムにおける持続可能な開発目標の達成」に関する報告書によると、ベトナムは、経済の不確実性、先進国への製造業の再シフト、ナショナリズムの高まりに伴う貿易戦争の激化、気候変動の影響、インダストリー4.0によるGVC、雇用、人間開発の変化など、重大なリスクに直面している。

「上記の課題に加えて、ベトナムでは、環境に配慮した成長を推し進めながら、継続的な成長とインクルージョンの両立のため、各課題に対し、具体的な行動をとる必要がある。」という点も報告書で指摘されている。

具体的にベトナムは、Industry 4.0が成長と雇用創出に与える影響に備え、適応しなければならないことが示唆された。Industry 4.0の加速はベトナムにとって新たな成長を後押しする要因になる一方、将来の雇用創出に影響を与えることから、チャンスとリスクの両方をもたらすことになる。これまでベトナムの成長を牽引してきた分野において、労働者が、自動化やAIにより、雇用が奪われてしまうことが懸念される。

国際労働機関(ILO)は、ベトナム国内で、70%の仕事が自動化のリスクにさらされていると指摘している。農林水産業(83.3%)、製造業(74.4%)、食品・飲料(68%)、繊維・衣料品(85%)、電子機器(75%)、自動車の卸売・修理(84.1%)、サービス業(約32%)、一般小売業(70%)などが、自動化リスクの高い業界として挙げられている。2018年に発行されたOxford EconomicsCiscoのコラボレポート「テクノロジーとASEANの雇用の未来」では、ベトナムは今後10年間、主に農業、製造業、卸売業、小売業の750万人の雇用がAIに置き換えられると予測されている。しかし、それらの業界内で、現在とは違う形で新たな仕事が生まれ、数百万人が携わることになるので、実際には約170万人の雇用が減ることになる。そのうち、90%は農業部門が占めるという。