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新型コロナウイルスとインダストリー4.0(第4次産業革命)はベトナム経済に新たな方向性を示すこととなった。中でも、DX(デジタルトランスフォーメーション)は新型コロナウイルスによる経済ショックの打開策や、新たな経済成長の原動力になると考えられている。

先頃開催されたデジタル時代の工業化促進をテーマにしたIndustry 4.0 Summit(インダストリー4.0サミット)で、スポーツウェア・シューズメーカー最大手のAdidasがドイツからベトナムや中国への工場移転に踏み切った理由について、世界銀行のMary Hallward-Driemeier氏が語った。

Finance, Competitiveness, and Innovation Global Practicesのsenior economic advisor of FinanceのHallward-Driemeier氏は、Adidasの工場移転は、ベトナムなどの開発途上国にとって、労働スキルや従業員の連携能力、企業全体のデジタル変革を強化し、企業価値を高めるきっかけになり得ると述べた。

さらに、同氏はサミットで、「ベトナムには、新たなビジネスモデル、労働者のデジタル活用能力、柔軟性、適応性、データ接続性等を促進するための政策と競争戦略のフレームワークが必要です。もはや、低賃金だけでは、競争優位に立つことができないでしょう。」

「現在、インダストリー4.0の流れは加速しているものの、その速度にバラつきがみられ、また、価格などの要因により貿易シフトが起きています。同時に、研究開発(R&D)やグリーン開発への投資の割合も世界的に急増しています。したがって、今こそベトナムDX化への取り組みを、抜本的に改革するうってつけのタイミングであり、これにより生じる大きなチャンスに期待が寄せられています。」と参加者に訴えた。

諸外国の事例

新型コロナウイルスによる経済ショックから立ち直るため、各国は独自にデジタル化やイノベーションに活用方法を開拓し、ニューノーマルに適応していくことになる。韓国の科学技術副大臣Yong Hongtaek氏は、「世界中の専門家の間では、新型コロナウイルス終息後、新たな世界秩序が生まれると信じられていますが、科学技術こそが私たちの未来を創るのです。」と科学技術やデジタル技術の重要性を訴えた。

韓国では、研究者やベンチャー企業に対する政策を打ち出し、莫大な予算を割り当てている。2021年には革新的な企業、イノベーションセンター、企業のデジタル変革計画のために、2018年の経費の倍の規模となる約1億8000万ドルの予算を計上した。また、今後も、予算の増加トレンドが続くと予想される。

「このような状況において、ビジネスにおけるDX化に踏み切るかどうかは、一企業の発展だけでなく、経済そのものの未来をも左右することになるのです。同様に、研究者やベンチャー企業がリスクを負って研究開発活動を行うための十分なリソースを保有し、開発した製品を商品化するための独自の方法を得れば、経済が回復するだけでなく、長期的な発展をもたらすことになるでしょう。そのため、政府はこうした活動を支援するインセンティブ政策を構築すべきなのです。」と韓国の政策を例に挙げ、ベンチャー企業や研究者を支援する政策の必要性を訴えた。

また、韓国では1カ月前に、データの構築、送信、利用などの規則を定めた「Data Framework Act(データフレームワーク法)」が公布された。まだ曖昧な点が残るものの、この問題に関しては世界で初めて制定された法律となる。企業やユーザーが強制力を持つことになり、韓国が転換を謳うデータエコノミーに関連した産業の成長へつなげることになる。

米国ユタ州知事のSpencer J. Cox氏は、「イノベーションと技術進歩を促進し、経済成長とユタ州の生活の質を向上させるために、600エーカーの国有地を提供します。」とイノベーション創出のため、支援する姿勢を強調した。

同州にある、Silicon Slopes(*1)と呼ばれる、スタートアップと技術コミュニティのハブエリアを取り上げ、同州の技術系スタートアップに、知識共有やネットワーキングの機会を提供し、誰もがビジネスチャンスを得て起業できるようサポートするという。

地元企業による開拓

経済の回復と発展、産業化と近代化を進めるプロジェクトや政策の対象とされる一つが、企業のビジネスである。多くの企業が政府の支援のもと、科学技術に基づくイノベーションとデジタル変革の流れを先取りし、競争力の向上とグローバルなバリューチェーンへの参画を目指している。

また、Vietnam Chamber of Commerce(ベトナム商工会議所)のPham Tan Cong会長は、第3回インダストリー4.0サミットで、企業組織の再編を行い、ビジネスのデジタル化に対応し、変革を後押しする支援の必要性を訴えた。「このような変革が、ベトナムのビジネスに新たな原動力を生み中長期的に、新たな産業構造の転換をもたらし、第13回全国党大会が提唱した工業化と近代化の目標実現への貢献につながります。」とCong氏はコメントした。

Viettelの会長兼CEOであるLe Dang Dung氏は、同社がパイオニア的存在として、国家のイノベーションプロセス、特にデジタル変革を牽引していることを強調した。

Viettelはデジタル金融、コンテンツ、コマース分野のパイオニアとして、求められるプラットフォームを開発し、世に送り出しています。また、研究開発でも業界をリードする存在であり、コアテクノロジーを習得し、グローバルスタンダードのハイテク製品を生み出しています。」とDung氏は述べた。さらに、「私たちの主な目標は、ベトナムのDXや、ハイテク産業の研究開発を、世界水準まで高めることです。」と同社が抱く目標を語った。

Vietnam Posts and Telecommunications GroupのCEOであるHuynh Quang Liem氏は、経済回復におけるデジタル変革の役割についてとりあげた。同氏は、「我々は、企業のデジタル化を支援する企業として、新型コロナウイルスショックからの迅速な回復と、より効率的な生産を支援するための解決策を提供します。」とデジタル化を推し進める姿勢を明らかにした。

一方、Trung Nam Groupのgeneral director、Nguyen Tam Tien氏は、インダストリー4.0には2つの課題が伴うことを指摘する。「まず、人々が利用するすべてのデバイスがインターネットに接続されていなければなりません。次に、人の業務量を削減するためには、必ずソフトウェアを活用する必要があります。デジタル化は産業の発展において、多くの問題を解決し、作業効率の向上に貢献します。」とデジタル化のもたらすメリットについて言及した。

ソース: VIR

 (*1) Silicon Slopesスタートアップが集まる米国西部の強力なテックハブとなるエリア。