2022年、不動産業界のM&Aは、その取引額、頻度ともに増加するとみられ、資金調達の好材料となることが期待される。しかし、海外投資家は、取引を進めるにあたり潜在的な障壁が伴うことに留意すべきだろう。
ベトナムにおけるM&A市場は活況を呈している。2021年、不動産事業者は外国直接投資(FDI)登録額310億ドル以上を受入れた。しかし、払込資本は前年同期より16億ドル減少し26億ドルにとどまった。
2022年のM&Aの見通しは明るく、ベトナムは国際的な企業にとってますます魅力的な投資先となってきた。3月15日に入国制限が解除され、13カ国からの旅行者がビザなしでベトナムに入国できるようになった。投資家が現地に赴き、市場調査やビジネスモデルの把握、用地のポテンシャル評価等が可能となったことで、他の不動産投資案件とともにM&Aも自然増えるものと期待される。
FDIの誘因
Savillsは、ベトナムが投資先として魅力的である主な理由として、2つの要素を挙げる。第一に、安定した経済成長、政治的安定、インフラ改善、都市化の進展、若い労働力の豊富さなど、有利なマクロ要因を投資家に提供していること。第二に、政府が海外投資家に対して、税制上の優遇措置など魅力的な支援策を講じていることにある。
この国のインフラと交通ネットワークは、国内地域間の道路網拡充にとどまらず、国境、陸海空交通の要衝をつなぐ。
計画投資省によると、インフラ整備に48億ドル以上を投じ、過去最大規模の社会経済開発回復計画を打ち出す予定だという。交通網が整備されれば、ハノイやホーチミンなどのハブ都市を越えてさらに遠方まで進出出来るようになり、その2都市と関りの深い衛星都市もまた外資系企業を誘致する可能性が高まる。
「2022年に入ってこれまでのところ、M&Aは活発に行われています。投資受入れ額第2位の不動産分野では約15億2千万ドルを受け入れました。これは登録FDI全体の30.4%に相当し、海外投資家がベトナムの不動産プロジェクトに依然として乗り気であることを示唆するものです。」とSavills Hanoiの投資部門責任者であるLe Thi Phuong Lan氏はコメントした。
M&Aの障壁
ベトナムは極めて大きな投資ポテンシャルがある一方で、法律の壁、合弁パートナーとの関係性、M&Aプロセスの不確実性、異なる価格設定アプローチなど、ベトナム市場ならではの制約に注意を要するとLan氏は懸念を示す。
「ベトナムの土地に関する法律は、相対的に複雑です。法律間の矛盾を数え上げればきりがありませんが、その結果、無駄な時間とコストがかかってしまいます。ここ数年の制度改革にもかかわらず、こうした欠陥がM&A取引の妨げになっているのです。」とSavillsの専門家は指摘する。
ベトナムへ進出する外資系企業は、ほぼジョイント・ベンチャーとして参入するのが常である。外資系企業が主な意思決定権を持ち、ベトナム人投資家は法的支援を提供するというビジネスモデルを踏襲している。しかし、商習慣や法体系の違いから、交渉に時間を要すことになるようだ。
「ベトナムではM&Aが比較的新しい概念なので、大半の企業、特に中小企業おいてはそのプロセスに対する準備がまだできていないのです。」とLan氏は言う。具体的なダイバージェンス(*1)プランがない大型プロジェクトは、投資誘致やプロジェクト移管に苦労することになるかもしれない。
買い手と売り手の価格設定の考え方が異なることがよくあることも最後にここで触れておく。デベロッパーの期待と買い手の希望価格に差があることが多く、お互い合意に達するまで交渉が難航しがちである。
「M&A取引の人気はますます高まっていますが、海外投資家に立ちはだかる潜在的な障壁はまだあります。M&A取引は総じて複雑なので、長期的な価値の確保が問われることになるのです。そのため関係者には綿密な調査と計画の策定が求められるでしょう。ベトナム市場への参入と国際的なクライアントを支援してきた経験から、FDI企業のニーズとそれに伴う懸念事項はよく理解していますからね。短期的な利益だけでなく、M&A取引における長期的な価値の創造こそ、目指すところなのです。」とSavills Hanoiの投資部門責任者はつけ加えて言った。
(*1) ダイバージェンスとは、相場の値動きとテクニカル指標等の動きが逆行する現象
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