米国のブロックチェーン分析会社であるChainalysisのレポートによると、2021年、違法な暗号通貨取引は140億ドルに達し、2020年に記録した78億ドルから79%も急増したという。
これは2021年の取引が567%急増したことに起因している。取引全体が15.8兆ドルに成長したことを考えると、サイバー犯罪者が暗号通貨を多く利用するようになったことは驚くに値しない。暗号通貨取引総件数に占める違法取引件数は増加しているものの、割合はわずか0.15%に過ぎず、過去最低を記録している。これは、合法的な暗号通貨取引が違法取引をはるかに上回っていることを意味する。
犯罪の発生源は、詐欺と盗難が最も多く、大部分は分散型金融(DeFi)に起因していると報告されている。盗まれた暗号通貨の被害総額は78億ドル相当となり、82%急増した。このうち28億ドル以上は、「rug pull」と呼ばれる新しいタイプの詐欺被害であった。
「rug pull」とは、合法的に見える暗号通貨プロジェクトや取引所に投資した資金を持って開発者が姿をくらます詐欺の一種である。
盗難も516%増加し、およそ32億ドル相当の暗号通貨が被害にあった。その72%にあたる22億円はDeFiプロトコルから盗まれている。
DeFi(分散型金融、ディーファイ)とは、任意のブロックチェーン上で動作するツールやアプリケーションからなる金融エコシステムのことで、個人が従来型の金融機関などの仲介なしに資金の支払い、貸付や借入、保管を行うことができるというものである。
DeFiは、ロンダリング行為で前年比1,964%と最も大きな伸びを示し、2位はマイニングで500%未満の伸びとなっている。Chainalysisのレポートによると、2021年の取引件数が912%も増加した要因は、「柴犬の取引(仮想通貨SHIB 柴犬コインの取引)」のようなもので、分散型トークンの驚異的なリターンがDeFiトークン( DeFiプロトコルが発行する独自トークン)への投機を促し、またDeFiトークンの作成が容易になったことに起因する。
Chainalysisは、DeFiが暗号通貨ユーザーや起業家にもたらす大きな機会である一方で、盗難や詐欺が蔓延することにより、その可能性を完全に実現することはできないと考えている。また行政は、投資家に対して怪しいプロジェクトを回避する方法を伝達するべきであるとも提言している。業界は、長期的な戦略として「詐欺や安全でない可能性のあるプロジェクトに関連するトークンが主要な取引所に上場される」ことを防ぐ必要があるのかも知れないと提言している。
Chainalysisのレポートでは、暗号ベースの取引や収益とは別にブロックチェーン上のアドレスが所有する暗号通貨のうち、犯罪被害額は30億ドルから110億ドルに増加したことも示されている。また、Chainalysisによれば、このデータは法執行機関が理論的に回収できる金額を示しているため、非常に重要であると指摘している。犯罪被害額の93%は盗難によるもので98億ドル、次いでダークネット市場の資金が4億4800万ドル、詐欺が1億9200万ドル、詐欺ショップが6600万ドル、そしてランサムウェアが3000万ドルとなっている。
Chainalysisの同じレポートによる別の分析結果では、4,068人の「犯罪的クジラ」(*1)が250億ドル以上の暗号通貨を保有しているとしている。Chainalysisによれば、「犯罪的クジラ」は、100万ドル以上の暗号通貨を保有するプライベートウォレットを持っており、その資金の10%以上は違法なアドレスから受け取っていると説明している。ただし、「犯罪的クジラ」の保有している暗号通貨総額は全体の犯罪被害額と一致しないことに注意することが重要だ。全体の犯罪被害額が不正とタグ付けされたアドレスの保有量のみを計算する一方で、プライベートウォレットのすべての保有量(合法と違法の両方)を計算するためだ。 「犯罪的なクジラ」は、100万ドル以上の暗号通貨を保有するプライベートウォレット保有者のわずか3.7%を占めるにすぎない。
暗号通貨犯罪が大幅に増加している一方、好ましい発展として、法執行機関が犯罪者から違法な暗号通貨を押収する能力が高まってきている。例えば、アメリカの内国歳入庁犯罪捜査局(IRS-CI)は、2021年に35億ドル以上の暗号通貨を押収した。また、アメリカの司法省(DOJ)がコロニアルパイプラインへの攻撃を担当したダークサイド・ランサムウェア運営者から230万ドル相当の暗号通貨を押収している。ロンドン警視庁(MPS)は、マネーロンダリングの疑いのある人物から1億8000万ポンド相当の暗号通貨を押収した。
今月初め、アメリカではIlya LichtensteinとHeather Morgan夫妻を盗難による119,754ビットコイン相当の暗号通貨の資金洗浄を共謀した疑いで逮捕・起訴した。この夫妻は、2016年に起きた暗号通貨取引所Bitfinexからハッキングによって盗まれたビットコインの資金洗浄をしたとされる。当時、被害にあったビットコインの価値は、現在の価値と比べるとごくわずかで7400万ドルであった。夫妻が非ホスト型ウォレット、ダークネット市場、チェーンフーピング、ピールチェーン、プライバシーコインなど高度な資金洗浄手法を使っていたにもかかわらず、司法省(DOJ)は資金洗浄された45億ドル相当のビットコインのうち36億ドル以上を回収することができたという。同機関は、過去最大の金融押収作戦だと位置づけている。
(*1)犯罪的クジラ
巨額の資金をハンドリングする機関投資家のことを、俗にクジラと呼ぶ。犯罪的クジラとは、100万ドル以上を保有する犯罪者を指す。