ベトナムの農産物トレーサビリティシステムは、世界で最も広く普及しているGS1(*1)標準に対応しておらず、既存のアプリはそれを利用する業者間でしか通用しない。
生産物トレーサビリティとは、バイヤーが、生産物の原産地、栽培過程、収穫、流通経路などの知りたい情報を検索することができる仕組みのことである。
市場に商品を流通させるための必須条件として、他の国々ではトレーサビリティが利用されて長いことが経つ。しかし、ベトナムでは、ここ最近になって漸く、政府が農産物のトレーサビリティを推進する方針を打ち出し、導入されるようになったばかりだ。
ベトナムの農産物の価値向上のためには、農家がデジタル対応して、トレーサビリティの仕組みを導入する以外他の選択肢はないと専門家は指摘する。
しかし、現在ベトナムで利用されている農産物トレーサビリティシステムは、バーコードの国際組織であるGS1の標準に合致しないという問題に直面している。同国では、トレーサビリティ管理のため、自動的に生成されるGLN(グローバル・ロケーション・ナンバー)を使用することが大半で、これは同じシステムを利用する組織、業者内でしか通用しない。
この問題により、正確に農産物の原産地を管理・追跡することが困難になる。また、異なるトレーサビリティシステム間でコードの重複が発生することもある。サプライチェーンの中で商品を追跡する際に、複数のシステムの連携で情報通信などに問題が生じる可能性も高い。
National Barcode CenterのNguyen Van Doan氏によると、ベトナムにはGS1に加盟している企業が6万社以上あり、60万点以上の商品にバーコードが使用されているという。さらに毎年、約7,000の企業が新たなバーコードを登録している。
既に多くのトレーサビリティソリューションが乱立し、統一されたルールや規則がないまま利用されていることをDoan氏は不安視する。
現状、トレーサビリティ用のスタンプをスキャンしても、多くの場合、個々の商品の記録ではなく、電子化された一般的な商品情報しか参照できないケースが多いという。
実際に、さまざまなトレーサビリティー・スタンプが押された農産物をスキャンしてみると、どれも農薬使用時期(収穫10日前まで)と肥料使用時期(収穫7日前まで)など、初期設定のままで、情報がアップデートされていないことがわかった。これは、スキャンした情報が当てにならない可能性が高いことを示唆する。
もう一つの問題は、トレーサビリティソリューションの確立に必要な情報が不足しており、データを構成する要素が不完全であることである。
この問題の解決策とは?
ベトナムデジタル農業協会(以下、VDA)のNguyen Thi Thanh Thuc氏は、DX(デジタルトランスフォーメーション)によってトレーサビリティが容易になり、情報の透明性が高まることで、消費者に農作物の情報が伝わりやすくなるという。
同氏は、ブランド保護と原産地偽装の防止が情報透明化の最大のメリットだと述べ、だからこそ、農家が率先してそれを行う必要があると主張している。
農産物トレーサビリティのDX化における最大の難所は、既に法律があるものの、その違反に対する罰則がないことにある。いまだに、卸・小売業者は、原産地の情報がない農産物を販売しているという。これは、透明性を保ち、情報をきちんと公開している農家にとっては不公平なことになる。
一方で、管理する側の行政機関の担当者はこの問題を認識しておらず、農家もまた、自分たちの製品やブランドを守る方法を知らない。
VDAによると、トレーサビリティアプリ市場は、共通の基準を守らないアプリが多く、混沌とした状況だという。ベトナムのトレーサビリティ基準は、世界的に見ても遅れており、農家や企業は、輸出先の国との技術的な障壁に対応することができず、農産物の輸出の妨げとなっている。
政府機関は厳格な管理措置を講じ、現状の不公平な規制を修正する必要があると、同協会は主張している。
VDAの調査では、農家が形式的に栽培を記録するだけにとどまることが多く、トレーサビリティのための記録がずさんであることが判明した。また、書類や証明書、栽培地域コードなどを偽造するケースも見受けられる。
その結果、農産物の管理・監督・流通に対する消費者からの信頼が失われ、市場に悪影響を与えるだけでなく、生産者、消費者の双方が損害を被ることになる。
ベトナムの農産物の知名度と価値を高めるためには、情報の透明化を推し進めなければならない。そのために、まずはトレーサビリティ技術を農産物に適用するよう、農家の意識を高めることが喫緊の課題である。
(*1) GS1世界中にGS1加盟組織があり、現在世界150か国・地域で活用されている、世界共通の商品認識番号の設定方法。商品識別番号をバーコードやRFIDで表す方法。
【Growtheater登録関連企業】
ベトナムの事業投資コングロマリット会社(農業、エネルギー、不動産)