Vietnam Investment Review

保険業界におけるデジタル化の取り組みは遅れ気味と言われる一方で、多くの企業がイノベーションやデジタルソリューションへの投資を活発化させている。AIAベトナムも、その一つで、カスタマーエクスペリエンス(CX)に焦点を当てた世界レベルのテクノロジーに多額の投資を行っている。AIAベトナム最高顧客責任者、Wanda Britton氏とKPMGコンサルティングのパートナー、Nguyen Tuan Hong Phuc氏の両氏が、デジタル化のトレンド並びに2020年からAIAベトナムが取り組むCXトランスフォーメーションについてVietnam Investment Review に語った。

AIAベトナムチーフ・カスタマー・オフィサーのWanda Britton氏(左)とKPMGコンサルティングのパートナーのPhuc Nguyen氏

ベトナムを代表する生命保険会社AIAベトナムが、CXに注目している理由をお聞かせください。

Wanda氏:AIAベトナムは、単なる生命保険会社ではなく、「人生のパートナー」でありたいと考えています。健康で長生きという、より良い人生の追求を、さまざまな商品を提供することでサポートするのです。そのため、健康関連、保証型、リスクのない金融商品のニーズの高まりは意識しています。ベトナムでは、都市部での需要増加、ヘルスケアへの支出を惜しまない中間層や富裕層の増加、高齢化、広がるデジタル志向化などが、このニーズを後押ししています。

新型コロナウイルス感染症の流行が続く中、顧客対応や日々の業務に加え、お客さまとのつながりを強化するためにDX(デジタルトランスフォーメーション)を推し進めました。オンラインコミュニケーションを希望する方に対応するため、デジタルチャネルを活用してお客様満足度の向上に努めています。また、競合他社との差別化を図り、ただ良い商品を並べるだけでなく、個々のお客様のニーズに合う、CX(顧客体験)に即してカスタマイズされた商品を提供する必要があると考えています。

単に、迅速でシームレスな体験を提供するため、最高のテクノロジーを導入するだけではなく、CXに求められるより良いコミュニケーション方法を再構築しています。DXへの移行こそが、オンデマンド商品の提供とCXの向上の両立を可能にするのです。

AIAベトナムは、CXをビジネスの重要な優先事項としてどのように位置づけていますか?

Phuc: CXが自社の戦略の重要なポイントであると、多くの企業が認識しています。それが単なる表面的なマーケティングだけなのか、それとも全社的な本気の取組みなのか、その企業の投資内容を見れば本当に変わろうとしているか判断できます。

AIAベトナムで特筆すべき点は、組織構造に顧客戦略を組み込んでいることです。組織が顧客中心主義を徹底するよう、チーフ・カスタマー・オフィサーが率いる顧客対応専門部署を設けています。

CXの改善の大方はデジタル技術を用いて自動的に顧客データを分析し、効率化を図ることです。

もうひとつ重要なことは、AIAベトナムではCXの本来の意味が解説されているマニュアルが用意されていることです。従業員がCXの取り組みに対し、何を期待されているのか、詳細な行動レベルがマニュアルに記載されています。

さらに、AIAベトナムはCXがフロントオフィスだけが背負うべき事柄ではないことを十分認識しています。顧客中心であるということは、ミドルオフィスやバックオフィスを含むすべての部門が連携して、お客様に良質な体験を提供することを意味します。CXの改善の大方は、デジタル技術を用いて自動的に顧客データを分析し、効率化を図ることです。先端技術への投資は、CXがAIAベトナムにとって重要な優先事項であることを示しています。

投資と開発がすべて完了した後、AIAベトナムのCXはどのようなものになりますか?

Wanda氏:世界中でデジタル化が進み、お客様にとっても、デジタルが身近になったことで、より多くの「セルフサービス」機能の提供が、AIAベトナムへ求められるようになります。現在、毎日のように、デジタルツールを駆使してお客様に満足のいくサービスを提供する代理店への多くの好意的なフィードバックが届いています。現状のCXを最大化させるため、そして、私たちが抱く成長ビジョンを実現させるためには、デジタル化を進める必要があります。

近い将来、その傾向はさらに進み、AIAベトナムも完全にデジタル化されるでしょう。保険に関するアドバイスから、保険商品の購入、契約内容の変更、クレームや苦情まですべてオンラインで処理できるようになるはずです。

KPMGAIAベトナムの変革パートナーとして、果たす役割は何ですか?

