VinaCapital社は、37億ドルの多様なポートフォリオを運用するベトナム有数の投資運用企業である。現在、EDF Renewables社などの大手エネルギーグループと組み、新たなプロジェクトを進めている。Vietnam Investment ReviewのBich Ngoc氏は、VinaCapitalグループの投資方針と長期戦略について、共同創業者兼CEOのDon Lam氏に話を聞いた。
約18年間ベトナムで活動されてきたということですが、ベトナムの投資環境やパンデミック後の市場の可能性について、現在どのように評価しているかお聞かせださい。

投資環境は大きく変化し、改善の一途をたどっています。先ほど、ヨーロッパや北米の投資家とのミーティングからちょうど戻ってきたところですが、はっきり言えることは、ベトナムが依然として世界で最もダイナミックで魅力的な投資市場のひとつであるということです。
新型コロナウイルス感染症の影響があったとしてもベトナムの魅力は変わりません。今までベトナムは、人口の多さ、中流階級の増加、労働コストの低さ、安定した政府と経済成長といった要因が成長を後押ししてきました。
過去十数ヶ月間に渡ったコロナ禍による経済的な影響から年内の回復へ向けて、直接、間接双方の多くの海外投資資金がベトナムへ流入することに疑いの余地はありません。この投資の恩恵を受けるのは、外国人投資家だけでなく、株式投資を増やしているベトナム人も例外ではありません。
中長期的にはあらゆる業種で好調に推移すると予想しますが、中でも注目すべきは、法人向け不動産、エネルギー、観光・ホスピタリティー業界です。
2021年の10ヶ月間で、認可された海外直接投資は約240億ドルに達し、前年同期と比較して1%上昇しました。これは、ベトナムの力強い回復力と今後の成長見通しに対する海外投資家からの信頼の表れです。サプライチェーンの多様化が進むにつれ、メーカーの製造部門をベトナムへ移行するという強い動きは今後も続きます。それに対応する工業団地では、著しい成長が見込まれます。
ベトナムのエネルギー業界は、今後20年間にわたり、より環境に配慮した発電能力の拡大が計画されていることからも、魅力的な投資先と言えるでしょう。今後10年間で、エネルギー発電容量の拡大に少なくとも1,000億ドルが投資されると予想されます。
新型コロナウイルスで最も被害を受けた観光・ホスピタリティー業界は、ロックダウンや出入国時の隔離といった規制緩和後は、大きな成長が見込まれます。2022年初頭には、海外旅行がより広範囲に再開されるものと期待します。海外からの渡航者数が過去最高を記録したコロナ以前の状態に戻るには少し時間がかかるかもしれませんが、ベトナムが再び外国人旅行者の旅先の選択肢となることは間違いありません。
現在、VinaCapital社はどの業種に注目していますか?また、今後の包括的な開発戦略をどのように打ち出していくのでしょうか?
当社は、主要な資産クラスの商品やプラットフォームを提供する唯一の投資運用会社ですから、当然業種は絞られることになります。上場株式やプライベート・エクイティ投資では、堅調な住宅市場やインフラ整備を支える建設資材、中流階級の増加によって恩恵を受ける消費財、ヘルスケア、教育などが好ましい例です。
また、ベンチャーキャピタル投資では、ハイテク分野に注力しています。当社には不動産グループもあり、工業団地だけでなく、複数の住宅プロジェクトにも取り組んでいます。
ホスピタリティー業界も長年重視してきた分野であり、近年成長が見込まれるエネルギー分野にも、もちろん力を入れています。今後のベトナムの成長により、こうした業種は大きな利益を生むことになるでしょう。
私たちの戦略は、国内最大級の専門家チームによる分析、ベトナムの現状を把握すること、そして投資家からのヒアリングに基づいて練られます。その戦略を、市場機会にアクセスさせる最善策について当事者間で話し合いの場がもたれます。

