現行のベトナムのハイテク法は、2008年に公布され、その7か月後に施行されたものである。外資系企業のベトナムにおける企業経営に関する法律、投資法は、2015年に施行され、2020年に改正された。そのことを鑑みると、ハイテク法は施行されてから、時間が経ちすぎている。さらに、TPPなどの国際的な貿易協定、複数の国間での自由貿易協定などを結んだことにより、ベトナムのビジネス環境は劇的に変化し、現行のハイテク法が、目的と合致しないと指摘されている。

ベトナムは直接投資を促進させ、世界経済との一体化を目指してきた。しかし、ハイテク関連の法律は13年前のまま大きく変わっていない。
世界はイノベーションとテクノロジーにより飛躍的な成長を遂げ、ベトナムも世界と同様に、経済発展した。今後、ベトナムが他のアジア諸国や世界と同じ成長スピードを維持するために、経済基盤を徐々に付加価値の高い製品生産、サービス、技術へ切り替えていく必要がある。この2年間、世界は新型コロナウイルスという予期しない災害に見舞われ、世界経済全体が停止した中、テクノロジー分野だけは影響を受けなかった。
新型コロナウイルスを克服し、経済回復の兆しが見える今こそ、ベトナム経済を再活性化させるために、成長産業やポテンシャルを持つ業種を優先して事業を再開すべきである。それには、革新的かつ、テクノロジー主導で推し進めていく必要がある。政府には、ビジネスの再開の方向性を指し示し、これらの産業を育成することが求められている。
首相はここ数年、ハイテク農業法人や製品の開発、関連企業の基準規制などの仕組みづくりを進めてきた。これは、どのような企業に技術的なインセンティブを与えるべきかを検討・評価するための政府の継続的な取り組みという位置づけにあたる。しかし、実際にはこのインセンティブの利用ハードルが高いと感じる企業が多く、さらに、インセンティブとすら感じていない企業も少なくはない。
現在、政府が示したインセンティブを受けることができるのは、ハイテク企業、ハイテク技術を活用する農業法人、そして科学技術を活用する企業や事業者など、対象が細かく指定されている。
インセンティブ施策である優遇措置を受けるには、事業者が条件を満たし、インセンティブの対象であることを示す、ハイテク企業証明書やハイテク農業法人証明書、科学技術企業証明書などを、取得しなければならない。
インセンティブの対象となる企業は、以下が条件となっている。
- 精密農業、新加工技術、農作物保存製品などのような、政府が指定したハイテク製品の製造、またはハイテク技術の活用を行っていること。
- ハイテク製品からの収益が年間純収益の30~70%を占めていること。
- 研究開発費の総額が年間純収益の0.5~2%以上を占めていること。
- 関連する資格を持った従業員が一定数いること。
上記の厳しい条件を満たした企業に証明書が発行され、15年間法人税率が通常の20%から10%に引き下げられ、さらに、初めの4年間は、法人税が免除される。さらに、特定固定資産の輸入関税免除、国内生産でない原材料の5年間の輸入関税免除などの優遇措置を受けることができる。
他にも、プロジェクトによっては、条件を満たせば、土地賃貸料の優遇措置を受けることができる上、業種によっては国の資金援助や融資を受けることもできる。ベトナムのハイテク技術の促進を目指す姿勢は見て取れたが、この30年間で経済や実際の開発状況が大きく変化したにもかかわらず、ハイテク法は変わらないままだった。インセンティブの対象となる企業の条件見直しを歓迎する企業もあると思われるが、それでは大きなインパクトは生まないだろう。優遇措置の内容や対象となる企業の基準も据え置かれたままなのも問題である。ハイテク企業が経済成長の真の原動力となるためには、ハイテク法の見直しを行い、優遇措置を強化し、企業がそれを利用しやすくすることが必要ではないだろうか。