Phuc未来のあるべき姿は、お客さまが何を望み、何に不安をもっているのかを明確に理解することから始まります。私たちのこのプロジェクトにおける役割は、AIAによるこのCXトランスフォーメーションのための具体的な導入ロードマップの策定をサポートすることでした。

私たちはまず、カスタマー・ジャーニー(*1)を理解し、お客様が重視すること、そして現在のAIAベトナムとのやり取りで感じる不満を探ることから始めました。こうした問題の根本原因が何なのか、その原因が人、プロセス、技術のどこにあるのかを分析しました。その上で、将来のカスタマージャーニーの設計、プロセスの再設計をサポートし、AIAベトナムのお客様が将来的に望むことを実現するための技術的なアドバイスを行いました。このロードマップの策定において、AIAベトナムのチームをサポートするために、多くの人材を必要としました。

このプロジェクトはまだ始まったばかりですが、すでにAIAベトナムで良い結果を得られ始めています。このプロジェクトの今後をどのように思い描いていますか?

Wanda氏:良い計画を策定することは簡単ですが、最も困難なことはその計画を実行し、実現することです。「ローマは一日にして成らず」という有名なことわざにあるように、同社も、お客様のニーズに合わせて製品やサービスを常に最適化するために、変化と改善というプロジェクトの長い旅路が待っています。新たなカスタマージャーニー、プロセス、テクノロジーを導入することは、単に、私たちの業務だけでなく、お客様を初め、同社と代理店の従業員といった各々の意識を変える必要があります。このマインドセットの変革が最大の試練になると思いますが、実現可能であると見ています。

ベトナムのCXの状況について、どのようにお考えですか?

Phucベトナムでは多くの企業がすでにCXに関して様々な取り組みを行っています。しかし、その多くは単発的かつ表面的なものばかりです。そのため、企業の商品やサービスを知る段階から、購入、アフターサービス、口コミまで、エンドツーエンド(*2)のカスタマージャーニーの体験に一貫性がありません。

例えば、お客様が何かを購入する際のタッチポイント(*3)での体験を重要視する企業が多くありますが、クレーム処理などでは取り組みの不十分さが多く見受けられます。CXがすべてのお客様との接点に組み込まれているような、本当の意味で顧客中心の組織になるためには、戦略的な考え方と、関係部署すべてに渡って調整が必要です。それには目先の利益にとらわれない、長期的な計画、「真の投資」が必要になります。これには時間がかかるでしょうが、ゲームチェンジャーとなることは間違いないでしょう。

最後に、これまでのAIAベトナムチームとのパートナーシップでの印象をお聞かせください。

Phuc氏: AIAベトナムのチームとの共同作業は、困難もありましたが、非常に楽しい経験でした。プロジェクトの初期は、ロックダウン期間中だったため、ミーティングなどすべてオンラインで行われました。まだ直接お互いに顔を合わせたことはありませんが、交流する機会を多くもてました。また、プロジェクト期間中、誰もがロックダウンの疲れを抱えていたので、仕事と遊びのバランスをうまくとる必要もありましたね。両チームが一堂に会して、プロジェクトの達成を祝う瞬間を今から待ち遠しくて仕方ありません。

(*1)カスタマージャーニー
顧客が商品を購入し、利用するまたは、破棄するまでの道のりのこと。

(*2)エンドツーエンド
通信を行う二者、あるいは、二者間を結ぶ経路全体を指す。

(*3)タッチポイント
顧客が何らかの方法でブランドとやり取りする場所またはマーケティングチャネルを指す。主要なタッチポイントには、ソーシャルメディア、製品カタログ、デジタルマーケティングコンテンツ、電話、ライブチャットなどがある。