再生可能エネルギーは、VinaCapital社の長期的な資金調達戦略に欠かせない分野ですが、それについての目標をお聞かせください。
ベトナムは、東南アジアで最大の太陽光発電所を稼働する国となり、2021年末までに発電量が約17GWに達する程、クリーンエネルギーへの転換においてスピード感を見せつけました。このペースで転換が進めば、今後5年以内にアジアのグリーンエネルギー大国になるでしょう。
ベトナムは、2050年までに、二酸化炭素排出量をゼロにするという大きな目標を掲げています。再生可能エネルギーは、エネルギー安全保障の確保と、化石燃料への依存度を下げるという政府の目標において、重要な役割を果たします。再生可能エネルギーが発電設備の総量に占める割合は、改正国家電力開発計画VIIでは16%とされていたのに対し、2030年には30%まで引き上げる計画が盛り込まれています。太陽光と風力のハイブリッド発電計画では、それぞれ2025年に30GW、2030年に34GWを目標にしています。
引き続き、風力発電単体での発電容量の増加も目指します。現在の風力発電容量は4GWに満たず、2025年から2030年の目標値11.8GWを大きく下回ります。政府は、中長期的な計画で、洋上風力発電に、2045年までに36GWという発電目標を掲げており、洋上風力エネルギーが次の大きなトレンドになると見ています。この市場は非常に競争が激化することになるでしょう。
電力の直接購入契約は、今後数年間、経験豊富なエネルギー投資家にとって、興味を引く投資対象となるでしょう。工商省は、発電所から消費者への直接供給を可能にするパイロットプログラムを計画しています。プログラム初期段階では、1GWという制約はあるものの、ベトナムのエネルギー市場の自由化に向けて小さいながらも一歩前進したということです。さらに、このプログラムで売買されるエネルギーには、グリーン再生可能エネルギー証書が発行されることが決まりました。この証書は公開市場で取引され、新たな収益源となるため、多くの国際的な企業に求められています。

現在、VinaCapital社は、再生可能エネルギーの開発という目標に向けて、どのようにプロジェクトを進めているのでしょうか?
液化天然ガス(LNG)については、韓国最大のエネルギーコングロマリットであるGSエナジー社と提携し、メコンデルタのLong An省に3000MWの発電所を開発しています。この発電所はベトナム国内の電力需要の5%以上を供給する南部最大級の発電所となる予定です。新型コロナウイルスの逆風にもかかわらず、2026~27年の運転開始を目指して、着々とプロジェクトは進行しています。この発電所は、ネットゼロ(*1) の長期的目標をベトナムが達成するための、クリーンなエネルギーソリューションとして機能します。
太陽光発電では、屋上太陽光発電事業を展開する当社の子会社、SkyX社が、フランスのEDF Renewables社から多額の投資を受けたことが発表されました。現在、他の再生可能エネルギープロジェクトについても、欧米の大手企業と協議を進めています。当社では、2025年までに2GWの再生可能エネルギープロジェクトへの投資を目指しています。
ここまで挙げたプロジェクトや企画に加え、当社では、バッテリー貯蔵やスマートグリッドなど、ベトナムで展開可能な革新的なエネルギー技術ソリューションなども積極的に検討しています。他にも、バイオマス発電、小型原子炉、水素など、次世代のエネルギー源の開発にも注目しています。こうした既存技術や次世代技術は、電力需要と環境への配慮、その双方を満たすために欠かせない要素となります。私たちは、ベトナムの継続的な再生可能エネルギーの発展のために、将来にわたり長期的に貢献したいと考えています。
EDF Renewables社とGS Energy社がVinaCapital社の再生可能エネルギープラントに選ばれた理由について、どのように捉えていますか?
EDF Renewables社とGS Energy社のような経験豊富なグローバル企業と提携する機会を得られたことを光栄に思います。EDF Renewables社は、再生可能エネルギーの世界的なリーダーであり、他社にはない能力と専門知識を持っています。同社は2020年時点で28GWの再生可能エネルギー容量をもつ発電設備を20カ国以上で運用しており、さらに、8年後には50GWまで増やすことを目指しているのです。また、GS Energy社は、韓国におけるLNG発電所およびターミナル開発の大手企業です。
プロジェクトを成功させる上で、適切なビジネスパートナーを得ることは、とても大事な要素です。なぜなら、よいビジネスパートナーであれば、世界に通用する技術的な専門知識や、プロジェクトを手がけた信頼と実績、そして資金力を持ち併せているからです。
エネルギー分野以外で、民間投資家が注目するインフラ開発の分野はありますか?
海港や高速道路など、ベトナムの長期的な経済成長を支える上で要となる戦略的インフラプロジェクトへの投資に意欲的な海外の投資家は何人もいます。しかし、そうしたプロジェクトは非常に複雑で莫大な費用が掛かります。
経済成長に必要なインフラ投資すべてを政府が負担することは到底無理な話です。そこで、民間部門からの関心と投資を集めるには、官民パートナーシップの規制を民間投資家にとって魅力的なものに改善する必要があります。現在の経済状況ではそうした動きすら難しいことではありますが、規制改革が進めば、より多くの民間投資家がベトナムにおけるインフラの近代化と拡大に貢献することは歴然としています。
(*1)ネットゼロ温室効果ガスや二酸化炭素(CO2)の排出量と吸収量や除去量の合計の差をゼロにするという目標。ゼロエミッションとほぼ同じ意味を持つ。
【Growtheater登録関連企業】